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田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド

田舎の猫 故郷に帰る(1)

虹乃音子

 「懐かしい匂い……」
 私は今、故郷のグリーンフィールドの家に帰って来ている。シーオーシャンに旅立ってから約1年の月日が経っていた。
 
 短いようで長かった旅路『見事に迷ってたわよねぇ……』を無事に終えた私は、シーオーシャンで飲食店の仕事に就くことができた。昼間はシーオーシャンで仕事し、夜は相変わらずファティマ村で過ごすというライフスタイルを定着させている。
 
 シーオーシャンは都会だし海にも面しているしで、仕事をしたり遊んだりするのには良い所だけど、その分物価も高くて住むには不便なのよね。元の世界の首都みたいな感じで。
 
 それに村には持ち家もあるし友だちもいる。健康ランドでカラオケして過ごすのも楽しいしさ。
 
 そんな訳で、バックドアを使って毎日出勤と帰宅を繰り返しながら生活している私だけど、最近ちょっと思う事があって……。久々に故郷に帰ることにしたのだ。
 
 グリーンフィールドを出る時は未だバックドアを持ってなかった事もあって、ここにはリターンポイントが設定されていない。でも10年間過ごした故郷の家に、フロントドアで跳ぶ事は容易いことだった。
 
 グリーンフィールドは山間(あい)の田舎町なので草木の香りがする。シーオーシャンの潮風の香りも良いけど、やっぱり故郷の匂いはホッとする感じ。
 
 「変わらないな……」
 私は故郷の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら呟いた。

メイ

 「あれぇ、もしかして音子ぉ? 帰ってきてたのぉ?」
 
 「げっ!」 
 そ、その声と語尾が微妙に間延びした喋り方は……。焦って振り返ると、そこには我が幼馴染みの姿があった。
 
 彼女の名前はメイ・ヒストリア。私がこの世界に来て出来た最初の友だちであり、去年まで同じ高校に通った同級生でもある。
 
 彼女は犬人と分類される獣人で、その辺も猫人の私と立場が似ているため、取り分け仲が良かった。犬と猫とは仲が悪いのではって? それは間違った認識である。多分ネズミと猫が追っかけっこする昔のアニメの影響なんじゃないかな? ヨーツーブには飼い猫と飼い犬が仲よく寄り添ってる映像がいっぱいあるから1度観てみる事をお薦めするわ。
 
 さて、そんな仲が良かった幼馴染みとの遭遇で何故「げっ!」なのか……。その理由は2年前に遡るんだよね。
 
 「ひ、久しぶりねメイ。元気だった?」
 「とぉっても元気ぃ。音子も元気そうで何よりねぇ」
 「ありがと。ところでさ……アレってどうなった? 何か分かった?」
 「あれ? あぁ、ブルードラゴン……アオちゃんのことぉ?」
 「そう、それ」
 「あれ以来何も聞かれないしぃ、噂話にも上らないわねぇ」

ブルードラゴン

 それを聞いて私はホッとした。2年前に突如としてグリーンフィールドを騒がせたブルードラゴン事件。その事件の真相を知る者は少ない。
 
 そして、その数少ない真相を知るものの中に私とメイがいた。

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