人笑人バンド愛媛大学演奏ツアー珍道中その6

7時20分 みんながそろそろ食べ終わりそうだという頃に、こーへいは降りてきた。寝癖もなく髭もいつ剃ったんだろうというくらいきれいに身支度していた。みんなに遅くなってすみませんと挨拶してすぐに、朝食バイキングへと向かった。そういえば、朝食チケットの話はしてなかったのに、みんな忘れずに持ってきていた。
こーへいも、さらにてんこ盛りで現れた。みんなトイレ大丈夫なのかなぁ。心配してしまうほどだった。

7時50分 みんな終了して一度部屋に戻る。8時20分にロビーに必ず集合してくださいねと伝える。9時からリハーサルをしてみることになってたので、遅くとも8時45分には会場に入らないといけない。ホテルから会場、大学まで、一番心配なよしこの歩くペースを考えると8時20分出発がギリギリ。

ホテルからロープウェイ通りを大学に向かう。松山城に登城するためにはこの通りを通るのだが、ここは緩やかな坂になっている。たしか、愛媛マラソンのコースだったような記憶がある。バッグはホテルに預けているので良いのだが、楽器を抱えてメンバーは移動する。よしこは楽器の運搬はないが、この坂道がきつい。ここで一番早かったのが、電動車椅子。アシスト付き自転車と同じようにあの程度の坂道ならスイスイと登ってしまう。車椅子を押さないといけないかなと思っていただけに安堵した。せっかくだからメンバーの荷物を小脇に抱えて坂を登ってもらおうとお願いした。これまた助かった。坂を上り切るとあと少しで大学に着く。少し広い国道を横断歩道を横切り、路面電車の踏切を渡ると、大学の正門はある。8時45分。会場はそこからすぐなのだが、ちょっと予定時間よりも遅れた。正門で集合写真を撮り、会場に向かった。

会場は、大学の大講義室。
控室に行ったり、関係の方々と挨拶するよりも前に、楽器をセッティングして、2曲実際に演奏してみないと落ち着かない。
テクニカルの問題も当然確認する必要があるが、何より本人たちがこの会場に慣れて、いつも通りの演奏をしないと全く意味がない。楽器の配置は、会場に入ってからと決めていたので、てんやわんやになってしまった。思いの外、メンバーは全く動じず【いつも通り】ができた。ちょっと浮ついていたのは、わたしだった。

楽屋に移動。たくさんのお偉いさん方がいた。名刺交換をしながら、バンドメンバーを紹介させてもらった。これまで、演奏するところといえば、同じように障害があり、それぞれに活動している当事者団体が集まるイベントだったから、今回はまるで違った。文部科学省の人だったり、国会議員だったり、当事者は周りを探してもほとんどいない。だから、逆に誇らしかった。同じ土俵に立てたと。よく、発達障害の人たちのことを、周りと比べても見分けがつかない、わかりにくい障害だと言うことがあるが、そんなことはない、見分けはすぐにつく、そんな集まりだった。こんな光景、あー、グレイテストショーマンのワンシーンであったなぁ。

本番まであと10分。よしこ、は眠くて仕方がないという。ここまで来ると、こっちも対応してられない。眠くても演奏するもんだ。ミュージシャンなんでしょ、あなたは。

そしてイベントは幕が開いた。本当のトップバッターだ。

Emceeは私がした。いつも通りのバンド紹介から、曲紹介。今回は15分ほどいただいていたので、3曲演奏した。コンドルは飛んで行く、let it be、ボレロ
客席には、愛媛県教育委員会やら大学関係、そして文部科学省、国会議員。
その人たちを前にして今演奏している。不思議な光景だ。ここまではつぶやけた、頭の中で。

我々の売りは、間違えたらもう一回仕切り直して再挑戦。そのご唱和を、会場全体でした。文部科学省の人たちも一緒に「もういっかい」と叫んで、両手を天に上げた。この光景、写真に撮りたかったな。
こんなバンドおそらくないだろうから、会場みんな笑ってくれた。
人と人の間に笑いがある。まさにだった。間違えることを笑うのではなく、間違えたら挑戦し直すその姿勢がユーモアがあり、それをエンターテインメントとして笑ってくれた。

コメディアンは笑われてナンボ。コメディアンとして笑ってもらっているのであって、一人の人間として笑われているのではない。

障害があるから、というと適切な表現ではないと思うが、平均的に失敗しやすかったり間違いやすかったりするのは間違った解釈ではないと思う。
今の障害者に対する配慮なのか支援なのかはわからないが、失敗しないように間違わないようにすることが、平等性というのかを担保する考え方の大きな基本になっていると私は感じている。
障害者が失敗しないように間違えないように頑張る姿が素敵だったり、失敗しても取り組む姿勢は見習うべきだなどという考え方もある。それらが感動を呼ぶなんてのもある。あるいは、失敗したり間違えたりしたときに、温かい視線で、仕方ない、頑張ってるんだからそれが美しいんだというそんな感動物語もあったりする。

諸刃の刃かもしれないが、障害があって、失敗したり間違えたりしたときに、それが周りの笑いを誘うことはあってもいいと思う。笑いはもちろん楽しませるという意味で。

我々のバンドでは、正直誰が間違えるかわからないし、私かもしれないし、こーへいかもしれない。

演奏会で、間違えるという御法度、間違える人が障害者という御法度、間違える人がいわゆる健常者と言われる人で障害者と言われる人はその失敗を笑っているという御法度。

御法度もこれだけ重なれば、笑いにしかならない。

演奏がうまくて、利発そうな顔をしていて、偉そうな人が、思い切り間違える、でもそれを楽しめる、究極に楽しいエンターテインメントじゃないか。

人笑人バンドはそれを体現してくれる。そして、客席にいる、今この国を動かしている人たちを目の前にしてそれを実行してくれた。これだけで十分なパフォーマンスだ。

ちなみに、本番で間違えたのは、私。しかも2度も💦

偉そうなこと言っていた【私】が間違えた。

そんなこんなで15分はあっという間に終わった。いただいた拍手の量は、福岡での演奏の方がはるかに多かったが、拍手の質は、今回めちゃくちゃ高かった。

終わって控室に戻ると、先程のお偉いさん方は、私にではなく、メンバーに労いの言葉をかけてくれていた。みんな偉いもんだ。よしこは、眠気も吹っ飛び、意気揚々としていた。もう演奏ないんだけど。かいえ、は安堵の表情を浮かべていた。相変わらず、手は震えていた。
こーへいは、早速にも外で、ノンアルコールカクテルを買ってきて飲み始めていた。
彼はそこに売っていた全てのメニューを飲み尽くしたらしい、後日報告受けたのだが。もうトイレの心配はしなくて良いから思う存分飲んでください。

私は、演奏の後、シンポジウムに登壇し、その後電動車椅子組と公開ラジオ番組をすることになっているので、メンバーと一緒に行動できない。私は着替えて会場に戻った。

メンバーは、愛媛大学から道後温泉まで歩いて散策を楽しんだらしい。あれだけ疲れやすいよしこも、意気揚々としているからそんな距離も苦にならなかったようだ。片道2キロくらい。

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