映画界の安藤忠雄。上田慎一郎監督「カメラを止めるな!」をネタバレなしで解説。
「絶対見た方がいい、なんでかは言えないけど」
という声が溢れている話題の映画「カメラを止めるな!」
観た人(感染者)「オススメだけど、観た時の面白さが減ってしまうので可哀想だからネタバレできず説明しにくい。とにかく行ってくれ」
↓
聞いた人「よくわからないが、行かないとわからないから行ってみるか」
(その後感染)
という優しさが溢れる流れで拡散している。
なのでこれ以上の紹介は野暮なんだけど、「よくわからないから行かないでおこう」というひねくれた人のために、どこまでネタバレなしで映画「カメラを止めるな!」を絶賛できるのか試してみる。
それでもネタバレになるのではという慎重深い人は、この記事を読まないで映画館に行って欲しい。
本作のキャッチコピーには「最後まで席を立つな。この映画は二度はじまる。」である。だからこの「二度」については解説してもいいのだろう。
松本人志が伝説のラジオ番組「放送室」で次を語っていた。
いまの観客には「二度ボケ」しなあかんねん。こういうボケがきたらこういうオチになる、って展開をもう観客は知っとんねん。だからオチを予想させて、そこをずらしてまたボケるっていう二度ボケしなあウケへんねん。
「カメラを止めるな!」はこの二度ボケをまさに体現している。映画の紹介ページ自体がミスリードで、二度ボケの前フリになっている。観客を騙すには予測をさせればいい。観客は自らの予測に酔って、展開がこうなるはずだと固く信じてしまう。その結果、展開を裏切るときのインパクトが大きくなる。
この手法はピクサーの最新作、映画『リメンバーミー』でも分かりやすく使われていた。世界的に二度ボケになってきてるんだろうか。ちなみに「カメラを止めるな!」ではおまけが付いているので正確には三度ボケだ。
そしてこのボケの多重構造がリアリティの演出になっているのが素晴らしい。最近の番組はテラスハウスやバチュラーといった恋愛リアリティショーが花盛りだけど、恋愛に限らずリアリティをとにかく求められる。
情報が溢れるなかで、リアルな情報しか観たくないという心境が働いている。フェイクニュースさえもリアルな表現を競う。だから映像を撮るにしても、その映像を撮っている人を撮るというメイキング風リアリティの演出は多くなっている。
「カメラを止めるな!」のストーリーの紹介も次の通りだ。ゾンビ映画を作っている人の話だと書かれている。
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。
絶賛されているのは、このメイキング風リアリティの演出をさらにひねって次元をあげてきたことだ。二次元が三次元になったような、これまでの映画に比べて情報量が格段にあがっており、それがリアリティを高めている。
キャスティングも素晴らしい。全員無名だ(失礼)。それについては詳しいインタビューが次に載っているが、飛び先はネタバレありなので観てから読んでほしい。
ネタバレしないものをピックアップして紹介したい。
上田監督:伏線と回収がうまいですね、と言っていただくことが多いですが、伏線を回収するのは難しくない。まず回収を決めてから、伏線を考えますから。難しいのは、伏線を張った痕跡を消すことですかね。
未来から過去へ、時間の流れを逆に観ていけばよいとスルっと言っている。
リメイクについて聞かれた時の答えも痛快だ。
上田監督:僕の考えでは、日本のメジャーなキャストで撮ってもいいことはないと思う。低予算で無名の俳優たちだからこそ成功している映画かな、と。みんな知らないキャストだからこそ誰がどうなるかという展開も読めないし。知らない人が演じることで、逆に身近に感じられることも大事なポイントですしね。
キャストと脚本についても、すべて当て書き(キャストを決めてから脚本を書く)で、キャスティングのテーマは不器用だという。
市橋浩治プロデューサー:過去の作品を観て、力のある監督だと思っていたのでオファーしました。シネマプロジェクトは、2人の監督が、オーディションで選ばれた役者24人を12人ずつ選んで、それぞれのワークショップを通じて映画製作する、というものです。
上田監督:まだ『カメ止め!』を撮ろうと決意する前から、「不器用なひとが一つの困難を乗り越えていく物語を描こう」と思っていました。ですから、選んだ12人の役者はみんな、そもそも不器用な人たちです(笑)。
演技のベテランでなくても、不器用な人は不器用な役を演じることができる、というなるほどなあ。
映画づくりの中では観客が求めていることをマーケティングして、「観客はこれを求めているから、こうしよう」という流れがあるんですが、これって観客のことを考えているようで、実は自分たちの儲けを考えているんじゃないか?と感じる時がある。観客が今これを求めている、と決めつけることは危険だな、と。それより、今、自分が最高だと思うものを信じてやるしかない。その側面からすると、観客のことを考えている、と言えますかね。
どうしても普遍性を求めてしまうマーケティングと、独自性を求める作家性はトレードオフになることがよくあるけど、この映画では後者が勝利している。
先日川村元気さんと対談させてもらったとき、話しているときはマーケティング的な視点でとても聡明だったけど、それは映画プロデューサーとしての顔で、小説家としても活動することでマーケティングと作家性のバランスをとっているのかも。
塩田明彦監督が書かれた『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』の中で、「作り手は無意識を強化するべきだ」というような言葉があったんです。大量のインプット(映画、本、人との出会い)をして、無意識を強化すれば、『カメ止め!』のセリフでもあるけど「自分で出すんじゃなくて勝手に出てくる」ようになる。浴びるようにインプットすれば作りたい気持ちが溢れ出てくる。僕は思春期のころ、学校出席日数ギリで、ずっと家でゲームしたり映画観たりしていたんですよ。その膨大なインプットが「無意識の強化」になっていたんじゃないかと、今振り返るとそう思います。
そういえば川村元気さんも高校時代は今でいう陰キャで、家でレンタルしてきた映画を数百本みていたという。その経験がなければ今はないと。引きこもりにも夢がある話!
ちょっと脱線しちゃったけど映画「カメラを止めるな!」は最高!大好き!
監督・脚本・編集の上田慎一郎さんともいつか仕事してみたいなあ。
元ホームレスで映画を独学で学んだという。元ボクサーで建築を独学で学んだ安藤忠雄を思い出した。氏の出世作「住吉の長屋」は住宅の中に外部を取り込み、野生と住居を一緒にしてみせた。二人とも野生の知性という意味では近い。
上の話にでている「無意識の強化」については余談なので興味ある方のみに。
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