凍結精子をめぐる最高裁判断について性同一性障害特例法を守る会性同一性障害特例法を守る会2024年6月23日 17:49PDF魚拓





性別変更後に凍結精子で生まれた子と親子関係認める 最高裁

2024年6月21日 19時40分

戸籍上の性別を男性から女性に変更した当事者が凍結保存していた自分の精子で生まれた娘との親子関係を求めて起こされた裁判で、最高裁判所は21日、親子関係を認める判断を示しました。

戸籍上の性別が女性に変更されたあとに生まれた子どもについて、法的な親子関係を認めた判断は初めてです。

性同一性障害と診断され、戸籍上の性別を男性から女性に変更した40代の当事者は、変更する前に凍結保存していた自分の精子を使って30代の女性との間に2人の娘をもうけました。

娘の「父親」としての認知届を自治体に出したものの認められず、家族で裁判を起こしました。

2審の東京高等裁判所は、性別変更の前に生まれた長女については「父親」の認知を認めた一方、変更後に生まれた次女については認めず、上告していました。

21日の判決で最高裁判所第2小法廷の尾島明裁判長は「親子に関する法制度は血縁上の関係を基礎に置き、法的な関係があるかどうかは子どもの福祉に深く関わる。仮に血縁上の関係があるのに親権者となれないならば、子どもは養育を受けたり相続人となったりすることができない」と指摘しました。

その上で、裁判官4人全員の意見として「戸籍上の性別にかかわらず父親としての認知を求めることができる」という初めての判断を示し、性別変更後に生まれた次女との親子関係を認めました。

今後の親子関係や性別に関する議論に影響を与える可能性があります。

性別変更と長女・次女誕生の経緯

当事者は性別適合手術を受けて2018年に戸籍上の性別を男性から女性に変更しました。

その前、凍結保存していた自分の精子を交際相手の女性に提供し、長女が生まれました。

性別を変更した後の2020年にも同様の方法で次女が誕生しました。

長女も次女も戸籍上の「父」の欄が空欄になっていたため、同じ年に父親としての認知届を自治体に出しましたが、当事者の戸籍が女性に変更されていたため認められませんでした。

このため家族で裁判を起こしましたが、1審の東京家庭裁判所は「いまの法制度で法的な親子関係を認める根拠は見当たらない」として訴えを退けました。

一方、2審の東京高等裁判所は性別変更の前に生まれた長女については「父」として認知を認めた一方、次女については「性別変更後に生まれたため『父』とは認められない」として訴えを退けました。

次女の代理人 弁護士「常識的な判断」

判決のあと、次女の代理人を務める仲岡しゅん弁護士が会見を開き「親と子どもの双方が法的に親子になりたいと考え、なおかつ実子であるという中、最高裁判所はその事実をシンプルに認めた。ある意味、常識的な判断をしたと思う。性的マイノリティーの親を持つ子どもの権利を認める判決だ」と話しました。

また「父」として認められた女性のコメントを読みあげました。

コメントでは「子どもの権利のことを考えたうえで、今の時代にアップデートされた判断だと感じています。親子関係が認められたことはうれしく思っています」としています。

2人の裁判官が意見

今回の判決では、2人の裁判官が個別意見を述べました。

尾島裁判長「特例法も子をもうけること禁じていない」

裁判官出身の尾島明裁判長は性同一性障害特例法との関係について指摘しました。

特例法では要件の1つとして、未成年の子どもがいないことを求めていますが、尾島裁判長は「特例法は、性別変更後に生殖補助医療を使って子どもをもうけることを禁じていない。変更前に生まれた子どもからの父親の認知も排除していない」と指摘し、矛盾はないとしました。

また生殖補助医療に関する議論について「精子提供者の意思への配慮や提供者の意に反して使われた場合の親子関係が問題になっている」として、今回はそうした問題の結論になるものではないとしています。

三浦裁判官「法整備の必要ありながら現実先行」

検察官出身の三浦守裁判官も特例法の要件の1つについて「生殖補助医療の利用で子どもが生まれる可能性を否定していない」と述べました。

また、生殖補助医療をめぐる現状について「技術の発展やその利用の拡大で生命倫理や家族のあり方などさまざまな議論がある。法整備の必要性が認識される状況にありながら20年を超える年月が経過する中ですでに現実が先行するに至っている」と指摘しました。

専門家「子どもの福祉を重視し的確に解釈」

性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は、最高裁判所の判決について「社会の動きや医療の変化、当事者の現状に寄り添い、子どもの福祉を重視して的確に解釈した。人の性別は法的に変わりうるということを正面から見据えた判断だ」と評価しました。

性同一性障害特例法では、性別変更する際の要件の1つとして「未成年の子どもがいないこと」を求めています。

こうした要件との関係について聞くと「特例法ができた時は合理的な要件だったが、20年以上たって医療が進歩し、多様な性のあり方に対する人権の認識も広がっている。今回の判断は法律そのものにも重要な影響を与える可能性がある」と指摘しました。

性別変更後に凍結精子で生まれた子と親子関係認める 最高裁

2024年6月21日 19時40分



性同一性障害で男性から性別変更した女性が、自分の凍結精子でパートナーの女性との間に生まれた子と法的な親子となるための認知を巡る訴訟で、東京家裁(小河原寧裁判長)は28日、「法律上の親子関係を認めることは現行法と整合しない」と認知を認めない判決を言い渡した。

 カップルは東京都の40代女性と、パートナーの30代女性。40代女性が性別適合手術前に凍結保存した精子を使い、30代女性が2018年に長女、20年に次女を出産した。40代女性は18年に戸籍上の性別を変更した。

 判決は、親子関係は血縁上と法律上で「必ずしも同義ではない」と指摘。婚外子を父または母が認知できるとする民法の条文は「『父』は男性、『母』は女性が前提」とし、法律上の女性は「父」と認められないと判断した。懐胎、出産しておらず、「母」にも当たらないとした。

 女性側は認知届を出したが、自治体に受理されず、子ども2人を原告として40代女性に認知を求めていた。

 原告側は控訴の方針。別に、国を相手に親子関係の確認を求める訴訟を起こし、東京地裁で審理中。

◆「実際に育て、生物学的にもつながっているのに、矛盾感じる」

 1歳の次女とともに法廷で判決を聞いた40代女性。判決後の記者会見で「親子関係がないと言われつらいし、残念に思う。実際に育てていて、生物学的にもつながっているのに、矛盾を感じる」と無念の思いを語った。経済や福祉面で子に不利益になることが不安だといい、「裁判を続けたい。子どもが生きやすい社会にしたい」と話した。

 子どもたちは、女性二人をともに「ママ」と呼んでいるという。代理人の仲岡しゅん弁護士は、判決が母子関係の根拠を出産としたことに「生殖補助医療もなく、性同一性障害も認められていない大昔の最高裁判決を引っ張ってきた。家族関係は多様化しているのに硬直的な思考だ」と批判。男性ではないから「父」ではないという判断にも、子が成人後に性別変更すれば女性が「父」、男性が「母」となる実態を挙げ「未成年では認めない合理的な理由はあるのか」と疑問を投げかけた。

 松田真紀弁護士は「法律という多数決で決まるルールから取りこぼされる人を救うのが司法の役割。少数者は誰に助けを求めればよいのか」と指摘した。(小嶋麻友美)

◆子の福祉に触れず問題

 渡邉泰彦・京都産業大教授(家族法)の話 子どもが親を求めた裁判なのに、判決が子の福祉に触れていないのは問題。戸籍に親として記載されず、子どもの「出自を知る権利」も保障されないことになる。法律上の「父」とは何かという論点にも踏み込んでいない。性別と親の分離について、きちんと議論すべきだった。

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性別変更、子の認知認めず 凍結精子出産「現行法と整合せず」東京家裁

2022年3月1日 06時00分



9月4日、最高裁判所は、夫の死後、冷凍保存した夫の精子を用いた体外受精により生まれた子どもの死後認知を求めた訴訟で、認知を認める高裁判決を破棄しました[PDF160KB]。本件では、不妊治療中、夫が骨髄移植を受けることになったため精子を凍結保存しましたが、夫は治療再開前に死亡していました。
 二審の高松高裁は、認知請求を棄却した地裁判決を取り消し、父子関係を認める判決[PDF154KB]を 出していました。高裁判決は人工受精による場合の認知請求には、「認知を認めることを不当とする特段の事情が損しない限り、子と事実上の父との間に自然血 縁的な親子関係が存在することに加えて、事実上の父の当該懐胎についての同意が存すること」という要件が満たされていれば十分と述べ、認知の訴えが自然血 縁的な親子関係その者の客観的な認定により法的親子関係を認定することを認めた制度であり、父が自発的にこの認知をしない場合、訴訟により法的な父子関係 を形成するものであるとして、懐胎時に事実上の父が生存していることを要件とすることはできないと判断していました。一方、保存精子の利用の場合、本人の 意思に関わらず、予想外の重い責任を課すおそれがあるため、懐胎には父の同意が必要であるとし、本件では、その同意があったと判断していました。
 最高裁判決はそれに対し、現行民法が父親の死後に懐胎した子との親子関係を想定しておらず、親権、扶養・養育、相続などの親子関係の基本的な法律関係の 生じる余地がないものとして、そのような場合の親子関係を認める立法がない以上、法律上の親子関係の形成を認められないとしました。また、補足意見におい て、このような医療の進歩によって法律のない領域に生まれた子どもについて、法律上の親子というものに関する様々な価値や法体系上の調整が求められるとし て、司法機関が独自に認められないと述べました。また、生まれてきた子どもの福祉を第一に考慮すべきであっても、このような場合、親子関係の形成が子ども の福祉にとって余利益がなく、むしろ血縁関係と親の意思のみを根拠に親子関係を認めることは、懐胎時に父親のいない子どもの出生を放任することになると懸 念し、早期の法整備を求めています。
 厚生労働省厚生科学審議会の生殖補助医療部会の「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」(2003 年)では、急速な進歩の中で生殖医療の適正な実施のための見解をまとめていますが、精子の提供者が死亡した場合、提供の意思を撤回することが不可能とな り、提供者の意思が確認できない、子どもにとっても、遺伝子上の親が出生時から存在せず、子の福祉にとっても問題があるなどの理由で、保存精子を提供者の 死亡確認時に廃棄することとしています。また、法務省の法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会は、2003年に「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」を取りまとめましたが、この案では、夫の死亡後の凍結精子の利用に関して、医療法制による規制の考え方が不明確なまま、独自に親子関係に関して規定するのは不適当として、この問題について検討しないとしています。いずれについても、まだ法案化には至っていません。
 同じような事例で、2006年2月、東京高裁も保存精子による体外受精の場合はその都度同意が必要であるとして、認知請求を却下していました。

参考:
最高裁判所判決 2006年9月4日 [PDF 160KB]
高松高裁判決 2004年7月16日 [PDF 154KB]
・厚生科学審議会生殖補助医療部会 「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書」
・法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会 「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」

(2006年09月08日 掲載

最高裁判所が凍結精子による夫の死後生まれた子どもの認知を認めず



I はじめに

 1  生殖補助医療に関する検討を必要とした背景



 ○  昭和58年の我が国における最初の体外受精による出生児の報告、平成4年の我が国における最初の顕微授精による出生児の報告をはじめとした近年における生殖補助医療技術の進歩は著しく、不妊症(生殖年齢の男女が子を希望しているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態であって、医学的措置を必要とする場合をいう。以下同じ。)のために子を持つことができない人々が子を持てる可能性が拡がってきており、生殖補助医療は着実に広まっている。
 ○  平成11年2月に、厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究班」(主任研究者:矢内原巧昭和大学教授、分担研究者:山縣然太朗山梨医科大学助教授)が実施した「生殖補助医療技術についての意識調査」の結果を用いた推計によれば、284,800人が何らかの不妊治療を受けているものと推測されている。
 ○  また、日本産科婦人科学会では、昭和61年3月より、体外受精等の臨床実施について登録報告制を設けているが、同学会の報告によれば、平成11年中のそれらを用いた治療による出生児数は11,929人に達し、これまでに総数で59,520人が誕生したとされている。
 ○  このように、我が国において、生殖補助医療が着実に広まっている一方、近年、以下のような問題点も顕在化してきた。


・  これまで、我が国においては、生殖補助医療について法律による規制等はなされておらず、日本産科婦人科学会を中心とした医師の自主規制の下で、人工授精や夫婦の精子・卵子を用いた体外受精等が限定的に行われてきたが、学会所属の医師が学会の会告に反する生殖補助医療を行ったことを明らかにした事例に見られるように、専門家の自主規制として機能してきた学会の会告に違反する者が出てきた。 ・  夫の同意を得ずに実施されたAID(提供された精子による人工授精)により出生した子について、夫の嫡出否認を認める判決が出されるなど、精子の提供等による生殖補助医療により生まれた子の福祉をめぐる問題が顕在化してきた。 ・  精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的行為が見られるようになってきた。


 ○  このように、我が国においては、生殖補助医療が急速な技術進歩の下、社会に着実に広まっている一方、それを適正に実施するための制度が現状では十分とは言えず、生殖補助医療をめぐり発生する様々な問題に対して適切な対応ができていないため、生殖補助医療を適正に実施するための制度について社会的な合意の形成が必要であるとの認識が広まっている。





 2  生殖補助医療技術に関する専門委員会における基本的事項の検討経緯



 ○  こうした背景を踏まえ、平成10年10月21日に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の下に、「生殖補助医療技術に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)が設置され、この問題を幅広く専門的立場から集中的に検討することとされた。
 ○  生殖補助医療のあり方については、医療の問題のみならず、倫理面、法制面での問題も多く含んでいることから、専門委員会においては、医学、看護学、生命倫理学、法学といった幅広い分野の専門家を委員として検討が行われた。
 ○  また、この問題は国民生活にも大きな影響を与えるものであり、広く国民一般の意見を聞くことも求められることから、専門員会においては、宗教関係者、患者、法律関係者、医療関係者等の有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民等を対象として平成11年2月に行われた「生殖医療技術についての意識調査」の結果も踏まえ、この問題に関する慎重な検討が行われた。
 ○  さらに、生殖補助医療をめぐる諸外国の状況を把握するために、平成11年3月には、イギリス、ドイツ等ヨーロッパにおける生殖補助医療に係る有識者からの事情聴取、平成12年9月には、イギリスにおいて生殖補助医療に係る認可、情報管理等を管轄するHFEA(ヒトの受精及び胚研究に関する認可庁)の責任者との意見交換が行われた。
 ○  なお、生殖補助医療には、夫婦の精子・卵子・胚のみを用いるものと提供された精子・卵子・胚を用いるものがあり、また、人工授精、体外受精、胚の移植、代理懐胎等様々な方法が存在しているところである。AID、提供された精子による体外受精、提供された卵子による体外受精、提供された胚の移植、代理懐胎(代理母、借り腹)といった精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方については、その実施に当たって、夫婦以外の第三者の精子・卵子・胚を用いることとなることや妻以外の第三者が子を出産することから、親子関係の確定や商業主義等の観点から問題が生じやすいため、専門委員会において、これらを適正に実施するために必要な規制等の制度の整備等を行う観点から検討が行われた。
 ○  専門委員会は、2年2か月、計29回にも及ぶ長期にわたる慎重な検討を行い、平成12年12月に専門委員会としての精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての見解を「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」(以下「専門委員会報告」という。)としてとりまとめた。
 ○  専門委員会報告は、インフォームド・コンセント、カウンセリング体制の整備、親子関係の確定のための法整備等の必要な制度整備が行われることを条件に、代理懐胎を除く提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を認めるという内容であったが、同時に、その内容は精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の基本的な枠組みについて検討結果を示すにとどまるものであって、その細部については検討しきれていない部分も存在したことから、こうした点について、別途更なる詳細な検討が行われることを希望するものであった。





 3  生殖補助医療部会における制度整備の具体化ための検討経緯



 ○  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化に関する更なる検討を指摘した専門委員会報告を踏まえ、平成13年6月11日に専門委員会報告の内容に基づく制度整備の具体化のための検討を行うことを目的として厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会が設置された。
 ○  専門委員会は、医学(産婦人科)、看護学、生命倫理学、法学の専門家により構成されていたが、本部会においては、小児科、精神科、カウンセリング、児童・社会福祉の専門家や医療関係、不妊患者の団体関係、その他学識経験者も委員として加わり、より幅広い立場から検討を行った。
 ○  審議に当たっては、諸外国における生殖補助医療の状況や生殖補助医療における精神医学、心理カウンセリング、遺伝カウンセリング等も含め、生殖補助医療について有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民を対象として平成15年1月に行われた「生殖補助医療技術についての意識調査」(主任研究者 山縣然太郎 山梨大学教授)の結果も踏まえ、1年9ヶ月、計27回にわたり、この問題に対する慎重な検討を行った。
 ○  審議の進め方として、専門委員会においても議事録を公開していたところであるが、本部会においては、より国民に開かれた審議を進めるため、審議も公開で行った。また、国民の意見をインターネットなどを通じて常時募集したほか、平成15年1月には、それまでの議論を中間的にとりまとめた検討結果についても意見を募集し、提出された意見についてはその都度部会で配布し、審議の素材とした。
 ○  本部会においては、専門委員会報告の内容を基にその具体的な制度整備について議論がなされたが、具体化の議論に当たっては、前提となる専門委員会報告の内容自体についても再度検討しており、中には出自を知る権利の内容のように専門委員会報告と異なる結論となった箇所もある。こうした箇所については、結論に至る考え方も含めて本論において説明を行っている。
 ○  なお、精子・卵子・胚の提供等により生まれた子についての民法上の親子関係を規定するための法整備については、平成13年2月16日に法務大臣の諮問機関である法制審議会の下に生殖補助医療関連親子法制部会が設置され、本部会の検討状況を踏まえ、現在、審議が継続されているところである。





II 意見集約に当たっての基本的考え方

 ○  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方に関する意見集約に当たっては、様々な価値観の間で個々の検討課題に則した調整が必要となるが、専門委員会においては、以下の考え方を基本的な考え方として検討が行われた。
 ○  本部会においても、様々な立場から議論を行い、検討課題の一つ一つについて慎重な議論を進めたが、検討の前提となる基本的な考え方としては専門委員会において合意された考え方を統一的な認識として踏襲している。

・  生まれてくる子の福祉を優先する。 ・  人を専ら生殖の手段として扱ってはならない。 ・  安全性に十分配慮する。 ・  優生思想を排除する。 ・  商業主義を排除する。 ・  人間の尊厳を守る。
III 本論

 ○  本部会においては精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備について慎重な検討を行い、その結果、以下のような結論に達した。
 ○  専門委員会報告で述べられていた部分のうち、本部会での検討のベースになった主要事項については、一部修正された事項を除き、本論で再録しており、再録していない部分についてもその考え方を継承するものである。





 1  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者の条件



 (1)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者共通の条件

 子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限ることとし、自己の精子・卵子を得ることができる場合には精子・卵子の提供を受けることはできない。

 加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない。

 ○  生命倫理の観点から、人為的に生命を新たに誕生させる技術である生殖補助医療の利用はむやみに拡大されるべきではなく、生殖補助医療を用いなくても妊娠・出産が可能であるような場合における生殖補助医療の安易な利用は認められるべきではないことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に限ることとする。
 ○  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、それによらなければ子を持つことができない場合のみに限られるべきであることから、受精及び妊娠可能な自己の精子・卵子を得ることができる場合には、精子・卵子の提供を受けることはできないこととする。
 ○  なお、「自己の精子・卵子を得ることができる」ことの具体的な判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とするが、授精及び妊娠する可能性がないと考えられる精子・卵子しか得ることができない場合は、上記の「精子・卵子の提供によらなければ子を持つことができない場合」に当てはまるものと考えられることから、「自己の精子・卵子を得ることができる」とは判断できないものと考えられる。
 こうしたことを含め、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容は、精子・卵子・胚ごとに設けることとする。
 ○  法律上の夫婦以外の独身者や事実婚のカップルの場合には、生まれてくる子の親の一方が最初から存在しない、生まれてくる子の法的な地位が不安定であるなど生まれてくる子の福祉の観点から問題が生じやすいことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、法律上の夫婦に限ることとしたものである。
 ○  また、加齢により妊娠できない夫婦については、その妊娠できない理由が不妊症によるものでないということのほかに、高齢出産に伴う危険性や子どもの養育の問題などが生じることが考えられるため、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の対象とはしないこととする。
 ○  「加齢により妊娠できない」ことの判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、具体的には、自然閉経の平均年齢である50歳ぐらいを目安とすることとし、それを超えて妊娠できない場合には、「加齢により妊娠できない」とみなすこととする。



 (2)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件



 ○  精子・卵子・胚の提供により生まれた子については、借り腹の場合を除き、生殖補助医療を受ける夫婦の両方またはいずれか一方の遺伝的要素が受け継がれないことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な立場からは、生殖補助医療を用いてそうした子をもうけることがまず問題とされるところである。
 ○  しかしながら、この点に関しては、我が国の民法においても、嫡出推定制度や認知制度にみられるように必ずしも血縁主義が貫徹されているわけではなく、また、実親子関係とは別に養親子関係も認められている。
 ○  また、我が国において、AIDは昭和24年のそれによる最初の出生児の誕生以来、既に50年以上の実績を有し、これまでに1万人以上のAIDによる出生児が誕生していると言われているが、AIDによる出生児が父親の遺伝的要素を受け継いでいないことによる大きな問題の発生はこれまで報告されていない。
 ○  こうしたことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な考え方は、絶対的な価値観ではなく、それを重視するか否かは専ら個人の判断に委ねられているものと考えられ、また、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により生まれてくる子が父母の両方またはいずれか一方の遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するとは言えないことから、各々の生殖補助医療そのものの妥当性の判断基準とするのは適当ではないと考えた。



  1)  AID(提供された精子による人工授精)

 精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供された精子による人工授精を受けることができる。

 ○  AIDについては、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題があるものとは言えないことから、これを容認することとする。
 ○  なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、AIDを受けることができる人を「精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみ」に限定することとする。
 ○  「精子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定については、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、夫に精子提供を受ける医学的理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ、妻に明らかな不妊原因がないか、あるいは治療可能である場合であることとする。



  2)  提供された精子による体外受精

 女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子による体外受精を受けることができる。

 ○  提供された精子による体外受精については、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題があるものとは言えないことから、これを容認することとする。
 ○  なお、女性に体外受精を受ける医学上の理由がなければ、体内で受精を行う、より安全な技法であるAIDを実施することが適当であり、また、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、提供された精子による体外受精を受けることができる人を「女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。
 ○  「女性に体外受精を受ける医学上の理由がある」こと及び「精子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定については、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、夫に精子提供を受ける医学的理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ、妻に卵管性不妊症や免疫性不妊症などの体外受精を受ける医学的理由がある場合か、AIDを相当回数受けたが妊娠に至らなかった場合のいずれかの場合であることとする。
 ○  なお、安全性の観点等により、より自然に近い受精方法が望ましいことから、提供された精子による卵細胞質内精子注入法(ICSI:顕微授精)により体外受精が行われるのは、提供された精子による通常の体外受精・胚移植では妊娠できないと医師によって判断された場合に限ることとする。



  3)  提供された卵子による体外受精

 卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された卵子による体外受精を受けることができる。

 ○  提供された卵子による体外受精は、卵子の採取のために、卵子の提供者に対して排卵誘発剤投与、経腟採卵法等の方法による採卵針を用いた卵子の採取等を行う必要があり、提供された卵子による体外受精を希望する当事者以外の第三者である卵子の提供者に対して排卵誘発剤の投与による卵巣過剰刺激症候群等の副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷の危険性等の身体的危険性を常に負わせるものである。
 ○  このため、提供された卵子による体外受精は、身体的危険性を負う人が当事者に限られる提供された精子による体外受精とは、提供者に与える危険性という観点から本質的に異なるものである。
 ○  「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らせば、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を行うに当たっては、当該生殖補助医療を行うために精子・卵子・胚の提供等を行う人にいたずらに身体的危険性を負わせてはならず、本部会においても医学的な面から安全性について十分な議論を重ねたところである。
 ○  これらを踏まえ、安全性の原則と卵子の提供者が負う危険性との関係については、第三者が不妊症により子を持つことができない夫婦のためにボランティアとして卵子の提供を行う場合のように、卵子の提供の対価の供与を受けることなく行われるなど、他の基本的考え方に抵触しない範囲内で、卵子の提供者自身が卵子の提供による危険性を正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで卵子の提供を一律に禁止するのは適当ではないことから、これを容認する。
 ○  なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、提供された卵子による体外受精を受けることができる人を「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。
 ○  「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な基準は、専門的見地から行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、妻に妊娠の継続が可能な子宮があり、かつ、臨床的診断として自己の卵子が存在しない場合や存在しても事実上卵子として機能しない場合などの卵子の提供を受ける医学的な理由がある場合(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)に限ることとする。
 ○  なお、安全性の観点等により、より自然に近い受精方法が望ましいことから、提供された卵子による卵細胞質内精子注入法(ICSI:顕微授精)により体外受精が行われるのは、提供された卵子による通常の体外受精・胚移植では妊娠できないと医師によって判断された場合に限ることとする。



  4)  提供された胚の移植

 子の福祉のために安定した養育のための環境整備が十分になされることを条件として、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に対して、最終的な選択として提供された胚の移植を認める。
 ただし、提供を受けることができる胚は、他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚に限ることとし、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は認めない。
 なお、個別の事例ごとに、実施医療施設の倫理委員会及び公的管理運営機関の審査会にて実施の適否に関する審査を行う。

 ○  提供された胚の移植については、提供された胚による子は、養育することとなる提供を受ける夫婦の両方の遺伝的要素が受け継がれないことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な立場からは慎重な意見があるところである。
 ○  しかし、III1(2)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件」にあるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により生まれてくる子が父母の両方の遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するとは言えないと考えられることから、各々の生殖補助医療そのものの妥当性の判断基準とするのは適当ではなく、生まれた子の福祉のために安定した養育のための環境が十分に整備され、子の福祉が担保された場合においては、移植できる胚を他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したものに限定した場合、安全性など6つの基本的考え方に照らして必ずしも問題があるとは言えないことから、こうした胚に限り、胚の移植を容認することとする。(以後、「胚」とは、夫婦が自己の胚移植のために自己の精子・卵子を使用して得た胚でないことが文脈上明らかである場合を除き、「他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したもの」のことを言う。)
 ○  なお、本部会の議論においては、現状において、生まれた子の安定した養育のための環境整備が不十分であるので、当分の間、提供された胚の移植は認めないという意見もあったところである。
 ○  また、専門委員会報告においては、胚の提供が十分に行われないことも考えられることから、胚の提供を受けることが困難な場合に限り、例外として、「精子・卵子両方の提供を受けて得られた胚の移植を認める」とされていた。
 ○  しかし、不妊症のために子を持つことができない夫婦が子を持つためとはいえ、愛情を持った夫婦が子を持つために得た胚ではなく、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに作成された胚については、夫婦間の胚に比して、生まれてくる子がより悩み苦しみ、アイデンティティの確立が困難となることが予想されるところである。
 ○  さらに、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに胚を作成することは、生命倫理上問題があるとの意見もあった。
 ○  このため、本部会では、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は、認めないこととする。
 ○  なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、胚の移植を受けることができる人を原則として「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。
 ○  「胚の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定は、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、男性に精子の提供を受ける医学上の理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ女性に卵子の提供を受ける医学上の理由がある(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)こととする。
 ○  III5(3)「実施医療施設における倫理委員会」で述べるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については、個々の症例について実施医療施設の倫理委員会において実施の適否が審査されることとなるが、提供された胚による生殖補助医療については、提供を受ける夫婦のいずれの遺伝的要素も受け継がない子が誕生することとなることから、これに加え、個別の症例ごとに、公的管理運営機関の審査会にて、提供を受ける夫婦が子どもを安定して養育することができるかなどの観点から実施の適否を審査することとした。
 ○  なお、卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦であって、卵子の提供を受けることが困難な場合において、提供された胚の移植を受けることについては、当分の間、認めないこととするが、この件については将来再検討を行うものとする。



  5)  提供された卵子を用いた細胞質置換及び核置換の技術

 提供された卵子と提供を受ける者の卵子の間で細胞質置換や核置換が行われ、その結果得られた卵子は、遺伝子の改変につながる可能性があるので、当分の間、生殖補助医療に用いることは認めない。

 ○  不妊の女性側の原因の一つとしては、卵子の質の低下があるとされているが、卵子の質の低下を改善するために、現在、提供された卵子から細胞質を採取して質が低下した卵子に注入する細胞質置換や、提供された卵子から当該卵子の核を取り出して代わりに質が低下した卵子の核を埋め込む核置換といった方法により、受精しやすい卵子を新しく作る方法が考えられているところである。
 ○  これらの方法は、卵子の質の低下のために不妊となっている夫婦に対して将来的に治療に用いることができる可能性があるものの、遺伝子の改変の可能性が否定できないなど、安全性についての科学的な知見が十分集積していないことから、こうした技術を用いた卵子を用いて生殖補助医療を行うことは当分の間認めないこととする。
 ○  なお、安全性についての科学的知見が十分集積した際には、その安全性や有益性等の観点から十分な検討を行った上で、改めて実施の是非を検討することが妥当と考える。



  6)  代理懐胎(代理母・借り腹)

 代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する。

 ○  代理懐胎には、妻が卵巣と子宮を摘出した等により、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の第三者の子宮に医学的な方法で注入して妻の代わりに妊娠・出産してもらう代理母(サロゲートマザー)と、夫婦の精子と卵子は使用できるが、子宮摘出等により妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精して得た胚を妻以外の第三者の子宮に入れて、妻の代わりに妊娠・出産してもらう借り腹(ホストマザー)の2種類が存在する。
 ○  両者の共通点は、子を欲する夫婦の妻以外の第三者に妊娠・出産を代わって行わせることにあるが、これは、第三者の人体そのものを妊娠・出産のために利用するものであり、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方に反するものである。
 ○  また、生命の危険さえも及ぼす可能性がある妊娠・出産による多大な危険性を、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎内に存在する約10か月もの間、受容させ続ける代理懐胎は、「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らしても容認できるものではない。
 ○  さらに、代理懐胎を行う人は、精子・卵子・胚の提供者とは異なり、自己の胎内において約10か月もの間、子を育むこととなることから、その子との間で、通常の母親が持つのと同様の母性を育むことが十分考えられるところであり、そうした場合には現に一部の州で代理懐胎を認めているアメリカにおいてそうした実例が見られるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間で生まれた子を巡る深刻な争いが起こり得ることが想定され、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に照らしても望ましいものとは言えない。
 ○  このように、代理懐胎は、人を専ら生殖の手段として扱い、また、第三者に多大な危険性を負わせるものであり、さらには、生まれてくる子の福祉の観点からも望ましいものとは言えないものであることから、これを禁止するべきとの結論に達した。
 ○  なお、代理懐胎を禁止することは幸福追求権を侵害するとの理由や、生まれた子をめぐる争いが発生することは不確実であるとの理由等から反対であるとし、将来、代理懐胎について、再度検討するべきだとする少数意見もあった。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5a.html
精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書





性同一性障害と診断され、家裁で戸籍の性別変更が認められた人が「変更は誤りだった」として取り消しを求めた裁判手続きで、西日本の家裁が元の性別に戻す訴えを認める判断を出していたことが2日、代理人弁護士への取材で分かった。決定は昨年11月30日付。

戸籍の性別変更を可能とした2004年施行の性同一性障害特例法は、性別の再変更は想定していない。代理人の南和行弁護士は「裁判所は法律が想定する枠組みから外れた人の訴えに柔軟に対応していく必要がある」と話している。

申立人は自らを性同一性障害だと思い込み、11年にタイで性別適合手術を受けた。同年、国内の精神科で性同一性障害と診断され、特例法に基づく家裁の審判で性別変更が認められた。

しかし変更後の生活に心身ともに支障が生じ、思い込みだと気付いた。昨年6月に取り消しを求めて家裁に申し立てをした。家裁は当初診断した医師の「客観的指標がない中、本人が誤って信じた内容で診断せざるを得ない」との意見書を基に誤診を認め、申立人が元の性別で日常生活を送っている点なども踏まえて変更を取り消した。〔共同〕

性別再変更の訴え認める 性同一性障害で家裁

社会

2018年3月2日 18:12

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf




戸籍上は男性だが性同一性障害で女性として生活する経済産業省の50代職員が勤務先の庁舎で女性用トイレの利用を制限しないよう国に求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は11日、制限を「適法」として職員の逆転敗訴とした2審判決を破棄し、制限を行った国の対応は「違法」とする判断を示した。

心と体の性別が一致しない「トランスジェンダー」の職場での処遇に関する初の最高裁判断。性的少数者の権利擁護に関する議論が高まりをみせる中、学校や企業といった特定の人々で構成される場所での同様のケースを巡る対応に影響を与えそうだ。

判決によると、職員はホルモン治療を続け、女性として生活。健康上の理由から性別適合手術は受けていない。平成22年に同僚への説明会などを経て女性の身なりで勤務を始めたが、経産省は勤務するフロアと上下1階にある女性用トイレの使用を制限した。

職員は使用制限の撤廃を人事院に求めたが認められず、国に対し処遇改善などを求めて提訴。1審東京地裁判決は「制約は正当化できない」とし、トイレの使用制限を違法と認定した上で慰謝料など132万円の支払いを命じたが、2審東京高裁判決は「処遇は他の職員の性的羞恥心や不安を考慮し、適切な職場環境をつくる責任を果たすためだった」として適法と判断。面談時の上司の不適切な発言のみを違法と認め、11万円の支払いを命じた。

職員は上告し、最高裁では経産省が行ったトイレの使用制限を人事院が「問題ない」と判断した部分が審理された。今年6月16日には上告審弁論が開かれ、職員側は「女性として社会生活を送る重要な法的利益を制約するものだ」と主張。国側は「人事院判定は適切だった」と反論した。

トイレ制限トランスジェンダー訴訟は7月に最高裁判決 制限適法の2審見直しの可能性

性同一性障害職員のトイレ制限、「不合理でない」

「LGBT差別続いている」トイレ制限訴訟2審初弁論

トイレ使用制限、国の対応「違法」 性同一性障害の経産省職員、最高裁が初判断

2023/7/11 15:14

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/527/092527_hanrei.pdf




性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更する際に生殖能力をなくす手術が必要だとする法律の規定の合憲性が争われた家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は25日、規定を「違憲」と判断した。裁判官15人全員一致の結論。4年前に「合憲」とした最高裁判断を変更。国は規定の見直しを迫られることになる。最高裁が法令を違憲としたのは12例目。

性同一性障害特例法は、複数の医師から性同一性障害の診断を受けた上で、①18歳以上②結婚していない③未成年の子がいない④生殖腺がないか生殖機能を永続的に欠く状態⑤変更後の性別の性器に似た外観を備えている-の5つの要件を全て満たせば、性別変更できると定めている。

④を満たすには精巣や卵巣を摘出して生殖能力をなくす手術が欠かせず、⑤についても外観の手術が必要となるケースが多いとされる。

家事審判の申し立て人は、戸籍上は男性だが性自認は女性の社会人。手術は心身や経済的な負担が大きく、ホルモン治療などにより手術なしでも要件を満たしていると訴えた。1、2審段階では④の規定を理由に性別変更を認めず、⑤については判断していなかった。

大法廷は25日付の決定で、④の規定について違憲と判断。⑤については憲法適合性を判断せず、審理を2審に差し戻した。

④の規定を巡っては、最高裁第2小法廷が平成31年1月、手術せずに性別変更前の生殖機能で子が生まれると「社会に混乱を生じさせかねない」として「現時点では合憲」と指摘。ただ「社会の変化などに応じ変わりうる」としていた。

今月に入り、女性から男性への性別変更を求めた別の家事審判で静岡家裁浜松支部が④の規定を違憲とする初の司法判断を出していたが、下級審への拘束力はなく、15人の裁判官全員で審理する最高裁大法廷の判断が注目されていた。

戸籍変更、20年間で1万人超

森屋氏「精査し適切に対応」

手術を…は違憲か 判断へ

市民団体 堅持を要請

生殖不能手術要件は「違憲」 性別変更規定巡り最高裁が初判断、4年前から変更

2023/10/25 15:16