見出し画像

北朝鮮、崩壊の足音?#57

こんにちは。
前回の続き…というわけではないのですが、今回は先週投稿した記事の引用からスタートします。

コロナ対策にいくら注力しても足りない時期であった2020年以降、ほぼ人力で中国との国境に500km近くのフェンスが設置され、その付近に監視所が計6820カ所設置されたと国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは発表しました。

私はこのような北朝鮮の過剰な対応は、ますます政権維持が厳しくなっていることの裏返しではないかと考えています。物理的なもので統制しないと国民の動きをコントロールできないでしょう。

前回の記事#56の引用

全文をお読みになりたい方は下のリンクからどうぞ。

前回の記事を書き終えたタイミングで、今までは考えられなかった変化が北朝鮮で起こっているのかもしれないと感じた私は、久しぶりに腰を据えて母国の近況についての情報を集めてみました。

ここからは、今年に入ってから北朝鮮で起こった出来事を紐解き、現状を炙り出していきたいと思います。

まず、北朝鮮における直近のHOTなニュースといえば、何より「ゴミ風船」問題が挙げられます。
(7月1日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射したというニュースもありましたが、”聞き飽きた”感が強いためこちらはスルーします💦)

ゴミ風船問題とは何か…
少し長い説明になりますが、しばらくお付き合いください。

全ては、韓国にいる脱北者たちが北朝鮮で暮らしていたときのことを振り返り、金一家についてのストーリーや国の歴史など、幼い頃から政府からの洗脳を受け、騙され続けていた事実に気づいたことがきっかけでした。

彼らは約10年前に民間団体を作り、まだ北朝鮮に残っている人々への啓蒙や食料問題の救済を目的として、ビラや食料(米や1ドル、韓国ドラマやK -POPが見れるUSBメモリを入れたペットボトル)を巨大風船に乗せ、風が北朝鮮に向かって吹いているタイミングに合わせて飛ばしていました。
北朝鮮のゴミが韓国の海岸線沿いに流れてくることにヒントを得て、海や川から同様のものを送る活動もしています。

しかし、市民運動家と謳っていた文在寅(ムンジェイン)元大統領は、任期期間中であった2020年に「北朝鮮ビラ散布禁止法」という法律を作り、これらの活動が禁止されてしまいます。

それらに不満を持った脱北者団体は、この法律が「表現の自由」を侵害しており「違憲」であると裁判を起こしました。憲法裁判所は「違憲」であることを認め、今年から脱北者団体は以前からの活動を再開しています。

その活動への報復として、北朝鮮がゴミ(中には人間の💩を入れたものもあったとのこと)を詰めた大量の風船を韓国に送るという事件が起こりました。それがいわゆるゴミ風船問題です。

北朝鮮中央通信は「いかに気持ちが悪く、多くの労力が消費されるか(韓国に)十分に体験させた」「(ビラを再び飛ばした場合は)100倍の量の紙くずと汚物を散布する」と言っている。

とある民間団体が細々と続けてきた活動に、国家として反応する時点でどうかと思いますが、その内実が風船に人糞を入れて飛ばすというような、言葉にするのも憚られる愚行…
恥ずかしいとか、愚かだとかを通り越して、言葉がありません。

本件を受け、韓国は北緯38度線(北朝鮮と韓国の境界)で北朝鮮側に向け、拡声機を用いた“啓発”放送を再開することになりました。
こちらもまた文政権の時である2018年から一時中止になったものでした。

これは北朝鮮への心理的な揺さぶりの一つで、北朝鮮兵士らに向けて様々な韓国の情報を届けるものです。38度線から近い都市である開城(ケソン)まで聞こえるという証言もありました。

民間団体の支援活動はこれまで10年ほど見過ごされてきたのに、なぜ今のタイミングで北朝鮮が反応してきたのでしょうか?

私の考えでは、それは北朝鮮が国内における韓国メディアの普及に対して抱く、深刻な危機感の現れではないかと思っています。

北朝鮮では2020年あたりから「反思想文化排撃法」「平壌文化保護法」「青年教養保証法」といった(語感から伝わると思うのですが)社会統制のための悪法が立て続けに作られています。

どれも韓国の放送、映像、書籍や情報通信媒体と接した人、韓国イントネーションの言葉を使った人を厳罰に処するという内容で、特に配布や流通に加担した人は処刑するとまでしています。

金正恩が一番危機感を覚えているのは、国を支えていくMZ世代である「ジャンマダン世代」といえます。

MZ世代とは、ミレニアル世代(1980年代前半~1990年代中頃生まれ)とZ世代(1990年代中頃~2010年代前半生まれ)をまとめた、韓国発祥の世代区分です。

TRANSより引用

ジャンマダン(市場)について、私は何度か記事で触れていますが、配給制度が立ち行かなくなった末、ジャンマダン経済で育った人々が「ジャンマダン世代」と呼ばれています。

金正恩は2021年朝鮮労働党大会で「この国の青年たちの健全な成長と発展に悪影響を与える要素が少なくない上、新しい世代の思想・精神状態に重大な変化が起こっているのが現実」であるとまで発言しました。

金日成時代の青年たちは金一家のためには命を捧げることは義務であると思っていて、金一家=朝鮮労働党の「前衛部隊」と呼ばれていました。しかし、現在の「ジャンマダン世代」は金正恩のために命を捧げることに首を傾げると言われています。

その現れとして、(韓国語の動画ですが)今年の1月に中国で働く北朝鮮労働者たちが起こした事件をご紹介します。

中国で出稼ぎをしている北朝鮮労働者たちがいました。彼らは毎日18時間ほど働き、朝鮮労働党と幹部らに賄賂として流れる分を抜いて月300ドルほどの賃金を得る計算でした。
ただ、彼らは数年に渡り賃金を手にすることはありませんでした。理由は、責任者らがまとめて支払うと約束をしていたからです。

しかし、後に彼らが得るはずだった賃金は、当局の戦争準備資金として全額使われてしまっていたことを知ります。激怒した大勢の労働者は幹部たちにリンチを加え、1人は死亡、2人は重症という結果になりました。

その後も中国の各地でストライキを含めた労使間の抗争が目立つようになり、北朝鮮当局と労働者間で初めて「労使交渉」が行われ、労働者の要求に基づいて一定の賃金が支払われることになりました。

記事を読んでくださっているみなさまに伝わるかわからないのですが、これは本当にすごいことなのです。

国外で起こったこととはいえ、金日成や金正日の時代では、少しでも抵抗する人は容赦なく処刑、もしくは政治犯収容所送りにされていました。

金正恩の時代でなぜ「労使交渉」が行われるまでになったのか。
それは金正恩が寛容であるということではなく、もはや「新しい世代の思想・精神状態に重大な変化が起こっている」ことを認めざるを得ない状況が発生しているから、としか説明できないのです。

さて、北朝鮮当局の「韓国メディアの普及に対する深刻な危機感の現れ」に関する話題に戻ります。

今年に入って金正恩は、韓国との関わりを徹底的に排除するための行動に乗り出しました。
朝鮮労働党副部長である金与正(金正恩の妹)は南北公式談話で「お願いだからお互いに干渉せず生きていこう」と発言し、今までは南朝鮮と呼んでいたところに初めて「大韓民国」という国号を使い、統一をあきらめて違う国として認めてほしいと訴えました。

そして、朝鮮中央テレビで流れる天気予報でも、朝鮮半島の南半分を消して、北朝鮮だけが地図として表示される形になりました。

朝鮮半島には古くから、半島全体を表現する言葉として「三千里錦繍江山(삼천리금수강산)」、略して「三千里」という言い回しが使われていました。

この「三千里」は金日成や金正日時代、さらに遡って日本統治時代から使われてきた言葉で、北朝鮮の国歌に登場するほど格式のある表現です。

金正恩は今年に入って、唐突にこの言葉の使用を禁止することにしました。当然、国歌の歌詞も変わります🤣

国で何かの取り組みを始めるとき、しばらく様子見の期間を取って、少しずつ広げていくというプロセスは北朝鮮には存在しません。
将軍様の一言が「すべて」なのです。

この「三千里」使用禁止の問題の影響は、随所に波及しているといわれています。
歴史、教育、過去に出版された書籍、歌、映画など、さまざまな分野で大きな混乱が起こっているのは間違いありません。

そして、これは金日成と金正日を否定することにも繋がります。なぜならこの二人は、「三千里」という言い回しがとても好きで、よく使っていたからです💦
もはや収拾がつかなくなってきています😅

最後に金正恩の娘の話題を少しだけ。
ここ数年、金正恩は娘の金主愛(キム・ジュエ)を連れて登場する機会が増え、彼女には「朝鮮の新星、女将軍」といった称号が付与されたそうです。

金主愛は2013年に生まれた11歳の女の子です。
小さな女の子に「女将軍」という組み合わせが、気の触れた国家の発想で合理性の欠片もありませんね。

また、こちらも過去に何度か書いていますが、北朝鮮には「男尊女卑」が色濃く残っています。

現代になっても、北朝鮮には金一家で生まれたというだけの理由で、女性が指導者になれると考える人はほとんどいないと思います。それが許されるのであれば、妹の金与正も指導者になれるということになりますね。

繰り返し死亡説が出るほど健康状態が不安視されている金正恩は、後継者問題についての懸念を強く持っているのではないかと思われます。
もし、金正恩が天に召された(地獄に堕ちた?)とき「血の争い」になることを避けるのは難しいでしょう。
金正恩によって粛清された、兄の金正男や叔父の張成沢と同じように…

まだまだ北朝鮮に関するトピックはありますが、ここまでの内容だけでも読んでくださったみなさまに、北朝鮮に訪れつつある異変が伝わるのではないかと思っています。

これはおまけなのですが、最近YouTubeで話題になっている下の動画をご存じでしょうか?

「新朝鮮」という団体がアップしたこの動画では、(おそらく金日成の発言が書かれた)石碑に墨汁のような液体をかけている映像が流れます。
北朝鮮ではこういった石碑が各所に設置されていますが、金一家と同等の存在として扱われているものです。
これにいたずらをするという行為は、重い罪に問われることは間違いなく、その場で処刑されかねないといっても過言ではないでしょう。

また、この動画は北朝鮮国内で撮影されたものが海外に流出した後にアップされたもので、北朝鮮内部で革命が起きようとしているのではないかと噂されています。
真偽のほどはわかりませんが、北朝鮮生まれの私の目には他の件も含めて明らかな異変が起こっていると映りました。

今回は真面目で(?)長い記事になりましたが、今後は私の実体験を綴るとともに、折に触れて新しい動向にも目を配っていきたいと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?