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北朝鮮の薬の話 #31

こんにちは!
特に理由はありませんが、ここに来て私の本業である医療について書きたいと思います。
今回のテーマは“薬”
合法的なやつについてです(笑)

ここ数年は新型コロナウイルスの流行によって、今まで体験したことのない世界が広がりました。
最近はすっかり話題に上ることが減ったように感じますが、ほんの少し前までテレビでは毎日コロナの感染者数と死亡者数、ワクチンに関するニュースの連続でした。

ワクチンや治療薬の承認についてのニュースもありましたね。
看護学校で薬学を学んだときに一通り教わっているので、知識としては一度頭に入れている内容のはずなのに、”薬の承認って大変なことなのだな”と改めて気づかされる機会になりました。

薬効にしても副作用にしても、あらゆる薬は人体に何らかの影響を与えるものですから、考えてみると承認に慎重になるのは当たり前です。

しかし、北朝鮮で生まれ育った私にとってはこれまた驚きの連続でした。

北朝鮮には国産の薬がほぼありません。アスピリンなどごく限られた薬品が製造されているようですが、庶民には縁のない話です。
私が住んでいた地方都市には薬局が一軒だけあったものの、商品棚はいつも空っぽで、お店が開いていた記憶は数えるほどしかありません。

日常生活に必要な常備薬すら行き届かない現状があるのですから、新型感染症の発生により外国で開発された新薬の承認に関する話題など、聞いたことがないのは当たり前かもしれません。

北朝鮮で暮らす人々は、薬草と自己免疫だけで感染症を含むあらゆる疾患を乗り越え、それに耐えられないものは淘汰されていくのでしょうか?

ドラマの設定としてはおもしろそうですが、さすがにそれはありません。

薬局などの正規ルートで手に入らないものは、海外の薬(特に中国産)に頼ります。

では、中国の薬はどうやって手に入るのか。

中国産の多くの薬は密輸入品であり、ブローカーが個人に卸します。当然ながら専門機関の承認も取り扱いに関する資格も必要ありません。
また、パッケージや説明書が全て中国語で表記されています。そもそもパッケージと内容物が一致している保証などないのですが、仮にそれが正しいとしても、使用量や投与間隔などの用法を正確に理解することは困難です。

必然的に薬に関する事故がたくさん起こります。

私に自転車の乗り方を教えてくれた、友人のAちゃんもその1人でした。
とても活発で明るい性格の彼女は、容姿も綺麗でみんなに好かれていました。家庭環境も裕福でした。

Aちゃんと私は小学校が一緒で、仲良くなりました。
そして、運動神経が悪く自転車に乗れなかった私に、自転車の乗り方を教えてくれました。

小学校を卒業し、別々の中学校に通いはじめてからは、ほとんど会うことがなくなりました。
しかし、北朝鮮では自転車が移動手段になることが多いため、自転車に乗る時にふと、乗り方を教えてくれたAちゃんを思い出すことがありました。

その後、私は平壌の大学に進学することになり、地元の友達とは疎遠になっていきました。

夏休みのある日、帰省で地元に戻った時のことでした。
道を歩いていたらAちゃんの妹と偶然、再会したのです。
「お姉ちゃんは元気?」と聞いたら、妹は何も言わずに立ち去ってしまいました。

その時は“Aちゃんと喧嘩したのかな?”と想像したのですが、友人からAちゃんの驚くべき事実を聞かされました。

Aちゃんは亡くなったのだと。

風邪の症状がひどく、中国産の薬を飲んだことが原因らしいのです。一般的な家庭であれば風邪くらいで薬を飲むことはありません。Aちゃんの家は裕福であったため、中国産の薬を手に入れることができてしまったのです。

彼女が死んでも原因究明など何も行われていないと聞きました。薬のどの成分がどのように作用したのか、そもそもそれは本当に風邪薬だったのか、真相は今も闇の中です。

それからしばらく、私は自転車に乗ることができませんでした。自転車を見るとAちゃんを思い出して辛くなってしまうから。

***

北朝鮮では、風邪を引いて高熱が出たらペニシリンとマイシリンの注射か、アスピリンという飲み薬しか選択肢がありません。

アレルギーテストをせず投与するのが一般的です。

ペニシリンはお尻に注射するのですが、これがとても痛いのです。注射をせずに済むので、中国産の錠剤はとても人気だといいます。

私が高校の時、パラチフスにかかり、高熱が出たことがあります。
幸い私の両親は医療者であったため、ペニシリンのアレルギー検査をすることができました。
腕に少量を投与して反応を見るような検査でしたが、私はペニシリンを打ちたくない一心で注射された部位を爪でこするという暴挙に出ます。
裏工作の成果か、アレルギー反応かわかりませんが、周囲が赤く腫れ上がり(心の中でガッツポーズ!)私は注射を免れることができました。
※良い子は真似しないでください

パラチフスの特効薬はなかったので、日本から送ってもらったバファリンを飲んで乗り切ったことを覚えています。

日本にいる親戚が数年に一度、私の家にいろいろな物資を送ってくれていたのですが、その中に薬も入っていました。

バファリン(錠剤)、ノーシン(紙に包まれた粉薬)、キャベジン(缶に入った粉薬と錠剤)、求心(黒くて小さな錠剤)、正露丸(匂いが強烈な黒い錠剤)、サロンパス(ハッカの匂いがする、白くて四角いシート)など、パッケージも含めてそれぞれの特徴を鮮明に思い出すことができます。

これらは、日本のドラッグストアで日常的に販売されている薬ですが、私の家では宝物のように鍵付きの戸棚に大切に保管して、本当に辛い時だけ使っていました。

中学校に通っている時、学校の偉い先生から「胃潰瘍でとても辛い思いをしているので、日本の薬があったらください」という内容の手紙を渡されました。

「授業に参加しなくてもいいから、お母さんにこの手紙を渡すように」と言われました。北朝鮮の学校の先生はこのように堂々と賄賂を要求してきます。

お母さんが仕方なくキャベジンを少しだけ渡すと、それから数ヶ月に一度、先生から同じような手紙がくるようになりました。
しかし、私たち家族にとっても日本の薬は貴重です。何度目からか、お母さんはお断りの手紙を私に持たせるようになりました。
その後、しばらくキャベジン先生の睨むような視線を浴びたのは、良い社会勉強だったと思います😂

あの先生が、日本のドラッグストアにキャベジンがたくさん並んでいるところを見たら、どんな感想を抱くでしょうか。

新型コロナウイルスのワクチンに関しては賛否ありますが、個人的には“望む人は接種できる状況”であれば良いと思います。たとえそれが北朝鮮であっても。

思いの外、長文になってしまいましたので、今日はこのあたりで失礼します。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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