浮遊する東京タワーと地べたの東京タワー

最近よく聞くラジオから『東京タワー』というタイトルの曲がなんども流れている。nakamura emiさんというシンガーソングライターの曲だ。

最初は、おしゃれな曲だなあと聞き流していたが、独特なラップ混じりの歌い方などに耳をこらすと、歌詞がなかなかしんどそうであった。

成長が成熟した大都市としての東京は、地縁が強く周囲に監視されがちな地方出身者にとって、群衆の中で、軽やかな記号になれる街だった。
80年代、音楽ジャンルとしてのシティーポップや、コカコーラのCMがキラキラの若者像を表現し、存在しない夢想の都市に、人は憧れた。

しかし現代の女性の闇っぷりをうたったこの東京タワーは、個として踏ん張り続けるしんどさと、地べた這いずり回ってる感が半端ない。

何周も何周も回った 東西南北何周も回った

この歌の主人公にとって、東京は一人闘って、何も手に入らない場所だ。

東京タワーを歌った曲はたくさんあり、東京の象徴として、様々な東京のイメージを託している。

そのなかで女性が主人公の、1981年の松任谷由実・作詞作曲(石川セリに提供)『手のひらの東京タワー』と比較すると、

おお、80年代、なんと軽やかなことか。

↓こちらは2013年に今井美樹がカバーしたもの

私のフレゼント もう目をあけていいわ
ときめくパノラマの東京タワー
愛したらなんでも手に入る気がする
今は世界中が箱庭みたい

恋人に目を瞑らせ、東京タワーのエレベーターを昇り、東京タワーからのパノラマの景色をプレゼントする。あの鉄鋼の塊を、手のひらにのせたと言い切る軽やかさ。世界を手中に収めた感、めっちゃある!!

80年代の始まり、先んじてキラキラと浮遊する都市感覚を曲に仕立てたユーミンの一方で、2020年頭、40歳近くなって、東京で一人生きるしんどさをストレートに歌う1982年生まれのnakamura emi。

女性の生き方、東京という場所の意味。
それぞれの時代感覚を反映している気がする。

現代の東京タワーは地に足ついた存在。下から見上げ、なんとか自分を励ましてくれる存在として歌われる。

決して手のひらには乗ったりしなそうだ。