新卒2年目が考える、"石の上にも三年"の正体

師走。
会社に入って営業として働き始めてから1年と7ヶ月が経った。

学生時代の長期インターンを除けば、正社員として他の会社で働いたことはないので、他の会社のことは分からないが、某R社では2年目は新人と中堅の移行期にあたり、立派な戦力として期待される時期である。

「早くいっぱしに仕事できるようになって転職しよう」と考え、自分なりに悩みながらも走ってきた1.5年。

ふと、今週木曜日に夜家に帰ってきて、歯を磨きながら「”石の上にも三年”って、ある意味で本質かもしれないな」と雷が落ちたかのように思いついたので、備忘録として記しておきたいと思い、初めてNoteに書く。

前提として、僕自身、学生時代は下の図で言うところの、努力している一般人(人によってはこれは優秀な人になるのかもしれない。)に早く到達したいと考えていたので、石の上にも三年なんていうのは、伝統的な日系大企業の昭和なスポ根部長が言っている時代遅れの概念だと思っていた。

今では、少し、ことわざの含蓄が理解できるので、改めてそのプロセスと自分なりの解釈を記しておきたい。

入社1年目のモヤモヤ感

僕が入社した事業部は、カンパニー内で最も担当するクライアント数が多いということが特徴的だった。
どれくらいかというと、先輩社員から引き継ぎを受け、僕は当初70法人ほどを1人で担当し、今の1年目には100法人を1人で担当している子もいるほど。
おそらく、他の会社と比較しても、フィールドセールスが1人で担当するクライアント数としては比較的多いのではなかろうかと思う。

そういう状況なので、まだ大きな仕事を期待できない新人に会社として何を最も求めるかというと、クライアントとの接点量・提案数(拙くても構わない)を最大化することで経験を積み、成長してくれることになる。

4〜6月は毎日担当している東京都内を東奔西走し、ヒアリングを行い、課題を特定し、提案を行う。
その繰り返しである。

当初、意気揚々と誰よりもやったるぞーと意気込んでいたので、1日3アポは欠かさず訪問を繰り返し、様々な観点でヒアリングを行った。
・売上目標はいくらですか?
・先月はいくらでしたか?
・いくら売上足りませんでしたか?
・営業の方は何名いらっしゃいますか?
・弊社商品からどれくらい売上に繋がっていますか?
・広告費は月々おいくらご投資なされていますか?
これ以外にも様々なクライアントの商品や営業戦略に関することをたくさん質問した。
そこから得られた情報をもとに、いい提案をしようと意気込んでいた。

しかし、問題はここからだった。

たくさんヒアリングできたので、次回いい提案持ってきますね!と言ってアポを終えて帰えるのだが、いざ会社に戻り、夜に訪問したアポのメモを見返してみて構造化して情報を整理して自分なりに提案を考えるのだが、

「売上あと50万/月上げないといけないんだな。ということは逆算するとあと10人/月の追加集客が必要だ・・・あれ、でもこれ何提案すればいいんだ?」

という状態に陥る。
構造化してロジックツリーに落とし込んでも、So What?の状態になる。
ヒアリングした情報が、ただの”文字列””数字”でしか頭に入って来ず、現場感覚・リアルなクライアントの情報とリンクしていないから、現場を改善するためには何をしたらいいのか?がいくら考えても出てこないのである。

自分が納得できるような、質の高い提案が出てこない・できないことにモヤモヤしていた。

今思えば当たり前なのかもしれない。
学生時代に、短期のインターンシップやビジネスコンテストなどでは、
・たっぷり時間があって(5日〜2ヶ月)
・3〜4人の仲間がいて
・四六時中議論する
ことで生み出されたアウトプットが評価の対象になり、優秀かどうかジャッジされる。
これは頭の使い方でいうと、抽象思考。
ざっくりとしたお題やテーマが与えられ、アウトプットに至るまでの議論やチームビルディングのプロセスを人事や審査官が客観的に見ていく。

一方、社会人になってみると、(自明のことだが)
・1案件に対する時間はほぼない(毎日次から次へと色んな宿題やタスクが発生する)
・基本は自分1人で
・議論ではなく、「いつまでに」「何を」「どうやって」完成させるのか自分で決めてタスク化してやる
ということが基本的に必要となる。
これは具体思考。
戦略コンサルならまだしも、事業会社の営業で1クライアントに対して、1週間もかけて新規事業を提案するレベルの提案をしようと思っていたらいくら時間があっても足りない。

何を当たり前なことを、と思われるかもしれないが、時間をかけて、深く考えることが得意な自分にとってはかなり難しい問題のように思われた。

さらに、担当クライアント数が多いので、明日にはまた新しく訪問するスケジュールが入っているので立ち止まって考えている時間などほぼない。

アポに行けばヒアリング情報は溜まるが、自分なりにいいと思える提案、つまりもっとこうしましょうよ、が出てこない。
時には立ち止まって、1日丸々使って訪問したことの整理をしようと、紙に書き出しはするものの、どこか机上の空論感が拭えなくて解像度が低い。
情報を整理してクリアにしているつもりのに、モヤモヤは解消されない。

それでも、時間をかけて自分が納得する提案を作って渾身の一作を持っていってもなぜか刺さらない。

日々の訪問活動、提案資料作成、振り返りなんかをやっているとあっという間に一年が過ぎていく。
そうして、仕事が出来ている感覚は全くないまま二年目の春を迎える。

”感覚”が掴めてくる2年目

二年目、一年目と大きく違うのは、同じ職種で迎える、仕事の二週目だということ。
つまり、去年一年間を曲がりなりにも経験をしているので、春夏秋冬、何が待ち受けているのか大きな流れがある程度見えている状態でスタートをする。

これは浪人生と初めて受験生を迎える高三くらいの感覚値の差がある…と言えば少しは伝わるだろうか。
(そもそも浪人している時点で云々の議論はさておき。)

すると、不思議だが感覚的に、ある程度○○月までに何をしなければいけないか、1年間を通してどこの時期が忙しくなりそうか、が見えてくるようになる。

こうなってくると、1年目の時は完全に追われていた仕事に対して、少しだけ先回りができる感覚がついてくる。

「去年5月にはこんなことがあったから、4月の今のうちからこれをやっておかないと」
「この四半期の目標は低めだったけど、次の四半期は昨年度よりも高い目標が降りてきそうだから、今のうちから仕掛け・仕込みを作っておかないと」
のような具合に。

この感覚というのは、仕事の流れ(社内会議の内容、社外への営業活動)の体感理解や社内用語・業界用語の浸透、などのある種の”慣れ”によって醸成されるものではないかと思う。

大事なのは、上記のようなことが頭で「わかる」レベルではなく、自然と「できる」レベルにあることだ。

こうして、三年目に差し掛かろうとするころには、すでに二周期、年間で事業全体の動きを目で見て、肌身で感じている状態が出来上がる。
だから、次の一年が始まる前の10〜12月には、次の一年はどうなるのだろうか、どうするべきなのだろうか、ということを考えられるようになる。

少し、ビジネスで使えそうな大局観が身に付いてきたということだ。

ある組織の中で、具体思考・具体行動を繰り返していると、
良い意味でも悪い意味でも「慣れ」が出てくる。
その”慣れ”によって、実は新人の頃に時間を費やしていたホウレンソウの時間や基礎的な確認・質問の時間が削減されている。

そうすると、外資やイケイケのベンチャーを受けるような多くの学生が得意だった抽象思考を再度実践する余裕が生まれてくる。
具体思考ができるようになった状態で、この抽象思考を織り交ぜられると、フェルミ推定やロジカルシンキングを一生懸命勉強していた学生時代よりに捻り出したようなアウトプットよりも、かなり解像度・精度・現実性が高いアウトプットを捻り出すことができるようになってくる。

それは、時間軸の感覚と仕事の現実感が実経験として装着されているからだ。

この複合的な抽象⇆具体を行き来する思考法が、本当の戦略的思考につながる一つの登り方なのではなかろうか。

まとめとしての”石の上にも三年”

こうして、三年経つと一生懸命頑張っていれば、一般的な人でも結果として中長期視点(抽象思考)と短期視点(具体思考)の2つの視点を複合的に織り交ぜた戦略的な思考がある程度できるようになっている。

結果、仕事がやりやすくなり、自分の意見・主張も生まれ、提案もできるようになる。
一般的に「仕事ができるようになる」「仕事に慣れてくる」と言われる状態である。

総合して振り返ってみると、ビジネスにおける、石の上にも三年ということわざは、
「ある一つの領域において、物事・事象の因果関係や相関関係を、頭で概念として理解できているだけではなく、それらを血肉として自身に内包し、体感としても経験して理解し、自身の能力として一定できる水準に至るまでに必要な時間として、三年が一つの目安である。」
という意味を含むのではないか、と考えている。

もちろん、”わかる→できる”までにかかる時間は人によって違うので一概には言えないが、僕を含め、多くの人には一定あてはまるのではないだろうか。

石の上にも三年。
たった7文字であるが、先人らの様々な経験知の結晶が詰まっていると感じた二年目の師走であった。

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