母のこと
母と僕が所属している俳句結社「澤」の全国大会が仙台で2泊3日で催された。母(93歳)は、もう歳だから歩くのも大変だし、参加しないと言っていたのだが、ずっと付き添うからと母を説得し一緒に参加することにした。その帰路のこと。
母と東京駅で別れたのは日曜日の16時ごろだったか。そのまま都内の実家にタクシーで帰るという母を改札口で見送ってから横須賀線に乗り、家に着いたのは18時前だったと思う。早速、実家に電話をかけるが誰も出ない。しばらく間を置いて電話するがやはり誰もでない。
東京駅からどんなに時間がかかったとしてもタクシーなら1時間もかからないで着くはず。母は一人暮らしなので、他に電話をとる人もおらず、携帯電話は持っているものの、おれおれ詐欺対策で電話の着信は表示されないことになっているので、こちらからは連絡を取ることができない。
間を開けて何度か電話をかけるがずっと留守。もう別れてから4時間はたっている。
歩行用のカートを押したまま、2泊3日旅行の荷物を持ったまま、母はどこに行ってしまったのだろう。
ようやく母からの着信があったのは夜の9時半くらいだったか。
いま家に着きました。久しぶりだったから新宿でタクシー下ろしてもらって、いろいろ見て回っていたらこんな時間になっちゃった。あんたも疲れただろうから早く休みなさいよ。
ははの日の母音信の途絶えたる シゲヲ
別の日のこと。
最寄りの駅で行われた句会のあと、母は句友たちと数人で駅近くのカフェのガーデンでお茶をしたらしい。
それでね、ケーキセットでサバランを頼んだのだけど、ブランデーがたぽたぽしていて、食べ終えたら体がかーっと熱くなって、くらくらして立ち上がれなくなったからびっくりしちゃったわよ。
母は普段はお酒を飲まず、飲んだとしてもビールを一口ぐらいのむのが関の山だ。
それでね、その時のことをどうにか俳句にしようと思うんだけど、なかなかうまく出来ないから、昨日ひとりで電車に乗って同じカフェに行って、もう一回サバラン食べて来たわ。大丈夫、この前は空きっ腹だから酔っちゃったけど今回はご飯食べてから行ったから。
サバランに酔ひぬみどりの中のカフェ 安子
そんな母が先日救急車で病院に搬送された。
急な高熱が原因。
付き添いで救急車に乗ってくれた近くにすむ伯母から連絡があり、コロナとのこと。ただ、5段階中で1くらいの軽いコロナなので、自宅療養してくださいとのことで、家に帰されたらしい。あれほどコロナに罹ることを恐れていた母だがとうとうコロナになってしまった。
翌朝、母から連絡があり、熱はすぐに下がったが、体の違和感は続くので、しばらく家でゆっくり休むことにする。お見舞いにきてもどうせ会えないので来なくていいというので、とりあえず兄弟と相談し、経口補水液の宅配を手配し、こまめにLINEで連絡をとりながら様子をみることにした。幸いなことに近くに住む叔母が食料を届けてくれるので助かる。
搬送されてから3日目の母からのLINE。
熱も下がり楽になりました。おばちゃんにお寿司を買ってきてもらい食べたら元気も出て来ました。
鮨たひらげぬコロナ療養中の母 シゲヲ
まだまだ元気そうな母は今日94歳になる。ちなみに僕も今日で58。
蚕豆むく母と子同じ誕生日 安子
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