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キス釣り

午前5時前。目覚めると、ざっと着替える。野菜室にしまってあったジャリメを入れた木箱をクーラーボックスに移すと、釣り竿と竿受けを持ち、近くの海岸に向かう。
今日は大潮。満潮は15時だからちょうど、キスの活性も上がっている時間のはずだ。昨日もそう思って海に向かったが1匹も釣れなかった。一昨日もだ。せめてフグでいいからかかってくれないか、そんなことを思ったりもする。釣れてもどうせ逃すだけだが。
釣れないのなら海に行かなければいいのだが、3日前に釣具屋で購入した餌のジャリメは、当初の威勢の良さはなくなったが、しっかりと冷蔵庫の野菜室で生きている。捨てるくらいなら、せめて釣りの餌として最後を迎えてもらいたい。そんなぼんやりとした勝手な使命感が僕を海へと向かわせる。
おはようございます
朝の海岸にいる人はいつも大体いっしょ。散歩する人、ランナー、ゴミ拾いに精を出す人。
釣れていますか。
いや、これから釣れる予定です。
ここ会話も数日間いっしょ、心なしか返答の声のトーンが低いのは気にしすぎか。
日曜日、女の人が大きなシロギスをあげていましたよ。あれなら刺身にもできるんじゃないかな。
昨日夕方、何匹が釣っているのを見ましたよ。
いろいろな人が教えてくれるが、水温が低いからまだ浜にキスが寄ってきていないという僕の言い訳の根拠が砂のように流されていくだけだ。僕の竿には一向にあたりがこない。
竿を変えたのが良くなかったか。
少し長めの竿にして飛距離を稼ぎ、沖にいるキスにアプローチしたいと思い3mの竿を思い切って購入したのが、それから全く釣れなくなった。
果たして釣りの定義とはなんだろうか。魚を釣り上げることが、釣りとするならば魚を釣り上げていない僕は、釣り人といえるのだろうか。釣り人もどきなのか。
海岸の中央ではラジオ体操が始まっている。もうじき竿を納める時間だ。ジャリメもあと数匹。
と、竿にあたりが来た。慌てるな。ビクッビクッいう引きを確かめながらゆっくりとリールを巻くと、なんとも美しいシロギスが1匹。
犬の散歩の人に祝福され家に帰ったのだった。

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