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溶鉱炉 作品集

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同人文芸誌「溶鉱炉」にて執筆した小説を掲載します
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記事一覧

雪原の桜(6)

雪原の桜(6)

宋建民 1

『本日、新宿歌舞伎町の雑居ビルで殺人事件が起きた模様です。今日午後七時ごろ、会員制クラブ『ブルーバタフライ』の店内で、指定暴力団工藤組の幹部金山龍一、四十七歳が突然店内に入ってきた何者かに銃撃されました。その後、病院へと搬送されましたが、間もなく死亡が確認。発砲した男はサンタクロースの格好をしており、そのまま逃走。周辺を巡回していた警察官が追いましたが、逃げられたということです。警察

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雪原の桜(5)

雪原の桜(5)

由里子 1

 こんなはずではなかったのに――
 江口由里子はクリスマスの甲州街道を新宿から初台へ向かって歩きながら、先ほど起こった出来事を反芻していた。

「妻とは別れて、お前と結婚するつもりだよ」
 そんな言葉が嘘だということはもちろん分かっているつもりだったし、本気で言っているなんて信じていたわけではない。
 ここ一カ月ほど体調がすぐれずイラついていたせいだろうか、どうしてあんな言葉が口をつ

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雪原の桜(4)

雪原の桜(4)

綾野 2

 穂村の話が一段落したあと、少しためらいはあったが綾野はひょんなことから手に入れた拳銃の扱いについて相談することにした。
 説明するよりも実物を見せた方が早いと思い、紙袋から慎重に取り出してテーブルの上にゴトンと置く。それは、俗にリボルバー式と呼ばれるものだろうか、六発の弾が装填出来る回転体の付いた一丁の拳銃であった。さらに袋の奥には、ご丁寧にチョコレートの箱にカモフラージュして入れら

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雪原の桜(3)

雪原の桜(3)

穂村2

 穂村は九州の筑豊地方の出身である。昭和初期から高度成長の時代にかけて発展した炭鉱の街だ。
 穂村が物心ついた頃には、もう現役で採掘している炭鉱はなかったが、周りには人が住まなくなってもぬけの殻となった炭鉱住宅や、稼働を止めたまま何年経っても処分されない工場や設備が廃墟と化して点在していた。
 近所の子供たちは、この廃墟を遊び場としていたが、あるとき廃工場の壁が崩れて、遊んでいた子供が足

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雪原の桜(2)

雪原の桜(2)

綾野1

 待ち合わせの場所は歌舞伎町の入り口となる、ドンキホーテ前の角であった。ジングルベルが鳴り響く街は浮わついたカップルで賑わっている。今年はクリスマスイブが金曜日だということで、例年よりも一層人出が多いのだろう。そう思いながら、独身で恋人のいないは、同じく寂しいバツイチ独身の男友達、穂村の到着を待っていた。

 穂村は綾野の大学時代の同級生だ。この二人に竹本を合わせた三人が学生時代から三十

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雪原の桜(1)

雪原の桜(1)

穂村1 築地にある国立がんセンターを出た穂村雄介は、地下鉄に乗って新宿へと向かっていた。今日は歌舞伎町で綾野と飲みに行くことになっている。座席に腰を下ろすと、向かいに座る六歳くらいの女の子が隣の母親にプレゼントをねだっている。「はいはい、いい子にしてたらサンタさんが持ってきてくれるかもね」と母親は軽くいなす。
 今日はクリスマスイブだ。その隣では二人組の女子高生が、これから行くのであろう友達の家で

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