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UXリサーチにまつわる主観と客観の対立構造を超えた「間主観性」

まえがき

UXリサーチにおいて、定性分析・質的分析をする場面があります。これらが提示される時に、安易に量的分析に寄せてしまったり、変に貶められてしまったりすることが多々あります。(補足すると、混合法をとられたり、しっかり分けて量的分析に取り組んでいらっしゃる方・企業もたくさんあります。

そういったことを回避するために、「間主観性」といった言葉を紹介しつつ、UXリサーチとどのような関係にあるのかを考えたいと思います。

主に以下の「質的研究の考え方」からの引用が多いので、興味を持った方は読んでもらえたらと思います。(割と理論寄りなので、論文などを読んだことがない方にはハードかもしれません。

主に上記から、内化ー外化主観ー客観という概念を整理し、間主観性を最後にUXリサーチに結びつけます。

 「内化ー外化」と「主観ー客観」

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(「質的研究の考え方」p.56 4.2質的研究における「主ー客」と「内ー外」より)

リサーチに対してよく言われる「主観的か客観的か」というものとは分けて、「外化されているか内化されたままか」という軸を導入します。日常の動作に結びつけると、外化は言葉や図などで話す・書く・描くことで、内化は読む・聞くこと、と言えます。

しばしば、主観的は内的と(図中左下↙)、客観的は外的と(図中右上↗)、それぞれ同一視がなされる傾向が強いです。しかし、定性・質的データ分析においては、例えば「インタビューデータを記録する」という行為をもって、「主観性を持ったデータを外化する」(図中左上↖)ということを実施しています。

補足として、インタビューは単にインタビュイーの主観を外化するということだけを指すのではなく、インタビュアーの主観と合わせる、共同構築的な作業であるとされています。

質的分析における「間主観性」

ここに、定性・質的データ分析の特長があります。つまり、質的分析においては、研究参加者も分析者も含めた主観性を保持したまま、ことばという形で外化します。そして、外化された主観と外化された客観を比較しながら(diffをとりながら)、新たな知見として気付きを得ることができます。

このような概念を、現象学の分野でフッサールが提唱した言葉で「間主観性」や「共同主観性」と呼ばれています。

それは、仮に同じ赤を見ていたとしても、それぞれの人が見る赤はそれぞれ違う、という解釈においておきるものです。事実としてただ赤いとだけ見るならば単なる客観です。しかし、その客観をもって、誰かが言ったあの思い出の赤だ、といったことばを否定できるでしょうか。つまり、それぞれが主観的に意味づけしている赤は否定できるのでしょうか。そういった主観的な意味を保持したままに解釈するのが、間主観性だと私は考えています。

UXリサーチと「間主観性」

UXリサーチにおいては、インタビューや行動観察などでデータ収集的なことを実施し、KA法、ペルソナ法などのユーザーモデリング技法でデータ分析を実施することが多いと考えます。そして、その現場では、「その人数だけの調査で大丈夫か」といったことがよく聞かれると聞きます。

人数という量的データで仮説の真偽を判断したい気持ちはとてもよく分かります。しかし、それは単に思考を停止してしまってるだけであって、せっかく質的データがとれているのに、もったいないのではないかと私は考えています。

仮説としての妥当性を判断するためにアンケートなどで量的な値を取りに行く方法もありますが、ここではUXリサーチで得られた質的分析結果を「間主観的データ」として扱い、以下のような進め方をしてみませんか?という提案です。

「間主観性」を軸としたUXリサーチ方法の提案

方法1. 人間が妥当性を判断するために得意としている認知能力として、「ストーリー(シナリオ)」に変換し、そのストーリーに共感できるかをチームメンバーが測る
→ 人間は聖書や日本昔ばなしの例に漏れず、何かをストーリーやシナリオとして語られた時に、その妥当性を判断しやすいという特性があります。単なる主観であった質的データを、ストーリーとして共感するに至った時に、それは間主観的なデータになっていると考えられるのではないでしょうか。

方法2. 外化された主観(間主観)と、別を対象とした客観を比べる(diffをとる)
→他で調査された客観的なデータと自分らで調査した間主観的なデータを比べて、そこから言えることは何かを考えます。何か違うことがあった時に、それは属性が違うからなのか、行動が違うからなのか、価値観が違うからなのか、などを考えることで、対象の理解が一歩進むのではないでしょうか。

参考)

書くキッカケになったもの






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