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映画「ブルージャイアント」を観た

映画館では見逃してしまっていたアニメ映画「ブルージャイアント」がNETFLIXで配信されていて、観ました。噂に聞いていた以上に良く出来た作品で、ジャズが本来持つ楽しさやカッコ良さ、それに若いジャズミュージシャンの情熱を感じさせられて、大いに楽しませてもらった。
「ブルージャイアント」は元町時代、お客さんに貸していただき、コミックは読んでいた。何が漫画でジャズやねん、と半ば疑いを持って読んだのだが、これが大変面白く、最後は不覚にも泣いてしまったものだ。それだから、それだから、このアニメ化に関しては一箇所どうしても不満な点があるのは事実で、それは何故事故で演奏できなくなった沢辺雪祈を最後にライブハウスに来させて演奏させたのだという不満だ。原作では沢辺は入院したまま涙を流す。そこが切なくて悲しくて、つい泣いて、これはいい漫画だと認めたのに。きっと製作者サイドが原作を軽視して、涙が止まらない世代にウケる様に変えてしまったのだろう。涙が止まらなけりゃ眼医者に行かせればいいじゃないか。
それか音楽担当の鬼才ピアニスト上原ひろみさんのピアノを立てるという体裁の方を取ったのか。それならそれはアイデアで何とかしろよと思う。何にせよ逆に悲しい結末であった。原作者はさぞ悔しい思いをしているだろうな。ひろみさんのピアノは相変わらずキラキラしていて生命力にあふれていて大好きであるが。

しかし、僕がこの映画を観て、もっと複雑でやり切れない気持ちにさせられた要素は他にある。そしてそれは映画の出来とは何も関係がない。

僕は2012年に神戸元町でDoodlin’を開業した。店は僕の大好きなファンキージャズやソウルジャズをひたすら流し、この音楽を神戸に馴染ませようとしたため、大変ジャズミュージシャンに喜んでいただき、出会いも多かった。なので年に一度、波止場ジャズフェスティバルを主催し、知り合った才能あるミュージシャンに出演してもらっていた。これは閉店するまで10年続いた。
したがって、僕はいつの間にか不本意にも業界関係者と呼ばれる立場になってしまったのだが、そんな目で「ブルージャイアント」の世界と、関西のジャズ業界の現実を照らし合わせて見ると、この恐れ知らずで無鉄砲な魅力溢れる無所属の若者、宮本大も、彼が結成する画期的なJASSも、関西のジャズの現状からすれば、これはもう悲しいことに絶対にあり得ない夢の空想物語、ほとんど「宇宙空母ギャラクティカ」並みのサイエンス フィクションだと言わざるを得ないのだ。「ブルージャイアント」の世界が本当に現実になればジャズの未来はとても明るく、日本のジャズファンの心が豊かになるのに。

まず、映画では仙台から上京して来る高卒で何もコネクションを持っていない宮本大が、持ち前のポジティブな精神と才能でメキメキ登りつめて行き、大衆の心を掴む。しかし、ここ関西では、エリート大学のジャズ研を通っているか、誰か名の通った名手の門下生でなければ、絶対に聴かれるチャンスはない。これはもう20年近く前からなのだが、今も関西でジャズを聴く人というのはほぼ老人である。老人ジャズファンは絶対に自分の範囲を持っていて、そこから出ているミュージシャンなど聴く価値もないぞよと公言しているのだ。あるジャズの老舗スポットに出ているミュージシャン以外は絶対に聴かないあるお医者様なんて、波止場ジャズに来てくれたのはいいが、ロン毛でエレクトニックベースを抱えて登場したプレーヤーが演奏した途端、泣いて耳を塞ぎ、退場したほどである。そして自分が信奉する店に出ている贔屓の演奏が終われば、当たり前だろという顔をして大勢を引き連れ帰って行く。まだプログラムは続くのに。
この人達がジャズ研に所属せず誰かの門下生でもない宮本大や玉田俊二を一瞬でも聴いて見ようかという気になる確率はマイナス10000%だ。
またJASSは自分達のオリジナル曲を演奏してファンを魅了させ、成功した。しかし関西では若者がハンクモブレーやらホレスシルバーの曲を演れば手放しで喜ばれている。SNSでは老人達がやたらライブレポートをあげていて、自分が好きな懐メロを演ったからという理由で褒めているものばかり。僕が知りたい「今日のこいつは目が血走っていた」とか「汗が滴り落ちていた」というレポートは無い(しかも演奏中のスマホ撮影の写真がたくさん。本当に良かったらスマホを出そうなんて気にはならんだろうに)。
また、映画ではジャズ研に所属するエリート、沢辺が宮本大の無知だが情熱に溢れる様と思いもよらない才能を認め、行動を共にするが、ここ関西でジャズ研に所属している者はそこに所属しているというだけでエリート意識を持ってしまい、そうでない者を軽視し、絶対に交流しない。しかも老人ジャズファンがそれを支援している傾向もある。この様に関西でJASSが誕生する確率というのは10000×10000でマイナス100000000%ということになる。計算が合っていることを願う。

さらに関西でJASSの様なレギュラーバンドを若者が結成する機会が全く無いという現実が悲しさを増す。
というのは、関西では何故か知らないけれど、いつの頃からか中年になってから楽器を演奏するか、急に自分がジャズミュージシャンであると主張し出す、僕が名付けた「半習い」が大量発生している。彼らはそれぞれジャズに関与していると思っているのか、望んでいるのか知らないが、ジャズを聴いて楽しむより、セッションという名の自分が練習できる場ばかりに足を向けている。そして多くの生演奏を提供する場が、経験豊富なベテラン達のレギュラーバンドでも後半をセッションタイムとし、彼らに半習いの練習相手をさせるのが常となってしまった。良い音楽を聴かすよりそんな楽器を持って来る中年に場を与える方がはるかに儲かるらしい。このセッションという場だが、僕も時々付き合いで足を向けることはある。良いミュージシャンが来るからと強引に誘われるのだ。しかし、参加者全員が超が付くほど真面目で、ついこの間は目の色変えてブロウしていたミュージシャンがそこでは終始間違えない様に演奏していて、それを宮本大くらいの若者が勉強しながら観ているといった現状で、当然目当てのビッグジェイ マクニーリーの様なプレイヤーはおらず、直近に伺った時は本当に耐えきれずトイレで吐いたのだった。
関西でJASSが結成されたとしても、彼らがやらされることは半習いか糞真面目の練習の相手しか無い。
関西でレギュラーグループが活躍し評価されるということは、ほぼ「未来惑星ザルドス」並みの空想物語だ。

僕は関西に住んでいる以上、もし「ブルージャイアント」を観て夢いっぱいで宮本大の様になりたいという若者がいたら、この現実を教えてあげる立場にならないといけない。それは絶対に嫌である、どうかそんな若者は東京かニューヨークにでも行って欲しい。

関西のジャズ業界は老人ファンや関係者によって「ブルージャイアント」の夢をことごとく無いものにしてしまった。こんなことにならない様に僕は一人で闘っていたのだが、それも2年ほど前に諦めた。仕方が無いと言えばそれまでだ。「ブルージャイアント」は宮本大がドイツで活躍する新シリーズも完結しているらしい。誰かまた読ませてくれないものか?

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