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娘の推し

娘の推しは、私だ。

お風呂に入るのもお母さんがいい。
歯を磨くのもお母さんがいい。
絵本を読むのもお母さんがいい。
お母さんがいないと、眠れない。

「お母さんがいい。」のレベルは高い。
泣き出して収拾がつかなくなるほどに、お母さんがいい。

私はうんざりしていた。
何故、夫ではダメなのか。

ちなみに、私の夫は最高だ。
朝は娘を幼稚園に送っていくし、ほぼ毎日17時には家に帰ってくる。
普通のお父さんよりもずっと多くの時間を子供と過ごすことが出来ていて、もちろん家事も育児も一緒にしてくれる。
育児に関しては厳しい一面もあるのだが、私のように怒りすぎることもなく、基本的には優しくて温厚なお父さんだ。
あなたのお父さんは最高ですよ?と思うのだが、私がどんなに怒ろうと、娘の推しは私なのだ。

「お母さんがいい。」と、こんなに言ってくれるのは今だけだ。
お風呂に入るのも、歯を磨くのも、絵本を読むのも、手を繋いで一緒に眠るのも、私に望むことが無くなるときが、あっという間に来ることは分かっている。
泣くほど私を求め、私を愛してくれる時間は、ほんの少ししかない。一瞬で過ぎてしまうことは分かっている。


だが...しかし...


分かっていても、イライラする。
「お母さんがいい。」へのイライラは止まらない。

昨年生まれたばかりの息子に手がかかることもあって、娘に手を掛けてやれる時間が格段に減ってしまったことも、特に甘えたい原因だろう。
今まで「お母さん」と言えば、ほぼ100%答えてやれたのに、それが出来なくなった今、「お父さん」で心の穴を塞げるはずがない。「お母さん」との時間でなければ、満たされないのだ。


ああ...
全て分かっているのだ。
娘の気持ちが、とてもよく分かるのだ。

それなのに...
頭で理解していても、儘ならない現状にイライラしてしまう。
優しく諭してやれない自分の未熟さに、またイライラを募らせる日々。

打破出来ない現状と、押さえきれないイライラで、「お母さんがいい。」に愛想がつきそうになったとき、ふと、思い付いた。




娘はもしかしたら、
飼っていた猫の生まれ変わり...?




そうだ、だから、どんなに優しく諭しても、どんなにどんなにどんなに言っても、夫ではダメなのだ。

だって、私が飼っていた猫なのだから。

夫がどんなに優しい人でも、夫の事など知らないのだから。

私が推しに決まっている!!!



そう思い込んだら、どれだけ頭で考えて娘の気持ちを理解するよりも、何故か一番説得力をもって、私のイライラを溶かした。

私の猫なのだから仕方ない。

もちろん、そう思ったとて、「お母さんがいい。」「いや、お父さんでお願いします。」が覆るわけではないのだが、そこで泣かれたとしても、怒ることはなくなった。
だって、私の猫なのだから。
でも、今日はお父さんでね。
と、思えるようになった。

娘の心が成長したとか、私が母親として成長出来たとか、根本的には全く解決していないので、たぶん、良くはない。

でも、これでいいのだ。
私の心が平穏であることが、一番の薬なのだから。




ちなみに、私は基本的には、生まれ変わりとか信じない。
自分が死んだあと、先に死んでいった人達に、もう一度会いたいと思うからだ。

でも、私が死んだあと、天国に行ってチビを探していたら、神様に、
「チビはあなたの娘に生まれ変わったから、ここにはまだいないよーん」
と言われてもいいような気もしている。





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