ユーザベースから学ぶ「組織崩壊」と「カルチャーの再生産」前編
はじめに
前回書いたこちらの記事ですが、最後に書いた通り、ある方に入社いただきたくて書き上げたものでした
こちら、無事ご入社いただきました!!
採用は心身にくるものではありますが、想いが通じた時の喜びはなにものにも代えがたい、深い充実感と将来へのワクワクがあり、やめられないですね
この成功体験を経て、柳の下でどじょうを待つのでもなく、切り株の前でうさぎを待つのでもなく、積極的に柳と切り株を植林して、引き続き前のめりにAmazing Peopleの採用活動と循環型社会の実現に取り組んでいきたいと思います
閑話休題
モノグサはおかげさまで事業を開始してから約6年が経ちました
社員も140名を超え、導入いただいているお客様やサービスをご利用いただいているユーザーも増え続けています
創業期に1人目社員としてジョインした自分としては
「よくここまで来れたなぁ」
と感慨もひとしおと思いきや、残念ながらそんなことはなく、常に経営者として本当にコレでいいのか?と葛藤しながら日々生きています
むしろ、創業期は経営者というより、1人の創業期人材として遮二無二やっていたように思うので、ミドルステージとなった今、経営者としての1段、2段進化が求められているように強く感じています
誰か全国共通経営者一次試験作ってくれー
回答形式はマークシート方式でお願いします
トルストイは「すべての幸せな家庭は似ている。不幸な家庭は、それぞれ異なる理由で不幸である。」という名言を残しましたが、それにならって先輩スタートアップに相談してみよう、というのが今回の企画です
※あえて「成功」ではなく「先輩」という表現を使っています
vol.1はユーザベースの創業期にジョインされて、現在はUB Venturesの代表取締役である岩澤さんにお話を伺いました
※以下、敬称略
ミドルステージのスタートアップって?
細川)
今回、ミドルステージのスタートアップの経営についてリアルなところだったり、あるある的なことをお話しつつ、こういうところに留意して経営できるといいよね、ということをディスカッションさせていただければと思ってます
最初にミドルステージのスタートアップの定義からなんですが、私の感覚としては起承転結の承にいる会社かな、と思ってまして
起が創業期で、そこは超えたが、まだ偉大な会社になるか、そうでないか、どちらにもなりうる状態。転に近づきつつあるスタートアップがミドルステージかな、と
岩澤)
でも結しちゃって大丈夫?笑
細川)
笑 会社の中でまた起をして、繰り返していくイメージです笑
岩澤)
企業のモメンタムが変わるみたいなイメージだよね?
細川)
はい、そうです!
岩澤さんの目から見て、ミドルステージのスタートアップってどう見られていますか?
岩澤さん)
ミドルステージは属人的な成長から組織としての成長に変わる瞬間な気がしています
早くいくなら一人で行け、遠くに行くならみんなで行け、っていう言葉があるじゃないですか?
その転換点がミドルステージな気がしますね
細川)脱属人化しているというより、その過渡期というイメージでしょうか?
岩澤)
そうですね
いわゆる創業期からいて「俺一人の力で何でも出来るぜ」というプレイヤーと、「仕組みを作って仕組みで勝つ」というマネジメントが併存する、一番荒々しい時期な気がしますね
細川)
それは自分の実感値としても、すごくしっくりきます
岩澤)
今感じている成長痛はありますか?
細川)
色々ありますが、経営としてより遠くに行きたい。しかもそれをもっと速い速度で実現したいという想いはあるのですが、そうは言っても現場は大変であるという中で、距離感や目線の合わせ方には難しさを感じています
岩澤)
それはユーザベースでもありましたね
経営として行きたい高さと速度みたいなものがあると思うのですが、それを実現しようとみんなに伝えても、現業の忙しさからギャップが生まれたり、むしろプロジェクト止めてくださいってなったり
あるいは事業の成長速度を止めて、組織の再構築をしたいです、みたいなことを自分も言っていたし、マネジメントとして言われたこともあります
細川)
そうですよね
ちなみに岩澤さんがユーザベースに入社されたのっていつ頃なんでしたっけ?
岩澤)
入ったタイミングは2011年で、社員とアルバイト20人いなかったくらいのタイミングでした
細川)
その時って、スピーダはあって、NewsPicksはローンチ前、みたいな時でしたっけ?
岩澤)
そうです
ただ、スピーダはまだ日本語版しかないし、現在の一番の競争優位性である500業界以上をカバーする業界レポートもなくて、スピーダの最初のPMFに入りつつあるタイミングでした
細川)
先ほどの経営とのギャップみたいなところって、いつ頃感じられました?
岩澤)
何回かあったと思うのですが、最初は入社して1年後くらいのタイミングです
創業者の梅田が営業をして、稲垣が開発する。それ以外は岩澤がやるみたいな環境でした
※新野さんは病気療養中
そうすると、現場から「こんなプロジェクトは無理です!」みたいな悲鳴が私のところにきて
で、私が分かった、と。私が意見を取りまとめて梅田と稲垣に掛け合ったんですよね
みんな苦しんでいるので、プロジェクト止めて、戦略変更しましょう、と
それが見事に組織崩壊を招きました
組織崩壊への道は善意で舗装されている
岩澤)
どういうことかと言うと、岩澤が率いる現場対経営という構造を予期せず作ってしまいました
自分としては入社してなんとか会社のために貢献したいという想いでやったことなんですが、結果として創業者を孤立させちゃったという
で、見事に組織崩壊して、それがきっかけとしてできたのが7つのルールです(現 7つのバリュー)
細川)
なるほど。属人的な成長から組織的な成長に移行しようとしている、まさにミドルステージで起きてしまったということですね
岩澤)
そうです。今もホームページのバリューのページに、組織崩壊が起きて、このバリューが出来たと書いてあるんですが、その張本人が私なので、それを見るたびに心が傷つくという笑
細川)
なるほど笑
岩澤)
そんな思い出深い話ですね
そこから何が言えるかと言うと、たまたまユーザベースは30名を超えたタイミングで起きたことですが、多分今のスタートアップにも当てはまることだと思っていて
成長期に、外部から経験のある人が入社してきますよね
私のように、自分の付加価値を何か出したいという思いが強くなればなるほど、ちょっとした掛け違いで経営との溝を生んでしまったり、組織崩壊のきっかけを招いてしまうことが多分にあると思っています
それゆえに、色んな経験がある人たちがいるんだけど、議論が割れたりした時に、最後立ち返るバリューや原理原則みたいなものがないといけないな、と自分の中では昇華されています
細川)
組織崩壊っていうワードって、よく出てくると思うんですが、モノグサにおいて組織崩壊を経験したのか、正直あまり良く分かっていなくて
組織崩壊の定義って、岩澤さんの中でどう整理されていらっしゃいますか?
岩澤)
これはやっぱりあれじゃないですか
日々の事業やチームを運営していく上で、めちゃくちゃ細かい疑義が握りつぶされている状態じゃないですか
細川)
なるほど...
岩澤)
例えば、現場でお客様からこういう改善要望が来ました、と
ただ、この内容って、細川さんに言っても優先順位が違うから跳ねられちゃうな、と思って社内に共有しない、みたいなのが多発している状態だと思います
細川)
なるほど...
現場は知っているが、出せない、出さないと
経営も情報が上がってこないから実態が分からない、と
ただ、なんか事業が上手くいっていないことは分かるから、現場はもっと頑張れるんじゃないか、みたいな感じですかね
岩澤)
そうですね
当時の状態で言うと、現場から経営に伝えなきゃいけないという情報はたくさんあるが、経営は忙しいから、伝えても無駄じゃないかみたいな空気感がありました
そういう中で、たまたまオフィスによくいる私に意見が集まってきて、それを私が取りまとめてしまったがゆえに経営陣から「え、そんなことが起きているのに、なんで言ってくれなかったの?」となってしまったという
細川)
これ、どこまで表に出していい話なのか分からない前提でお聞きしたいのですが、岩澤さんがとりまとめた意見を梅田さん、稲垣さんにぶつけたときって、どういうリアクションだったんですか?
岩澤)
いやもうめちゃくちゃ落ち込んでましたよね
現場のメンバーは自分たちに直接言ってくれると思っていたのに、なんで言ってくれなかったんだ、と
しかもなんでその意見を岩澤に言ってるの、と
岩澤も岩澤で、変に取りまとめるみたいなことをするんじゃなくて、直接対話を促すような動きをしてほしかった、と
細川)
なるほど...
ショックを受けられたということは、そこからまた仕切り直して、みんなで一緒に頑張っていこうとなってもよいのかな、と思ったのですが、そうならなかったということですよね?
岩澤)
そうですね
もっと具体的に言うと、梅田、稲垣とその対話をした時には、実はそういう話にはならなくて、二人が落ち込んでその場は終わったんですよね
で、その数週間後に新野が病気から戻ってきて
戻ってきたタイミングでメンバーと1on1する中で、私の順番になりまして
個人的にはめちゃくちゃ褒めてくれると思っていたわけですよ
細川)
自分がいない間、会社を守ってくれて
岩澤)
そうですそうです
そしたら、ちょっといい?って言われて
休みの間、何やってた?と聞かれて
いや、これこれこういうことをして、会社のために頑張っていたんですよ、と言ったら
そっか、それさ、めちゃくちゃ気持ちよくなかった?って言われて
え、どういうことですか?って聞いたら
それは、阿る(おもねる)って言うんだよね、って言われて
細川)
厳しい...
岩澤)
阿るっていう日本語聞いたことがなくて、どういう意味ですかって聞きまして
結局、新野さんが言っていることはを私はすごく納得したんですが、現場と経営のコミュニケーションを私は分断してしまっていた、と
その結果、現場と経営の間での透明性がない状態を生み出してしまい、梅田さん、稲垣さんを孤立させてしまったのだと
つまり、自分に意見や疑義が集まってくることは別によいが、その内容だったら直接経営に話してみたら、とか、伝えづらければ自分もフォローするから一緒に話そうよ、とそういうコミュニケーションを取るべきだった、というフィードバックを新野さんからもらって、私としてはそれにとても納得をしました
オープンコミュニケーションの重要性
細川)
新野さんの仰ることも理解しつつ、まさにミドルステージって、組織階層を作っていっているフェーズだと思うので、マネージャーのような中間の役割の人が、現場から意見が上がってきた時に、何でもかんでも経営と直接話したら、と促すのも違う気がするのですが
岩澤)
この塩梅はすごく難しいですし、内容にもよると思います
ただ、直接話せるという風土を丁寧に作っていかないと、ほんの小さなひずみから、オープンマインドなコミュニケーションをしなくてもよいという風潮がどんどん大きくなってしまうんですよね
なので、一回最初にオープンマインドなコミュニケーションのカルチャーが会社やチームにちゃんと定着すれば大丈夫だと思うんですよね
このオープンコミュニケーションの基盤がない状態で階層構造を作っていくと、必ず同じような問題が起こるんじゃないか、というのが私の仮説です
細川)
なるほどなぁ...
岩澤)
昔社内向けにこういう図を作ったんですが
岩澤)
小さな疑義を一回、握りつぶしちゃうと、自分の立場では言うほどじゃないよね、となっちゃう
そうすると、今度は言いやすい人同士で愚痴が始まって、ちょっとした疑義がめちゃくちゃ増幅するんですよね
細川さんって、あのテーマ話した時に表情固まったよ、みたいな
細川さん全然そんなことないのに、「え、もしかしたらこのプロジェクト来月なくなるんじゃない」みたいな不安が現場で勝手に増幅されていって、どんどん疑心暗鬼になって「あれ、細川さん俺のこと潰そうとしてんのかな?」みたいな形になって、さらに直接話せなくなる、みたいな
細川)
あぁ、なるほど...
岩澤)
その負のサイクルが起きると
これは全社という単位じゃなくても、チームのような小さなクラスターでも起こる話なので、このサイクルをいかに最初のところで根絶できるかが大事だと思っています
細川)
その負のサイクルを起こさないため、つまりオープンなコミュニケーションの風土を作っていくために7つのルールを設定したんですか?
岩澤)
当時決めたのは7つのルールを作るのとは別に、オープンコミュニケーションポリシーというものを合わせて作りました
岩澤)
まずはその人の前で言えないことは言わない。つまり何も言わないことは信頼の証である、と
何か疑問に思ったことがあったら、必ず対話をする。そういうカルチャーを作るということ
あとは何か疑義があったら、それをそのまま握りつぶさない、ということであるとか
なにか意見が違ったら、必ずお互いの景色を交換する。まず相手の意見を聞きながら、お互いの景色を交換する
その他にも、駆け引きをしないとか、コミュニケーションにイニシアティブを取るとか、オープンにコミュニケーションすること=何でも言っていいってわけじゃなくて、相手をディスカレッジさせちゃいけない、とか
このオープンコミュニケーションポリシーの発信をバリューの設定とほぼ同時にやりました
Value is King
細川)
組織崩壊から、その後のユーザベースさんの礎となる7つのルールやオープンコミュニケーションポリシーを作られたということですが、浸透させるためにどんなことをされていたんですか?
岩澤)
多分、カルチャーやバリューって、原理主義的にこうあるべきって、発信しても定着しない気がしていて
例えば、私のこの事件について、実はその後に全社会議で議論したんですよね
なので、具体的な事象に基づいて、この時はこういう風な行動をしようね、ということをチームで共有していくことの繰り返しが、いい方向に積み上がっていくんじゃないかと思っています
細川)
お経のように唱え続けることも、もしかしたら大事かもしれないけど、具体的な事象をもとに振り返っていく、発信していくということですね
ちょっと話がズレるかもしれないのですが、モノグサってユーザベースさんと似ていて
ユーザベースさんも創業期から3名の経営メンバーの方がいらしゃったと思うのですが、モノグサもそうで
私も含めて3人の経営陣がそれぞれ得意不得意や価値観も違うので、統一的に発信する難しさは少し感じてはいて
このあたりどうでしたか?
岩澤)
三者三様ですよね、分かります
7つのルールができるまでは、なんとなく同じことを言っているけど、細かいところでは違うな、ということは当然あって
ただ、7つのルールが出来てからは、Value is Kingというか、創業メンバーの上位概念としてこのバリューがあるという形に設定しました
細川)
なるほど...
岩澤)
そこは徹底していたと思います
つまり、創業メンバーの価値観を言語化したものではなく、その時いるメンバー全員が持っている、いい価値観の最大公約数である、みたいな考え方でバリュー作っていましたし、そういう発信をしていました
だからバリュー自体はその時の組織に合わせて、いつでも可変性のあるものなので、7つのバリューが8つのバリューになることもある、と言っていましたね
なかがき
スタートアップの経営やマネジメントを学んでいく中で、必ずと言っていいほど目にする「組織崩壊」というワードですが、ここまで説得力があり、かつシャープな定義を見たことはなかったです
とても生々しい話で、他人事とは思えず、帰り道ずっと考えていました
一方で、その組織崩壊を経て生まれたバリューやコミュニケーションポリシーをまさに岩澤さんは体現されていて、その威力とユーザベースさんの強さの秘密を垣間見た気がします
後編では、ミドルステージのスタートアップが、どうやってカルチャーを再生産するかについての話題になります
それでは!
後編に続く
なお、モノグサでは引き続き積極的に採用活動しております!
私に直接ご連絡いただく形でもまったく問題ありませんし、今回のテーマについて議論したい、ということもウェルカムです!
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