寺山修司と一緒に住んでる

先日、神奈川近代文学館で寺山修司をテーマとした特別展があった。知らずにたまたま友人と通りがかり、喜んで展示を見た。ファンというのもなんとなくおこがましい程度だが、寺山修司は兼ねてから好きだ。持っていない本を見かければ(財布の中身を確かめてから)買うし、文学館なんかで特集があれば、遠くなければ足を運ぶ。青森にあるという記念館にもいつか行ってみたい。

展示は寺山修司の秘書を長年務めてきた、田中未知氏収蔵の資料が中心で、悪いとは思いつつ興味深くて友人たちそっちのけで見入ってしまった。大変満足し、そして帰りに、自分用のお土産として、寺山修司の顔写真がプリントされたけっこう巨大なお面を買った。

いや。

何で。

用途がマジでわからない。寺山修司は好きだけど、寺山修司のお面を自分の持ち物にしたいかどうかはまた別の話じゃないですか?

しかも、本当にけっこうデカい。更に言うなら何というか、寺山修司の眼光で見つめられると失礼ながら勝手に怒られそうな気持ちになってしまって、ありていに言うと怖い。自分で選んだのではなく、完全に友人たちに乗せられて買ったのだが、多分乗せたほうも完全にノリで乗せた理由は特に無い。

何で! 財布出すのはわしやぞ!

しかも買うときにレジのお姉さんに、「カラーなので500円ですね」と言われた。マジか? もしかして白黒もあったのか? わざわざ高いほうを買っちゃったのか? 購買理由:虚無なのに!

帰りに文学館の前で、寺山修司のお面をつけて写真を撮った。撮れたものを確認すると、巨大な男の顔面を身につけた自分がいた。いや。だから何で。自己主張の強い寺山修司の幽霊が映った心霊写真に見えないこともないし。何だこれ。

家に帰ってからが更に困った。今まで買ったインテリアの中で一番、置き場所が無い。試しにリビングの窓際に飾ってみたら、完全にアウトだった。怖い。部屋に男の生首がある。試しに電気を消して見ると、暗闇の中、異様な大きさの男の生首がうっすらと窓のこちらに浮かび上がり、しかも目が合った。私は一人頷く。これで心臓の弱い人はうちに招けなくなったな。

夫が帰宅した。あえて何も言わずにいたせいで、本気でびっくりしていた。声をあげて後ずさり、数秒固まった後でぽつりと、「ついに出たかと思った」と言われた。奇妙な満足感があった。私はもう一度頷く。

「紹介するね、今日から一緒に住む寺山修司です。生首だけどよろしく」
「嫌だよ……」

かくして寺山修司のお面は、わずか500円で家をゴーストマンションにしてしまうお手軽ホラーキットと成り果てた。ちなみにここまで読んで下さった方の中には、お面はインテリアじゃないとか、じゃあ納戸にでもしまっておけばとか仰る向きもあるとは存じますが、何ていうか……寺山修司は、そういうんじゃ……ないから……(好き)

そうして半年ほどは我が家の窓際に飾っていたのだが、冬場の間は窓の結露が心配だったので、キッチンの後ろの棚に飾った。料理をしていると時々、背中のあたりに鋭い視線を感じる。振り向くとそこには、ほら、異様に巨大な男の生首が……。

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