一人の少女が、メロスにイージーケアストレッチクロップドパンツを捧げた。

気がつけばユニクロの店員みたいな格好をしていることが多い。服装をユニクロに頼り過ぎていて、クローゼットの中の服を適当にとって身につけるだけで、意図せず全身ユニクロコーデが完成してしまうのだ。

もともと洒落っ気が薄いせいもあるが、今は通勤が私服のせいもある。ユニクロ以外で服を買おうと思っても、通勤にも使える服…と思って探すと、いつのまにか自然とユニクロに行き着いてしまうのだ。

とにかくユニクロに通い詰めているので、オシャレには疎くともユニクロには目敏い。メロスには流行がわからぬ。けれどもユニクロの新商品に対しては、人一倍に敏感であった。

あるとき職場で女性の上司が、ユニクロのパンツを着ていた。そのときたまたま、メロスも同じパンツを履いていた。もちろんすぐに気が付いた。あっ、あの人が履いているの、ユニクロのイージーケアストレッチクロップドパンツだ!

服の被りに気付いても、メロスは激怒しなかった。ユニクロのヘビーユーザーにはありがちなことだからである。メロスはむしろ歓喜した。お揃いですねウフフ、と声には出さずにこやかな視線を送って、割と大事めの打ち合わせ中だったので何ニヤニヤしてんだと小突かれた。

かようにユニクロで発生する不意の双子コーデには慣れたものであるが、ついこの間、とある飲食店に行ったときには少々ヒヤリとする目に遭った。

そのレストランでは女性のウエイターさんたちが、5人くらいで忙しそうにホールを回していた。そしてどうもそれが制服の代わりらしく、全員後ろで髪を一つにまとめて、ユニクロのストライプのワイシャツとユニクロの黒いパンツを身につけていたのだ。

偶然にも私はそのとき、髪を後ろで一つにまとめてユニクロのストライプのワイシャツとユニクロの黒のパンツを身につけていた。店員さんたちと全く同じ格好である。いや、こんな偶然ある???

咄嗟に危ぶんだのは、他のお客さんに店員と勘違いされることである。折悪しくランチタイムで、店内はかなり混んでいた。しかもランチセットにはドリンクバーが無料で付いており、デトックスウォーターとかフレッシュフルーツジュースとか初めて見るハーブティーとか、種々の小洒落たドリンクが様々に用意されていた。

絶対全部飲みてえ。メロスは、必ずこのドリンクバーを全制覇せねばならぬと決意した。

そういうわけで、店員と全く同じ格好をしているにも関わらず全く店員ではない謎の女が、テーブルとドリンクバーを何度も往復して店内をウロウロウロウロ歩き回るはめになった。これはかなりの混乱を誘った。都合4回は声を掛けられただろう。

想像してみてほしい。ドリンクバーで「コーヒー切れてるんでけど…」と声を掛けた店員が、「はあい」と返事してから普通に客席に戻って行って、やおらに飲み食いをし始める様子を。私だったら、ドッキリを疑う。

……何で「コーヒーくれ」に「はあい」つっちゃったのか自分でもよくわかんないんですけど、なんか何故かびっくりしちゃったっていうか……妙に照れちゃって……そしたら急にコミュ障になっちゃったみたいな……だから悪気はなくて……ごめんあのときのお客さん……。

勇者は、ひどく赤面した。

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