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私の好きな男の話

好きな男がいる。今のところ、顔も性格も声も全て好きだ。「1dayのコンタクトを2週間つけた時に見たら横浜流星」(友達談)というビジュアルイメージを踏まえて、以下、読み進めていってほしい。

好きな男との出会いは、就職先の顔合わせだった。

顔合わせでは1人ずつが前に立ち自己紹介を行った。変わった苗字をしている私の好きな男は、同期や人事、初対面のおよそ30人を前にし、自分の苗字をとんでもない下ネタに例えて自己紹介をしていた。

得体の知れん奴がいると思った。

厳粛な場で大下ネタをかますという爆弾を落としたにも関わらず、好きな男は淡々していた。淡々と、趣味のように、下ネタを話した。

下ネタを誇らしげに話す男は苦手だが、淡々としている男はとても好き。顔合わせで初めて目にした好きな男に対しての印象は、「淡々としている」のパーセンテージが勝ち、最初から好感度が高かった。

それ以降、好きな男と話す機会はあまり無かった。グループワークも飲み会も一緒にならなかった。でも私は密かに好きな男と話すタイミングを伺っていたし、明るい自分と暗い自分の両方を好きな男に見せることで、なんとか興味を持ってもらおうと策を企てていた。

好きな男はそんな私の事を「本当はクソ陽キャなのに、必死にそれを隠して陰キャのフリをしている奴だと思った」と言っていた。

好きな男と3時間、仕事終わりに2人きりで話す機会があった。過去、恋愛、家族のことなど、それぞれが今まで話してなかったことを話した。好きな男は、静かな声で話すので、隣にいてとても居心地がよかった。話しすぎることも無く、聞きすぎることもなかった。私の話にも、ふざけ過ぎず、かつ真面目すぎず相槌を打ってくれていた。

憶測ではあるが、どうやらお節介な同期達が、私の好きな男に私の好意を伝えているらしい。なんだ、知ってんのかと開き直った私は、好きな男に積極的に連絡をしていた。好きな男が、以前、だらだらとLINEをするのが好きでないと言っていたこともあり、節度を持った連絡頻度を心がけながら、おもしれーけど可愛い女と思われることを目標に連絡を取っていた。

好きな男と映画に行くことになった。好きな男はシンウルトラマンが観たいと言っていたが、いくら好きな男と観るとはいえ、シンウルトラマンへの興味があまりにもなく、トップガン観ようぜ?と提案し直した。好きな男は了承してくれ、好きな男が住んでいる街の近くで映画を観ることになった。

好きな男は改札を出てすぐの柱の前で待っていた。引きの絵で見る好きな男は、あまりにも良かった。好きな男は、私が駆け寄るととても笑っていた。普段は私のことをからかってくるくせにこういう所がとても可愛かった。

好きな男は私の服を見て「今日は大人っぽいね」と言ってきた。初対面の人間30人を前に大下ネタをかます男とは思えないほど、スマートなデートの導入だった。

映画の席に座ると、思ったよりも好きな男との距離が近くてドギマギした。しかし残念ながらトップガンの面白さが異常値だったため、上映中、好きな男は空気と化した。これはシンプルにトム・クルーズあっぱれとしか言いようがない。

映画が終わるのは20時すぎだったので、外に出ると暗かった。映画のロケ地だったこともあり、河川敷に行きたいと私は言った。好きな男も直ぐに帰るつもりはなかったらしく、川を求め、2人で歩き出した。

お腹を空かせたまま、暗闇の河川敷を宛もなく歩いていると、オンボロのプレハブで営業しているフレンチを見つけた。好奇心旺盛な好きな男は、ここで食べよう!と嬉しそうだった。

オンボロプレハブのフレンチの店は、大当たりだった。テラス席からは河川敷とその先の夜景が見え、気候も良く、横並びの座りだったため緊張することもなく楽しめた。料理もめちゃくちゃ美味しかった。

このテラス席に居る間、好きな男の好きなところが沢山増えた。お前が痩せる必要なんぞ全くないことを俺が保証すると言ってくれたこと、姉の名前が全く一緒だったこと、普段褒めないのにさりげなく褒めてくれたこと。好きな男は賢くて、あざとい。でも露骨さやいやらしさはなく、本当に居心地が良かった。

私が電車に乗り込む時の別れ際、好きな男は、また行こうねと言ってきた。何度も繰り返して申し訳ないが、初対面の人間30人を前に大下ネタをかます男とは思えないほど、スマートなデートの締め方だった。

昨日、好きな男を含む同期5人と飲み会をしていた。SかMか、という話になり、私が「みんなの前では基本S。でも好きな人の前ではM」と言うと、隣に座っていた好きな男は「みんなの前ではM、好きな人の前ではS」と言った。皆、私たちの関係性に薄々気づいてることもあり、生々しかったのか、誰も何も発さない地獄の時間が流れた。が、私的に、好きな男のこの回答はあざとくて100点満点だった。このスペシャル回答を聞ける場を設けてくれた激安居酒屋に1万までならチップを払えると思うほど、最高だった。

以上が、好きな男の手のひらの上で転がされ続けている私の近況である。

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