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北へ 5 タウシュベツの出会い〜北海道ツーリング〜

 別海町のキャンプ場で静かな夜を過ごした僕は、次の目的地である上士幌町に向かって走り出した。今日はこの旅のメインイベントと言っても良いタウシュベツ川橋梁見学ツアーに参加する予定なのだ。予定といっても地元NPOが主催するツアーに申し込んであるので、何は無くとも時間までに集合場所に行かなくてはならない。朝ゆっくりした事もあり、昼食もセイコーマートで済ませ休憩もそこそこに僕は走り続けた。

 何とか予定通り上士幌航空公園キャンプ場に辿り着いた僕は無人の管理事務所の前で考えた。プレハブ小屋には張り紙がしてあり『夕方19時くらいから管理人が施設利用料の徴収に回ります』と書いてあるのだ。タウシュベツのツアーが終わるのが19時近く、そこからここまで戻って間に合うかどうか?
 考えた結果、入り口付近にテントを張っていたアフリカツインのキャンパーさんにお願いして、利用料を預けて代わりに払ってもらう事にした。僕はそのキャンパーさんの隣にテントを設営し、空荷のSRで糠平温泉に向けて走り出した。
 集合場所の文化ホールに到着すると今日のツアーは僕と横浜から一人旅と言う女性の2人だけとの事だった。定刻の17時、ツアーのワゴン車は貸し出されたゴム長に履き替えた僕たち2人を乗せて出発した。道中、ガイドさんがタウシュベツ川橋梁の成り立ちや廃線に至る経緯などを話してくれた。話の内容は多岐に渡り、その都度僕はJRフルムーン切符の高峰三枝子さんの話やコンクリート建築から間組のダム建設の逸話などで切り返した。同年代であろうガイドさんとの会話は盛り上がり、もう1人のツアー客である30代前半と思われる女性は
「そうなんですねー」
と相槌を打つのであった。

 夕陽に染まるタウシュベツ川橋梁は想像以上に神秘的な佇まいで僕たちを出迎えてくれた。とは言っても本来の役目を終え、半ば見捨てられた形でダム湖の入り口に数十年も佇むこの橋自身にはそんな感慨も無いのかも知れないが。
 橋梁の一部は侵食が進み、アーチの一部がいつ崩落してもおかしくない状態だった。昨年あたりからいつ崩れるか、この姿もいつまで見られるか、そんな情報が飛び交うようになったのが今回ここを訪ねてみようと思った理由なのだが、こうして目の当たりにすると天の邪鬼な僕にはついついいたずらな考えが浮かんでしまう。
「アラスカの川で解氷を予想する掛けがありますよね」と僕。
「あー、アイスクラシックとかって言う」とガイドさん。
「橋梁がいつ崩れるかみんなで掛けたら面白く無いですか?」
そう言うとガイドさんはケラケラと笑った後
「不謹慎です!」とピシャリとひとこと言ってまた大笑いした。

つい不謹慎な考えが思い浮かぶ


そんなやりとりをもう1人の参加者である彼女は楽しそうに聞いているのだった。
 いっぱいお喋りをして沢山の写真を撮り、ツアーは予定を少しオーバーして19時頃解散となった。陽が長いこの時期とはいえ、あたりはだいぶ薄暗くなっている。文化ホールを出ると参加者の彼女が
「今日はどちらにお泊まりですか?」
と聞いて来た。
「上士幌のキャンプ場です。こいつで。」
と僕はSRを指差した。彼女は
「そうなんですね、」と言い
「暗いから気をつけて。お話楽しかったです。」
と少し残念そう(に僕には見えたのだ!)に笑みを浮かべ、ホテルのある方向に歩いて行った。僕もこの辺りに宿を取っていれば、この後食事かお酒でもあったのだろうか?邪な考えを抱えたまま僕は、すっかり暗くなった国道273号を上士幌に向かって走り出した。

 19時半過ぎ、すっかり暗くなった上士幌航空公園キャンプ場に着くと管理人さんが残ってくれていて笑顔で僕を出迎えてくれた。そしてアフリカツインのキャンパーさんもテントから出てきてお釣りと鑑札を手渡してくれた。
 人の好意が本当にありがたいと感じると同時に、何かにつけて俗世間にまみれた考えが浮かんだり、旅先での素敵な出会いに期待したりする自分が恥ずかしくも愛おしくも感じた。そして仕事が思うように進んでいないストレスからすっかり解放されている事にも気がついた。



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