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オートバイのある風景 23 ドートン883

 SRV250とSR400という組み合わせで走り始めた僕ら親子は、この年濃密なオートバイライフを満喫する事になった。走り始めた春から初夏にかけては日帰りのショートツーリング、夕涼みライドからの夜走り、鈴鹿8耐観戦とバイク漬けの日々となり、夏休みには5日間の東北ロングツーリングに出掛けた。秋には紅葉の信州キャンプツーリング、年明けにはまだ寒い伊豆でのキャンプツーリングと本当に良く走った。

 そんな1年が過ぎようとしていた頃、仕事でお付き合いのある人からハーレーのカスタムショップを紹介してもらう機会があった。以前ダイナFXDXに乗っていた事もあり、次は一度スポーツスターに乗りたいと思っていたのは確かではあったが、お付き合いで話をしているうちに「スポーツスターが好きなんです」が「スポーツスターに乗りたい」になり、気がついたら
「スポーツスターを探してもらえますか。」
になっていたのだから、お付き合いというのも恐ろしいものである。
 僕の車歴や好みなどから、ショップのオーナーはリジッドの883、しかもキャリパーが4ポッドになる前のモデルに的を絞り、依頼してから2ヶ月ほど経った4月の初め、99年式のXLH883を探し出してくれた。カスタム製作がメインのお店なので、納車前にカスタムメニューの希望を聞かれた。これは居酒屋に入って「お飲み物は?」と聞かれているようなもので、ここで吊るしで良いですとは言えない雰囲気があったものだから、僕は予算内で収まるよう
「スモールタンクに変えて、色はビートルの淡いブルーで。サスはローダウンしてマフラー等はノーマルで良いです。」
とお願いをした。
 そして仕上がった883がタイトル写真の一台である。そもそも「ハーレー」というより「スポーツスター」に乗りたいと思っていたのでタンクにはハーレーのロゴは入れず、僕が考えた架空のメーカー「ドートン」のステッカーを貼り付けた。ちなみにドートン社は大阪に現在もあるうどん製造機の老舗、道頓堀製麺機をルーツに持つ「道頓堀内燃機」が発祥の二輪メーカーという設定だ。ステッカーの由来を聞かれた僕がこのストーリーを話しところ、ハーレーショップのオーナーが軽く引いていたのは言うまでもない。

 こうして出来上がった僕の「ドートン883」は大カスタム車では無いものの、なぜか人目を引くバイクになった。
「渋いですねー」
と言われて
「オールペンしてローダウンしただけですよ。」
と返すと、大抵の人は「あー、本当ですね」と感心するのだった。
 このバイクはこのように「モテる」バイクだったようで、男女問わず良く声を掛けられた。一度は夏の山中湖畔で信号待ち中、横断歩道を歩いて来たビキニトップにデニムのショートパンツ姿のイカしたお姉さんに
「アタシも同じの乗ってるよー!」
と声を掛けられてドキドキした事もあった。
 そんな事もあり、このバイクに似合うイケおじになろうと思ったか、僕の方も古着を探したり児島ジーンズを履くようになったりと、ライフスタイルに少しだけ変化が出た。それまであまり好きでは無かったアクセサリーに興味を持ち、誕生石のターコイズをあしらったブレスレットを身に付けるようになったのもこの頃である。それまで野球を通じて固くてうるさい父親だったので息子には「旅の安全という意味があるらしい」とそれっぽい言い訳をしたが、
「BMWのライダーはABSや全天候ジャケットだけど、ハーレー乗りは神頼みだよね。」
と笑われたのであった。

 このバイクはその後、九州から北海道と僕のオートバイライフのハイライトを飾る活躍をしてくれる事になるのだが、その辺りはまた改めて。


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