詩 『拳中(こぶしのなかに)』
日蝕の空は
見たこともない色をしていた
太陽の七色は
灰色の奥に影を潜めたままうごめき
時ならぬ夕暮れに驚き騒ぐ
山のカラスとおなじ気持ちにさせる色だった
・
不安はいつだって白い糸のような根をはり
まるで非常食のような実を地中に育てる
寂しくなったら この実をお食べ と囁く声には
確かに聞きおぼえがある
そう思うのは 気のせいだろうか
・
不安の実からしたたる汁に
甘く優しく力を奪われ
その心地よさは言いようもないけれど
時がたてば光が戻ってくるとも知らず
それが宇宙の摂理とも知らず
暗い太陽を見上げては
私はまた カーカーと嘆くのか
・
今 手の中にある一枚の紙には
にぎり続け 汗ばんだその紙には
過去からの知らせが書いてある
「闇を匂わせるな 影をひき寄せるな
どんなにあがいてみても
光の背後に影は生まれるのだから
あんなに忘れようとした苦い過去さえ
今は固く美しい一枚の鱗となって
おまえを支えているのだから
目がくらむほどの輝きを放つ変容の窯に
投げ入れるものを準備せよ」
・
汗でにじんだこの知らせを
どうする…
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