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建設会社が「お家周りの町医者さん」へ 地元のニーズに経営改革のヒントが

株式会社小坂田建設

地方では高齢化、過疎化、少子化、業者の空洞化などが進み、それらは人々の暮らしにも影響を及ぼしています。例えば「ガラスが割れたけど、以前に頼んでいたガラス屋さんは廃業してしまった。どこに頼もう」、「田んぼに手がまわらない」など、困りごとを抱えながら暮らす高齢者が多くいます。

岡山市北区建部町は県南の岡山市街地と県北の津山市街地のほぼ中間にある、のどかな田舎町です。高齢化率(全人口に対する65歳以上の人口の割合)は2021年9月末現在、44.2%。この町で、株式会社小坂田(おさかだ)建設は公共工事だけではなく、建設会社としては珍しい個人の困りごとを解決するビジネスに取り組んでいます。そしてこのビジネスが、倒産寸前だった小坂田建設を救うことにもなりました。

地域の担い手として期待される地場の企業が、どのようにソーシャルビジネスやコミュニティビジネスに取り組んでいるのか。きっかけやプロセス、課題は何なのか。その事例をお伝えしていくシリーズ第2弾。

岡山県岡山市北区建部町にある株式会社小坂田建設・代表取締役 小坂田 英明さんにお話を聞きました。


<話し手プロフィール>
株式会社小坂田建設 代表取締役
小坂田 英明さん

日本大学工学部 土木工学科 日本大学大学院 工学研究課土木工学専攻。卒業後、東京に本社のある一部上場の専門工事会社でトンネル技術者を経験したのち、2001年、当時代表取締役の父に請われ、株式会社小坂田建設に入社。2012年~代表取締役。

●倒産の危機 公共工事から民間サービス業への転換

「株式会社小坂田建設について教えてください」

1955年、私の祖父である初代代表取締役・小坂田基が土木会社として創業しました。創業以来、戦後復興期から高度成長期を経て現在に至るまで、「地域に根ざした建設会社」を目標として、道路や橋などの公共工事に土木技術で取り組んできた会社です。2代目代表取締役だった父・小坂田利明から2012年に私が継ぎました。

私自身は県外の大学・大学院を卒業後、東京に本社を置く建設会社に入社し、トンネル技術者として働いていました。大手ゼネコンと一緒に仕事をする機会も多く、やりがいがありましたが、父から戻ってきてほしいと話があり、2001年、28歳のときに小坂田建設に入社。前職と同じ建設会社といえども、分野も工事の規模も全く違います。営業や施工といった現場仕事につき、一からのスタートでした。

現場で仕事をしていたので、経営状況について詳しくわかっていませんでした。「どうもおかしい、お金がない」という状況から、2008年末、次期後継者ということで私が経営改革に乗り出すことに。商工会に入っているので中小企業診断士や経営指導員に無料で来ていただき、決算書を一緒に精査してみると、赤字が続いており深刻な経営状況が明らかになりました。倒産寸前だったのです。

経営は代表である父、経理は母が行っていましたが、数字を読める状況ではなく、昔ながらの経営。「やれば儲かる」の考えで事業を進めていました。どんぶり勘定でひとつの工事につきどれくらいのお金がかかっているのかわからない状況になっていました。

「どのように立て直したのですか」

2つの指針を出しました。経営の見える化と、民間サービス業の開始です。

経営の見える化については、IT化を進めました。商工会青年部でつきあいがある岡山県内の建設会社の社長が、「これ、わかりやすいよ」と教えてくれた原価管理ソフトを導入し、一日ごとの損益を把握できるようにしました。会社の経営状況が厳しく、ソフトの160万円のリースが組めず、母の預金を担保に農協でお金を借りての導入です。

民間サービス業については、中小企業診断士から「個人の方からの仕事でお金の流れを作っては」とアドバイスをいただき、開始しました。祖父の代から地域に根差して仕事をしていたといえども、当時、わが社の民間の顧客は建部町内の一部の地域に100戸程度。建部町内全域は2300戸が生活している。近くにお客さんがたくさんいるのでは、と考えました。

公共の仕事には波があります。4月~7月は少ないですし、毎年、安定的に仕事を受注できるとは限りません。そして、お金の流れも悪い。例えば2,000万円の公共工事を受注したとすると、最初は40%である800万円の支払いがあり、残りは工事を担保に銀行に借ります。書類の作成や審査もあります。一方、民間の仕事は、すぐにお金をいただけます。年間を通して安定的に仕事を確保することに繋がりました。


●さまざまなニーズに耳を傾け、地域にひらかれた身近な会社へ

「個人の方からは具体的にはどのような依頼がありますか」

あらゆる家周りの困りごとに対応しています。倉庫や納屋の修理、トイレ・キッチンといった水周りの工事、床の張り替え、田んぼ・畑の草刈りや害獣ネットの設置、お墓の造成や掃除・・・ホームページには30件以上の事例を掲載していますが、メニュー表に載っていないものももちろん受け付けます。何でも屋、よろず屋ですね。

メニュー表

全てを自社で行っているわけではなく、例えばお墓のことは墓石屋さんと、床の施工は建築屋さんと、といったように、地域の事業者とも連携しています。打ち合わせなどは私たちが行って、困りごとを直接伺い、施工は専門業者が行うこともあります。建設会社には地域密着で仕事をするからこそのネットワークがありますし、加入している商工会・商工会議所のネットワークも活きています。また、行政との橋渡しの役割も担っています。個人の方からの「近くの溝が壊れた」と連絡があり、ここは官地だから行政に繋ごう、というように。


 施工のBefor After

「家の中にゴミがたまったから、持って行ってほしい」といったご依頼も年に数回あります。ひとり暮らしの高齢者となると、公共のごみ処理場まで持っていけないケースもあり、頼れる若者もおらずためこんでしまうんです。「あまどいを直して」、「ガラスが割れたから交換して」など、ニーズは様々。昔お願いしていた大工さん、ガラス屋さんが高齢化や廃業によりいなくなり、どこに頼んだらいいかわからないといった状況もあります。


「地域住民の方に自社のサービスを知ってもらうためにどのように広報を行っていますか」

新聞折り込みチラシを毎月第一日曜日に入れています。折り込みの関係で建部町に加え、隣の久米南町にも「同じく過疎高齢化が進んでいるから、入れてみては」と折り込み会社から提案があり、そうしています。

『笑顔通信』令和3年9月号 表紙
『笑顔通信』令和3年9月号 裏

建設業の仕事の写真だらけだと興味を持っていただけないと思い、表面は季節的な話題と毎月違ったレシピを掲載し、仕事に関することはほんの少し。裏面には、施工事例を写真とともに紹介しています。建設会社といえば「工事の規模は百万円、数千万円じゃないとしてくれないんでしょ?」というイメージをお持ちなので、「数千円からの仕事もやっているから、困りごとがあれば連絡してくださいね」とお伝えしてきました。2009年以降、毎月チラシ発行することで、「何かあったら小坂田建設」と思い出していただけるようになってきました。

コロナ禍となる前は、会社の敷地で年に1回4月末にイベントを開催していました。倉庫を開放してうどんを無料提供したり、プラレールやスーパーボールすくいを実施したり。好評だったのは、機械や車と一緒に写真を撮りカレンダーにする企画です。

広報に力を入れるようになったのは、2009年6月に初めてイベントを開催したときに実施したアンケートがきっかけでした。「小坂田建設を知ってますか」、「どこにあるか知ってましたか」という問いに「知らない」という回答が多かったんです。公共事業を多く手掛け、災害の復旧作業にあたるなど地域密着で仕事をしてきたものの、あまり知られていないことに驚きました。知っていただけていないと、使っていただけない。より身近な存在になれるよう努めてきました。


●自社の強みを活かした体制づくり

「『笑顔創造カンパニー』という理念はいつどのように決められたのですか」

会社の再建に取り組む中、SWOT分析を社員たちと行い、我が社の強みや弱みを考えたところ、強みとして、公共工事を通じて地域に密着していること、車や建設機械が多く機動性があることなどが挙がりました。そして一番の強みが、笑顔で働く社員だと気づいたのです。自分たちの笑顔も、お客さんの笑顔も創造していこうと、「笑顔」を理念に掲げるようになりました。

公共事業をメインで行う同業者は、個人の方からの仕事は「面倒だ」となかなか取り組まれません。公共工事だと図面があるものをつくればいいわけですが、個人の方からの依頼だと様々なご要望に沿ってやっていくようになりますから。そこにわが社が対応できたのは、もともとコミュニケーション力がある社員がいたからこそ。社員も「直接感謝されたり、反応が聞けたりする仕事の方が楽しい」と言っています。皆さん、話がしたいんでしょう、おやつをいただくことなんかもあるようです。個々の依頼に対応することで社員のスキルも上がっていきます


「関連会社がありますね」

農業法人である「株式会社アグリファーム福渡(ふくわたり)」と、「株式会社アクティブライフ」があります。アグリファーム福渡については、「田んぼをお願いできないか」というニーズが多かったため、設立しました。小坂田建設とは別に採算性をもたせようと、別会社としました。農業法人にすることで、農業についての補助金・助成金の対象になります。

「使ってほしい」と要望があった田んぼで地域のお米をつくっています。年間40トン、800万~1,000万円の売上となります。「株式会社アクティブライフ」に2人のスタッフを置き、アグリファーム福渡と小坂田建設の仕事をフォローしてもらっています。ひとりは、小坂田建設を退職し「ゆっくりした働き方をしたい」という63歳の社員。もうひとりは軽度の知的障害をもつ20代。障がい者の受け入れについてはハローワークから相談があり、悩みましたが、これもご縁かなと働いてもらうことにしました。例えば草集めのような仕事も集中してやってくれるので助かっています。あとは草刈り機やトラクターを持っている地域の高齢者3人がアルバイトで入って農業を手伝ってくれています。


「地域外の繋がりが活きていると思うことはありますか」

中小企業家同友会に加入しており、経営者の方との県内外のネットワークがあります。経営理念を社員とともに考えたのも、障がい者雇用について知ったのも、ここでの学びからです。「原因自分論」という考え方を県外の方から聞いてからは、「原因は社員ではなく自分にある。社長のあり方、伝え方は大切だ」と思い経営に
臨むようになりました。


●会社を維持することが、地域を守ることに繋がっている

「課題について教えてください」

現在、小坂田建設には8人のスタッフがいます。30代を中心に、20代が2人、40代が1人、60代が1人。地方の建設業界としては平均年齢が若い方ですが、3-4人不足している状況で、採用と定着は課題。仕事のやりがいをもっと伝えていかないと、と思っています。働く環境の整備にも取り組んでおり、有休取得率は70%。完全週休2日制を目指していますが、そうすると生産性がどうなるかという課題も出てきます。

「田んぼを使ってほしい」という依頼は年々増え、作付面積は当初から9倍ほどになりました。あと10年しない間に、田んぼの面積は今の倍以上になるのでは、と思っています。稲作の課題は、水やりと草刈り。水やりは岡山県内の会社と連携し、ICT化を考えています。今は80枚の田んぼの水加減を見回っていますが、これがipadでわかるようになるとだいぶ助かります。草刈りは、防草シートや特殊な芝を植えることで、草刈りのコストを下げられないかと試行錯誤中です。今後、個人で田んぼができない人は増えていくでしょう。けれどチームに参加してなら関われるかもしれません。横の繋がりが広い建設会社だからこそ、繋ぎ役となれると思っています。

高齢化が進み、空き家のことや田んぼが耕せないといった悩みなど、これから地方ではどんどん困りごとが増えていくでしょう。建設会社は災害復旧工事にもあたりますが、業界の高齢化により、災害対応能力が落ちてきている現状です。災害が起きたら、私たちが最初に行って道を解放しないと、救急車も消防車も山間部のお家まで救いにいけません。会社を維持することが、地域を守ることに繋がっていると自負し、地域の皆さんとの信頼関係を築きながら経営を続けていきます。

(取材・執筆 小林美希(こばん))

<推薦者より>
小坂田建設さんの取り組みを伺うといつも様々な視点で自分たちや業界、そして地域を見ておられるなと思います。建設業である自社の持つ強みを一旦俯瞰して地域内における資源として見直し、その技術力やネットワークを地域で暮らす方々の困りごと関係に役立つと判断された目線。また、地域で担い手のいなくなった田んぼという資源を地域全体で見直し、再び田んぼとして生き返らすだけでなく障害を持たれた方の就労の場にもするなど、地域の中でどう資源を活かし、それがどう持続的な発展に繋がるかを考えておられるんだなとおこがましいことですが感心しています。まさにSDGsを体現するとはこうした事業構築ではないかと思います。そして、そこで軸になるのが「笑顔創造カンパニー」という理念。人の役に立ち人に喜んでもらう、この働くことの根源的な喜びの一つであることが人を育て、地域を成長させていく原動力となるのではないかと思います。

一般財団法人全国コミュニティ財団協会 理事/特定非営利活動法人岡山NPOセンター 代表理事 石原達也)

Writer:小林美希(こばん)

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