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【SS】ある帰り道の風景

仕事の帰りには頽廃的な音楽を聴いて帰りたくなる。

ポルカドットスティングレイの「リスミー」を聴きながら、夜道を歩く。

長い前髪が頬をくすぐって気持ちがいい。家に着くまで、あと15分くらいはかかりそうかな。

なんて一人で冷たい夜を歩いていると、嫌でもあいつの顔を思い出す。曖昧に愛し合ったあいつ。きっと今頃、それなりに努力してそれなりに生きているんだろうな、なんて思うと不愉快になる。

あいつが私に残したものといえば、ビル・エヴァンスのレコード2枚と金の豚の貯金箱。あとは何ひとつ残らなかった。

泥のような3年間は、きっと神様が私の人生を足止めしようと企んだからじゃないかと思うくらい、あいつとの3年間は風のように過ぎ去った。


グレイに曇った空と私の頭の間には、ただただ虚無が広がるばかりで、いつまで経っても私が上に登れないことを示唆しているかのようでムカついた。

ムカついたから小石を蹴ったら、靴のつま先が禿げた。最近買った靴だった。

しかも最近は体の節々が痛い。体調も悪い。これ以上、悪戯に寿命を伸ばすのではないと誰かが叫んでいる。


家が見えてきた。ちょっと奮発して広めの部屋を借りたけど、今の私には六畳一間のアパートがお似合いかもしれない。

そんなことを思いながら帰るのはなかなか辛いものだ。いや、人生とは常に分不相応なものなのかもしれない。それでもいいのかもしれない。

気付けばさっきまで聞いていた曲は終わっていて、イヤホンからは名前も知らないジャズが流れていた。

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