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沙都子は狂うべくして狂ったんだろうな

岐阜県白川村を舞台にしたサスペンスアニメ『ひぐらしのなく頃に』は、祭囃し編にて見事に鷹野三四を抑え、皆で幸せな未来に向けて歩みだすはずでした。
少なくとも旧版ひぐらし視聴者は結末に大なり小なり満足したはずだし、順風満帆な人生を歩んで欲しかった。
部活メンバーのその後に関して言うと、魅音、圭一、レナの3人はそれなりに充実したようで、大学でまた一緒に活動するようになります。
一方で、梨花と沙都子は苦学の末にミッションスクールに入学し、全寮制の生活を送ることになりました。残念なことに、この選択こそが令和版ひぐらしの、惨劇の元となってしまったのでした。

🏫梨花の失敗は沙都子の「孤立」を許したこと

沙都子が梨花に対してやったことは「逆ギレだ」と評判です。ええ、確かに逆ギレでしょう。逆恨みと言えば正論で、梨花に非はないだろうと言われればそれまでです。
恐らく梨花が聖ルチーアへの進学を決めた時点で、梨花と沙都子の対立は避けられなかったのです。
これは恐らく梨花と沙都子が本来持ち合わせてた人間的な相性も関係あるかもしれません。
古手梨花という人物は、鷹野三四との関わりがなく過ごすことになったとすれば、マリー・アントワネットのような性格になってたのではないでしょうか。基本的に他人を思いやる、感情を察するのは得意では無いように見受けられます。
「いやいや、梨花は約束通り沙都子を助けようとしたでしょ」とは言われそうですが、口約束ってのは齟齬が発生するもんなんです。
そもそもですね、ルチーアの生活において梨花は取り巻きを持ってしまいました。

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白川村での生活とは違い、梨花は輪の中心になりました。もともと梨花は聖ルチーア学園のこういうお嬢様っぽい雰囲気が好みだったのでしょう。
ですが、沙都子はお嬢様チックな生活をしたかったわけではないのです。

🙎沙都子が勉強以上に苦痛だったのは人間関係である

ルチーアに上がり、梨花に逆恨みをしてしまう沙都子に対して「勉強しろ」と正論をぶつけてしまう視聴者は沢山います。
ですが、沙都子が本当に嫌いだったのは勉強なのでしょうか?
確かに沙都子は勉強が嫌いだと言っています。ですが、沙都子の言葉をそのまま文字通りに受け取って良いかが疑問の残るところです。

そもそも勉強嫌いと自負する沙都子はなぜ偏差値の高いお嬢様学校に合格できたのでしょう。
これは梨花、レナ、圭一という人間関係に支えられたから受験を頑張れたのではないでしょうか。
ですが、一旦入学した後が大変なのです。全寮制の学校で、昭和時代は今みたいにLINEやSlackなんてモンはありませんから、一度離れ離れになった友人と会うのは大変なのです。
ルチーア学園がどこにあるのかわかりませんが、右代宮緑寿も入学した学校ですし、まぁうみねこ版のルチーアとひぐらし版のルチーアは別の場所かもしれません。
白川村と異なり、気の許せる相手がいません。人間関係はイチから作り直して行かないといけないのです。

梨花はもともと貴族的な社会に憧れがあった人です。だから直ぐにルチーアの人間関係に順応できました。
ですが、沙都子は違います。いくら似非お嬢様語を使ったところで本物のお嬢様に憧れてたわけではないのです。よってルチーアの人間は沙都子にとって一緒にいるだけでストレスになるのです。
恐らく同級生もそんな沙都子の様子を察してか、沙都子に対して軽蔑の視線を送るようになります。端的に言って沙都子はイジメを受けているのです。
そりゃ成績も落ちますよ。会社の仕事だって人間関係悪いとパフォーマンス落ちるでしょ?
それでも会社ならまだ転職という選択ができます。高校の転校は大人の転職に比べても難易度高いです。
・梨花には取り巻きがいる(輪の中心である)
・梨花の取り巻きは沙都子を嫌っている
・沙都子は孤立している(輪から外されている)
こうした状況から、沙都子は勉強以上に、故郷に簡単には帰れないことと、人間関係に対するストレスが重なり、成績がみるみる落ちることになったのではないでしょうか。
まして人間関係構築スキルって、割と才能が必要です。どんな家庭で生まれ育ったかも重要だし、同じ言動をしても人によって許される・許されないが全然違う。それを見極める洞察力も必要だし、かなり才能に依拠する要素が大きいんだよね、人間関係構築力って・・・。

📖「90点を取る力」と「80点を取り続ける力」は違います

勉強に一番必要なものって何だと思います?
個人的に勉強で一番必要なものは動機だと考えています。
ただ、もっと言うと、資格試験などで一度「90点を取る力」と、実務的に「安定して80点を取り続ける力」はまた別の物が必要なんでないかとも思うわけです。
私は一応偏差値42の普通科高校に通ってましたが、全商簿記の1級で会計学に合格をしています。簿記1級の合格を目指した理由は目立ちたかったからです。
商業高校の生徒ですら1級は珍しいと言われてる中で、普通科の生徒が合格するなんて目立てるに決まっています。受験者が1人しかいなかったので、落ちれば恥ですが、それでも「目立ちたい一心で90点目指して勉強した」のでありました。それが合格に結び付いたのです。
ですが、安定して合格点である80点を取り続けられるかと訊かれると、そうではないんですよね。
恐らく古手梨花はルチーア卒業後、国立大学へ行って都会での生活を夢見ていたかもしれません。鷹野三四は義父の名誉挽回という執念によって、東大医学部を卒業しました。
では沙都子は?
恐らく沙都子は田舎から出て行きたくもなかったのです。
梨花がどんなライフプランを描いていたかはわかりませんが、恐らく将来的には都会で仕事をし、家業は継ぎたくなかった。そのためには良い大学に行きたく、勉強も頑張った。
対する沙都子は田舎を出て行きたくもなかった。当然、ルチーアの勉強にはついていけなくなり、補習室へぶち込まれます。

🍂私”だけ”が人生上手く行かない

魅音、圭一、レナの3人は大学で合流し、楽しい人生を送っているらしい。梨花は取り巻きに囲まれながらお嬢様生活満喫中。なのにただ一人、沙都子だけが何をやっても上手く行かないのです。

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補習室は独房と並び、ルチーア学園の闇として有名です。
沙都子は補習室に送られることになり、学校を辞めるに辞められず、梨花と仲直りしたいと思ってちょっとしたトラップを仕掛けるも、悪戯のレベルじゃ済まなくなって、梨花の取り巻きから密告されてしまい(これを沙都子は梨花が報告したと誤認した)独房に入れられました。
ルチーア学園で行われてることは今風に考えればネットで大問題にされそうですが、昭和時代にコンプライアンスとかガバナンスなんて概念はありません。学校改革なんて明治からの150年で考えれば、割と最近始まったようなものです。

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もし自分が沙都子と同じような状況になった時、誰も恨まず勉強に集中することができますか?
私には自信がありません。
沙都子の視点に立てば、とにかく「わたくしだけ何もかも上手く行かない」のです。本来なら田舎から出て行きたくも無かった。沙都子の心の時間は魅音や圭一と遊んでいた10歳で時が止まっているのです。
そんな中、取り巻きの人間とケーキを食べながら談笑する梨花を見て、逆恨みせずにはいられないのです。
尤も、梨花は他人を思いやるのが苦手な人物です。本来なら取り巻きのいない沙都子と2人だけの時間を設けてあげるだけで、惨劇は回避できたのかもしれません。
旧版と違い、雛見沢症候群の完治した沙都子は、素面で殺人をしたことになります。沙都子の罪は許されないし、幸せになることも出来ないでしょう。しかし、ひぐらしで沙都子ほど不幸な人間もいません。そんな人間が力を得ると、間違った使い方をするのが必然だったのではないかと思うのです。

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