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原子力発電所の実態が原始力発電所だった件

2011年に出された本ですが、久しぶりに読む機会があったので、今回は原子力発電所についての本をレビューしてみたいと思います。
『淺川凌さん著:福島原発でいま起きている本当のこと』という本です。
この本はかつて福島原子力発電所に電機メーカーの技術者として関わった方が書かれています。
福島第一原子力発電所に関わっていた人で原発事故の真相を究明している技術者は、元東電社員の木村俊雄さん、そして淺川凌さんです。他、設計に関わった技術者でも、事故究明に乗り出している人がいますね。

それぞれ見解は違いますが、いずれも一致してる見解は「事故るべくして事故った」っていう見解ですね。
まず津波については事故発生の20年前、ある事件によって「津波で非常用発電が使えなくなる」ということが木村さんがわかっており、その時点で上司に指摘されていました。
この時、結局「金が掛かるから改善しない」という道を東電は選んでいます。
次に設計ですが、そもそも設計された当時の日本は原発における独自技術はなく、米GEのものが使われてますから、地震に耐えるって考えはあんまりないんですね。
そして今回の図書で指摘されるのは配管破断で、実は地震の段階で致命的な事態が起きていたと書かれているわけです。
そんな本書では、原発の核心的なタブーについて触れられています。

原発は素人が動かしている😨

本書では原発のタブーについて、次のことが触れられています。
①原発の設計はハイレベルでも作るのは素人
②原発はローテク人力作業が殆ど
③誰でも原発労働者になれる素人メンテの原発
④検査員もまた素人核心はこの4点です。
中でも人力メインで動く②の部分について「これじゃあ原子力じゃなくて原始力だよな」と、自嘲的な見出しが振られています。
これが原発労働に関わっていない私たちからすると「なんでそんな素人が原発に関わってるん?」と思うわけですけど、結論から言えば多重請負構造な上に労働者が不足してるからってことです。
わずか2時間ほどの講習で見事に「放射線作業者」になれるっていうので、まぁ、末端の作業者~管理者まで、見事に素人で固められてる実態が書かれているわけです。

原発が特別なわけではない

本書を読んで思うのが、結局原発も日本の歪な産業形態を象徴している産業だったってことです。
一つが多重請負構造の場合、末端に行けば行くほど素人が業務に関わって、危機管理が疎かになるってことですね。
例えば先日起きたマンションの貯水槽で泳ぐ作業員の不適切動画ですが、彼らが3次請け、4次請けであることに驚いた人もいました。
「中抜き事業者が多すぎる・・・」
こうして末端に行けば手取りは少なくなりますから、収入の少なさに比例して「プロ意識」なんていうものはなくなってくるでしょうね。
次に仕事のやり方を進化させないこと。
何しろロボット化が本当に進まなかった。福島第一原発の事故調査に使われたロボットは、結局米国製だったわけです。
なんでかって、原子力村には『原始力からの脱却をする』という考えがなかったから。
そうですね、身近で言うならハンコが未だ消えずに承認プロセスが多くて業務が進まないっていうことがありますね。

そして何と言っても危機管理!
これは一般企業のISO監査でもそうなんですが、検査日程わかってるの変じゃありません?
品質管理にしろ情報セキュリティ管理にしろ、検査って抜き打ちでやって意味があるものなんですよ。
だって検査日知ってると事前にごまかすための準備します。大企業ならその辺の隠蔽ノウハウもしっかりもっています。
原子力発電所についてもココは同じで、検査自体も決まった項目しか検査されないので、隠蔽のための対策はバッチリ(^▽^)/
内部からの指摘も揉み消されるんですから、危機管理は最悪ですね・・・。

どうも日本の組織の危機管理というのが凄い甘い気がしていて、コンビニや外食チェーンでの度重なる不適切動画の投稿とか、自民党における後手後手の失言防止マニュアルとか、あるいは西日本集中豪雨の時に話題になった赤坂自民亭とか、足立康文議員の意味不明なセルフ領収書が突っ込まれたりとか、見れば見るほど組織としてのリスクマネジメントの怪しい話をよく聴きます。
2020年の東京オリンピックも猛暑の振るう8月でしたね…。
原子力発電所にも危機管理なんて言葉は無かったし、政府の方針からもリスクマネジメントなんて考え方が見えませんし、まぁIT企業でも「請けた仕事のドキュメントが何もない」なんてことがありましたよ。ええ、監査にあたり、それらの書類はでっち上げました。でっち上げ監査資料で監査乗り切ったことがあるんで、まぁ日本の組織のリスク管理ってそんなもんです…。
『福島原発でいま起きている本当のこと』は当時の定価で500円程度でしたから、今は中古で買えれば結構安いと思います。
原子力城下町での暮らしがどんなだったのかのコラムも面白く、ページ数も90ページ程度で読みやすいので、一度は読んでみても損はないと思います。

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