懶惰の日々

懶惰の日々

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戯れに書く②

冬は空気が澄んでいる。音楽も普段よりその鋭さを増して耳に入ってくるような気がする。全てがだらしなくふやけた感じがする夏はとうに去り、まるで弓を引き絞るような緊張感がある。 久しぶりに散歩と洒落込もうと思い立ち、外套を引っかけて外へ出た。東京に住んでいた頃と比べてここは星が綺麗に見えるな、と月並みな感想を頭の中で言ってみて恥ずかしくなった。ずっと上を向いていたら、聳え立つ電柱に気付かず、したたか頭を打ってしまった。 どこを目指すわけでもなく夜道を歩いていると、寂れた公園に突

    • 戯れに書く

      実家から高校生の時分に使っていたコートが送られてきた。厚手のウールメルトン生地の、俗にいうピーコートだ。 久しぶりに、その濃紺の外套に袖を通すと通学時にはよくポケットに文庫本やMP3プレーヤーを忍ばせていたことや、京都駅で降りるべきところをぬくぬくと寝過ごして高槻や長岡京まで行き、大慌てで引き返して朝礼の10分前に冷や汗をかきながら到着したことを思い出した。当時は少しサイズが大きく、ジャストサイズで着るのを好んでいた私はあまり気に入ってはいなかった。しかし、今となっては少し肩

      • 光について

        「もっと光を もっと光を」 使い込んだウォークマンのラジオからは流行りのバンドの最新曲が流れていた。 光、か。僕は呟いた。いつから僕は光が苦手になったんだっけ。 その頃の僕はといえば学校の勉強には身が入らず、かといって何か打ち込めるような趣味も皆無だった。ただ味のしないガムをずっと噛み続けるように日々を過ごしていた。朝起きて電車で学校に行き、授業が終わったら帰る。まるで面白味のない毎日だった。 その曲との出会いは塾の休憩スペースだった。僕はその頃毎週金曜に京都駅の

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