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ひえひえで芳醇な脇

お風呂上がり。コンビニへアイスを買いに行って、ベッドの上でウキウキで開けた。

……ら、人間の脇のニオイがした。

白桃の?ジェラートで?


いや、桃の香りが全くしないわけではないんだ。むしろ、基本的には桃の香り。でも、桃の奥の方に人間の脇がある。脇を広げている人の前を、桃が反復横跳びで頑張って隠している感じの何かというか。ネギ油で桃をアヒージョした感じというか。数日トムヤムクンに浸かっていたレモングラスで和えた桃というか。

〽︎封をそっと開けてみる 脇の奥のニオイがした
…何にも信じられないだろこんなの。

ツヤツヤしたピンク色にギリギリまで鼻を近づけスンスンする。何度嗅いでも、人間がいるニオイすんナァ……ってなる。

納得がいかないのでTwitter検索をする。誰も彼もが絶賛である。SNSでは人気のアイス。こんなことでマイノリティを感じることってあるだろうか。ソーシャルの海は広大なのだからひとりくらい同じ感想の人間がいてもいいんじゃないの。ブルーなライトばっか浴びてねぇでピンクな脇をもっと感じろよ。ピンクな脇ってなんだよ。

裏の成分表示を見る。果汁の割合はそんなに高くなさそうだったので、香料かもしれない。香料が、私の鼻と相性が悪かったのだ。それはきっと天然香料で、脇から桃の香りを分泌する人が雇われている。桃の香りを求める人たちに捕えられ、郊外の工場で脇を全開にして横たわっている人。

香料の分泌を促進するために部屋を暑くしたり恐怖を与えられたりしているかもしれない。脇の下にろうとや何やかんやの管があって、ほんのちょっとずつ落ちてくる。器に溜まる桃の香料。この1滴でいくつの桃アイスがつくられるのだろうか。しっかり担当がついて長い時間をかけてしずくを確認する。ピーチドロップ実験ってわけである。


どうしても納得がいかなかったので友人に話してみたが、「それは自分の脇が臭かったんだと思うよ」と一蹴されたし、「恥ずかしいことじゃないよ。個性だよ」と慰められさえもした。

私はお風呂に入ったばかりだ。


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