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その人がこれまで生きてきた中で起こった面白そうなトピックスをついばむのが好き

他人に興味がある。
といっても、自分の興味がある話を聞きたいだけなのだが。

人生で一番楽しかった思い出は? とか
一番衝撃的だった出会いは? など
その人が産まれてから現在に至るまでにたどり着いた答えや教訓をついばむのが好きだ。

あとは、今の自分に刺さる話。
琴線に触れる事柄を、世間話という川の中から砂金を探るように見つけていく。
そういうのが好きだし、要約は得意な方だと思う。

配信アプリで出会った16歳の女子高生との会話では、その人の家庭に心が向いた。

その人(仮にメリー)は寿司とエビチリが好きらしい。
主に魚介が好きで、青魚も好きだし鰹も好き。一番はエビだという。

個人的な偏見なのだが、魚が好きな学生は育ちが良いと思っている。
つまり、食育が行き届いているのだ。
幼少期に生臭い魚を食べると、大人になってからも魚嫌いを克服するのは難しい。
幼いころから魚が好きということは、日ごろから丁寧に下ごしらえされた魚介類を味わっているのではないか。

聞くと、母親が料理好きで家庭でも良く魚が出るのだそうだ。
良いお母さんである。

それから話は変わり、将来の夢について聞いた。
バレー部でアタッカー兼レシーバーをしており、今はそれが楽しいらしい。
高校を卒業したら体育系の大学で教員免許を取り、体育教師になりたいんだそうだ。

学生たちに体を動かす楽しさを知ってほしい。
元来人見知りの質だが、頑張ってコミュニケーションを積極的に取れるようになりたい。
配信アプリを始めたきっかけも(一つは暇つぶしの為だが)、他人と話す練習にもなれば。という思いがあったそうだ。

また、体育教師ともう一つやってみたい仕事があるという。
お父さんと同じ仕事がしてみたい。とメリーは言った。

父親は、送電線や鉄塔の整備をする会社に勤めているらしい。
ある時、学校で職業体験の授業があった。
学生を受け入れてくれる企業リストを見ながら体験先を吟味していたところ、その中に父親が勤めている会社を見つけた。

「お父さんってどんな仕事してるんだろう」
ふと興味が沸いて職業体験先をその会社に決めたのだった。

いくと、父親はいなかったが、父親の部下が学生たちの対応をしてくれた。
その時に、メリーの事も把握していたようで。

「●●さんの娘さんですよね。お父さんホントにすごい方なんですよ」
という話を聞いた。

体験した仕事は地味な事務作業ではなく、
鉄塔に登ってカラス避けのオブジェを置いたり、送電線のチェックをしたり。
高所が得意なメリーはゲーム感覚で楽しめたそうだ。

もちろん、楽しいばかりの仕事ではないことは分かっている。
それでも会社の雰囲気が気に入り、縁なども感じてなんとなく
「この会社で働いてみたいなぁ」と思ったそうだ。

メリーは父親と仲がいい。
休日は家族で出かけるし、冗談の言い合える仲らしい
父親の会社がSNS発信に力を入れており、社員の写真がネットにアップされているらしい
そのなかにはもちろん父親の姿もある。

SNSに注力しすぎてそのうちtiktokにも投稿しそうな勢いなのだそうだ。
もし、父親が他社員と一緒に踊る動画でも上げようものなら全力でいじり倒してやりたいと意気込んでいた。

理想的な家庭だなと思った。
両親健在で高校生の娘とも仲がいいのだ。

ただ、お父さんには不満もあるそうで、それは細かいことをよく注意してくる所だという。
例えば、箸の持ち方が正しくないと叱る。とか。
靴下を脱ぎっぱなしにしてリビングなどにおいていると怒る。とか。

「うちの弟がそれでよく叱られてるんですよ~」
そんな会話をしていると突然、メリーのマイクから小型犬の甲高い鳴き声が二匹分聞こえてきた。
そして「ごめん犬が暴れ出した!」といってミュートになる。
室内に小型のワンちゃん二匹。
ということは持ち家である。

魚好きで利発な女子高生。
料理上手な母。
仲のいい父親。
小型犬二匹。
あと、おそらく弟がいる?

さては・・・育ちが良いな・・・?

ワンちゃんが落ち着いて返ってくるメリー
「お父さんが帰ってきたのが車の音で分かるみたいで。興奮して吠えだすんですよ」
私有地に駐車場があるな。

さては・・・育ちが良いな・・・?

そうか。すごいね。ご両親と、メリーと、犬二匹。
それから弟さんで4人と2匹の家庭だ。
「あ、弟二人いるんですよ~」
5人と2匹か。

さては・・・めちゃくちゃ育ちが良いな!!

家族で買い物に行くということで配信はそこで終わった。

なんて幸せな家庭なんだろう。
実際に幸せかどうかは私がしるよしも無いのだが。
メリーはそんな自分の家庭環境について「普通です」と笑っていた。

仲のいい家族に囲まれた生活を、普通だと感じられる事こそが正しい幸せの在り方に思われる。

2024年1月に起こった能登半島地震。それに関連するとあるニュースを思い出した。
父親だけが残され、妻と子ども、その子どもたちの家族も合わせて10名が一晩のうちに命を落としたというのだ。
残された父親は、夢を見ているようだ。と言った。
昨日までいた人たちがみんな今日からもう居ない。信じられない。受け入れられない。
そんなニュースを見ると、家族がいるのが当たり前ではないんだと思わせられる。

私の思い描く理想の家族は、ちょうど、メリーのような家庭だった。
いま、理想の家庭で暮らしている女の子がいる。
「私なんか普通です」と言ってのけるこの子が本当にまぶしく見える。

両親がいて、兄妹がいてという生活は、当たり前じゃない。
でもそんなことに気が付かないくらい、ありふれたものとして、メリーには今の暮らしを続けてほしい。

親のありがたみなんてものには、歳を取れば嫌でも気づくのだ。

高校生の彼女にとっては、普通でつまらないかもしれない。
だがそれで良いんだと思う。
いつもどおりの日常なんだと感じてほしい。
それが幸せだったと気づかないほどの、幸せにあふれた人生を送ってほしい。

どうかこの人が、幸せな暮らしの中で生き続けていけますように。

そんな事を勝手に考えた。


夜は、34歳のコラージュアーティストと話した。
本人(仮にブルーノ)曰く、彼の作品における特徴はとにかくキマっている事だという。

元麻薬常習者から作品を絶賛されたことがある。
ブルーノの作品はどれも、麻薬でハイになっている時に見る風景とよく似ていたからだ。
(本人曰く、ブルーノ自身は一度も麻薬を使用したことはないらしい)

一時期はそういう、麻薬はやめたがハイだった気分が忘れられない。といった人向けに作品を売っていた時期もあったという。
ブルーノの絵を見ると、クスリに頼らずいい気分に浸れるそうだ。

私は、そんな世界があるのかと感心した。
少し怖い、アンダーグラウンドな需要と供給である。

作品数はどれくらいなのか聞くと、10年前から始めたが作品と呼べるものは全部合わせて2~30品ほどだという。
趣味だとしても少ないように思える。
少し深く聞いてみるとブルーノは「もう言ってもいいと思うんだけど・・・」となにやら訳ありな雰囲気を醸しながら教えてくれた。

8年間ほどうつ病を患っていたんだそうだ。
コラージュ作品に傾倒して、先述した販売先が確立しだした頃だったという。

「作品に持っていかれた」とブルーノは言った。
精気というか、生きるために必要な熱が、作品が完成するたびに体から消えていったという。

重ねて言うが、彼自身がクスリを服用したことはない。
だが、その時の精神状態と、彼の集中すると他に何も見えなくなるという性質が極端に作用してしまったのだろうと思う。

無気力に生活していた頃、たまたまバイト先に元うつ病の女性がおり
その女性から「一度精神科に行ってみるといい」と勧められた。

そこで、自分がうつ病であると知ったのだった。

8年間で、まともな作品は一つもできなかったという。
ただ写真をとってはデータを消し、また作り始めてもすぐに削除した。
次第にカメラを手に取る気力すらも無くなっていったという。

しかし、去年。明確なきっかけはなく自然と回復期が訪れた。
本人も驚くほど唐突だったという。
ブルーノは「きっと誰かが俺の作品を燃やしてくれたんだと思う」というような事を言っていた。
燃やされた作品から、奪われた精気が帰ってきたのだという。

怪しげな話だが、他に思い当たることもないらしい。
ともかく、元の生活に戻りつつあるブルーノは久しぶりに体の内にわいてきた意欲が嬉しくて仕方ないようだった。

しばらくしたらアレをしてみたい。
またコレも。それも。あそこにも行ってみたい。
と、いろいろな野望があるようだった。

今一番してみたい事は?と聞くと、ブルーノはまた興奮を抑えきれないような声色で
「コラージュ作品つくりかな」
と言った。

8年間描けなかった男が、やっと筆をとれる状態までになった。
ブルーノの心の部屋は8年たった今でも創作のことでいっぱいだった。
この日を彼はどれだけ待ったのだろう。いま嬉しくてたまらないという彼の思いが痛いほど感じられた。

もし、作品が精気を奪っていくのだとしても・・・。
やめといたほうが良い。なんてことは、今日初めて会った私なんかが言えるわけない。

体に障らない範囲で頑張ってね。と、言っておいた。

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