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『フロー理論の展開』の紹介

 今回は,『フロー理論の展開』(今村浩明・浅川希洋志編,世界思想社,2003)についてご紹介します。


どのような本か

 本書は,フロー理論の論文集です。全部で9章から構成されていて,各研究者たちがフロー理論に関連するトピックについて論じています。1章の「フロー理論のこれまで」がチクセントミハイによる論文になっています。各章は独立しているので,興味のある章を先に選んで読むという読み方も可能です。


本書の特徴

 最も重要な章は,最初の「フロー理論のこれまで」というタイトルの論文だと思われます。この章はそれまでのフロー理論についての研究を要約した内容になっています。フロー理論の提唱者であるチクセントミハイが第一著者になっていることからも,理論の全体像を俯瞰するのに最適です。

 ここで,以下にチクセントミハイの著書の翻訳を年代順にリストアップしてみます。

『楽しみの社会学―不安と倦怠を越えて―』(今村浩明訳,1979)
『フロー体験 喜びの現象学』(今村浩明訳,1996)
『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学―』(大森弘訳,2010)

 本書の出版年は2003年なので,本書は初期の学術書である『楽しみの社会学』とフロー理論の集大成として位置づけられる『フロー体験 喜びの現象学』より後の学術書ということになります。本書より後に出版された『フロー体験入門』は,タイトルのとおりフロー理論の入門書であって,この時点でとくに目新しい展開があるわけではありません。出版された時期を考慮すると,理論として成熟したフロー理論の内容が十分にまとまったチクセントミハイの論文が,本書に載っていることに納得できます。

 他の章は国内の各研究者の論文で,それぞれ独立して書かれています。あまり関連を気にせず,興味のある章を選んで気軽に読むという読み方もできます。また,日本の研究者の論点に触れられる本という意味で,読む価値があると思います。

 心理学は実証的な科学に基づく学問分野なので,心理学の論文はデータに基づいて論じるものが多いといえます。本書はデータそのものというよりは,主に理論を扱っているので,学術的な読み物として心理学以外の分野を専門としている方や一般の方にも,比較的読みやすいといえるかもしれません。


 以上,『フロー理論の展開』の紹介でした。他のチクセントミハイの本は,けっこう話が長いのですが,この論文はかなりコンパクトにまとまっています。フロー理論を俯瞰したいのであれば,個人的には1章の「フロー理論のこれまで」だけでも読むことをオススメしたいと思います。

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