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ゲームプレイの多面性

 以前,『ゲーム研究の手引きⅡ』について紹介しました。今回は,この手引きで私が解説したキーワードのうち,「関与」を取り上げて,内容をかみ砕きつつ,補足的な説明を加えていきたいと思います(『ゲーム研究の手引きⅡ』の紹介記事はこちらです)。


関与(involvement)とは

 プレイヤーがビデオゲームを体験することによって,その諸側面に関わることを指す用語です。ゲーム研究者のゴードン・カレヤが六角形のモデルを使って関与について説明しています。

ゴードンモデル

(Calleja, 2007, p. 237, Figure 1より改変)

 上の図で示したように,プレイヤーの関与には,戦術的関与遂行的関与感情的関与共有的関与物語的関与空間的関与の6種類があります。黒い線で分けられている6つの三角形がそれぞれの関与に相当します。この図は,ビデオゲームにいろいろな要素があるということを表しています。それぞれの関与の説明は以下のとおりです。

①戦術的関与:ゲームプレイにおける意思決定の側面
②遂行的関与:ゲームプレイでの操作や動きの側面
③感情的関与:ゲームプレイよって生じる気分や感情状態の側面
④共有的関与:ゲームの世界における他の行為者とのコミュニケーションの側面
⑤物語的関与:ゲームの世界の背景などのデザインされた物語と,個人的なゲームプレイ経験から生まれる物語の側面
⑥空間的関与:認知地図を作り上げることのような,プレイヤーが自分自身をゲームの領域の中に位置づける側面

 これらの各関与は分離して経験されるものではなく,つねに相互に関連し合います。また,どのゲームにも等しく当てはまるというようなものではなく,ある関与が他の関与よりも特定のゲームに明確に関係することがあります。

 たとえば,プレイヤーがRPGで展開される物語に夢中になっているときは,物語的関与という要素が強いといえます。最近のオンラインゲームであれば,共有的関与の要素が強いといえるでしょう。


関与段階と結合

 プレイヤーはビデオゲームと長く付き合うわけですが,そうなると短時間で夢中になっているときと,長期的に関わっているときとで分けて考える必要があることになります。図のオレンジ色の六角形の部分をミクロ関与段階といい,短時間の関与を指しています。一方,水色の六角形の部分をマクロ関与段階といい,各要素の長期的側面を指しています。

 赤い六角形の部分が結合(incorporation)です。赤い六角形は図の中心部分にあるので,6つの関与が統合された状態を表します。具体的には,プレイヤーがビデオゲームのバーチャル環境の中で生活することを指しています。言い換えると,プレイヤーがバーチャル環境を内面化すると同時に,その環境の中にアバターを通して具現化されていることを意味しています。このモデルを作ったゴードン・カレヤは,結合を「没入(immersion)」と同じレベルの用語であるとしながらも,プレイヤーが一方的にゲームの中に飛び込むことを意味する「没入」とは異なるものを指し示すために,結合という用語を使ったということを述べています。


 6種類の関与はゲームプレイの多面性を表しています。このモデルは,ビデオゲームが複雑(複合的)な刺激だということを説明するのにも使えそうです。ビデオゲームを知らない人ほど,「ゲームって○○だよね」と単純化して議論しがちですが,「いやいや待ってください,こういう側面もありますよ」と言いたくなったときに,具体的かつ理論的に示すための材料として使えるかもしれません。

 関与は「ゲーム研究」固有の用語のひとつです。ここまではすべて理論的な話ですが,ゴードン・カレヤはこのモデルを作るためにプレイヤーにインタビューをし,データを集めています。ご興味のある方は原文もご参照ください。


引用文献
Calleja, G. (2007). Digital game involvement: A conceptual model. Games and Culture, 2, 236–260.

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