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担当している授業(非常勤)

 毎年,非常勤で授業を行っています。教えるのは好きなので楽しんでやっています。今回はその内容を簡単にご紹介しつつ,思ったことを書いてみます。なお,(当然ですが)具体的な授業名と実施場所については,ここでは公開していません。ふわっとしたお話程度に留めています。


授業の内容

 90分2コマ連続で全8回。具体的な内容は以下のとおり。

1. 情報と科学,統計データと尺度
2. Excelを用いたデータの入力と計算,標準化
3. Excelを用いたグラフの作成,相関
4. Excelを用いた散布図の作成,母集団と標本
5. Wordの使い方,確率分布
6. Wordを用いた報告書の作成,正規分布
7. PowerPointを用いた資料の作成,統計的仮説検定
8. PowerPointを用いた発表,まとめ

 一言で内容をまとめると,コンピュータ実習と統計学の基礎です。おおよそ上記の各タイトルの左側がコンピュータ実習で,右側が統計学になっています。


始めたきっかけ

 前任者からの依頼は,コンピュータの基礎知識とWord,Excel,PowerPointの基本的な使い方,初歩的な統計学を教えて欲しいというものでした。私は心理学が専門で,データを集めて統計的検定を行うことが多く,それならできるかなと思ってお引き受けしたという次第です。

 私は頼まれたら何でも引き受けるというわけではなく,お断りしたこともあります。教えられそうだとしても,自分の専門から大きく離れていたり,あまり詳しくない分野であったりすれば,お断りすることにしています。教えることがギリギリ可能な知識をもっていることを示す数値が1だとして,授業を実施するには少なくとも5から10くらい必要であるような気がしています。1の先生に教わる学生はちょっと不幸かもしれない,というのが私の立場です(個人的な考えで,必ずそうあるべきとは思っていません)。


こだわり

 授業内容については,前任者が行った内容を適当にコピーすればラク(効率的)だったのですが,自分なりにこだわって考えてイチから組み立てました。というのも,中等教育(中学校と高校)レベルならば,まるまるコピーしてから微修正を加えたほうが,下手に最初から組み立てるより質が良くなるかもしれないとは思いますが,これは高等教育レベルの授業なので,ある程度は講師自身(私)のオリジナリティを出しつつ,自分にとって今も役に立っていて大切だと思うことを伝えたいと考えたからです。

 実際,準備のために少し時間がかかりましたが,納得のいくものは完成しました。コンピュータ実習というと「パソコンに触った」とか「Excelがちょっと使えるようになった」とかでもよいかもしれないのですが,せっかくなので「研究」と結びつけることにしました。まず,授業の後半の時期(5回目以降)に,研究してみたい仮のテーマを設定してもらいます(テーマ設定は自由)。それについてWordでレポートを提出してもらい,さらにPowerPointを使って最後にグループ発表してもらう,というわけです。授業全体を俯瞰すると,人を対象とした実証的研究を行うときに必須となる知識を身につけられるといったイメージになっています。


なぜコンピュータと統計学なのか

 コンピュータと統計学が結びつくことに疑問を感じる方がいらっしゃるかもしれません。もちろん,別々の授業にしてもよい内容ではあります(この授業はボリュームが多いとは思っています)。このことについて少し付加的な説明をします。

 統計学は,得られたデータから役立つ情報を取り出して,科学的推論を行うための方法として,現在では様々な分野で用いられています。現代は,統計解析を行うためにコンピュータを使うことが当たり前の時代になっています。コンピュータを使うと,複雑な計算を一気にやってくれます。コンピュータ上で動く統計解析ソフトはとても便利です。ところが,扱う人の間違いを指摘してくれることはほとんどありません。間違った分析をしていても,答えを素直に返すだけということがあるのです。このようなソフトを適切に扱うスキルを獲得するためには,統計的方法についてよく理解しておく必要があります。つまり,ソフトに操られるのではなく,ソフトを操りたいということです。そのようなわけで,コンピュータと統計学は結びついてきます。


大切だと考えていること

 この授業の目標は,科学的視点に基づいて,様々な情報を収集し,批判的に取捨選択して整理し,活用することができるようになることです。現代は情報社会なので,テレビやネットで見たことを鵜呑みにしてしまったり,もっともらしく説明されたことを信じてしまったりするというリスクがあります。たとえば,テレビでグラフの縦軸を意図的に操作して,あたかも数値が大きく変化したように見せかけてきたとき,「あれっ,縦軸おかしくない?」とか「本当に意味のある変化なのかな?」とか,考えられるのと考えられないのとでは,大きな差があります。こういったリスクに対処するスキルは,メディアリテラシーと呼ばれます。たんに何でも疑うわけではなく,根拠(エビデンス)に基づいて考えたり,議論したり,説明できるようになったりしてほしい,というわけです。

 メディアリテラシーなり,evidence-based(エビデンスベースド)なり,科学的視点なり,呼び方は何でもよいのですが,以上のようなスキルは個人的にはめちゃくちゃ大事だと思っています。そんなことが伝わったらなあと思って,これまで授業を行ってきました。


 さて,これまでの授業アンケート評価によると,幸いにもそれなりに評判は良いようで,少しこだわって作った甲斐があったと思っています。いつも春から開始しているのですが,今年度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大の影響で,秋からの開始になっています。

 いつも思うことは,一回の授業を終えると,大きい達成感を得られるということです。昨年度は授業を終えた帰りに必ず,どこかの店に行って食べたり飲んだりしていました。今年度はどうなるでしょうか。機会があればもうちょっと掘り下げて書きたいと思います。

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