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ラグジュアリークルーズの世界基準とは

アメリカクルーズマーケット実体

アメリカにおけるクルーズマーケットをリサーチしている段階で、クルーズを計画する乗船客は、パンフレットを入手した瞬間から、自分を主演者にしたドラマが始まると見えたのです。

言い換えれば、乗船客の多くは、自分の「ストーリー」をクルーズを通じて買うのです。未経験者の多くは、旅行代理店の店頭などでクルーズのパンフレットを手にした瞬間から、自分をパンフレットの目的地や船上の体験の中 に思いを馳せるのです。

例えば、ダンスをしている場面や船上でのレセプション、社交の場面が有れば、そこに、自分を置いて、自分のドレスをあれこれ思いを巡らせるのです。

特にラグジュアリークラスのクルー ズに乗る人は、予約をしてから1年から半年も、その料金やサービスの中身の吟味に時間をかけ、自分流の旅の姿を脳裏に描きながら、楽しみを待ち続けることが多いのです。それだけワクワク感に溢れた旅のスタイルでもあります。

多くの旅は、目的地に行くことだけに目が入ってしまいます。しかし人生を語るときに、旅が話題になることが多いように訪問地以外に、そこに至るまでの日々を過ごすプロセスにより多くの時間を割き楽しむように思えるのです。乗り物での移動時間は限られた空間が多く、行動範囲も制限されるので、飛行機やバスのなかで寝て時間を過ごす旅では、この 「過程」を楽しむ機会は比較的少ないものです。

しかし、クルーズ旅行は移動手段そのものも含め、プロセスの主役である以上、食事、船内の散策や就寝前のナイト・キャップなど、多くの人との接点が満載されており、好奇心があれば、多くの人と交流を生む事もできれば、孤独の時間を楽しみたければ、他人に邪魔されること無く、自室で過ごす事も可能です。

船は輸送手段を兼ねており、次の目的地に運んでもくれるので、時間対効果で見ると、 最も充実度の高い旅行のカタチなのである。

日本語で「一石二鳥」と言う言葉があります。「一つの行為で二つの成果を得ること」と意味しますが、 クルーズ旅行はまさに「一石二鳥」に合致した旅行の形態なのです。すなわち1つの旅の形で、2 つの旅行が楽しめることを示している。 その 2つの旅行とは、旅の目的でもあり好奇心や興味を刺激する旅行先と、船上における出会いなど、船上での出会い・出来事・滞在型リゾート体験など旅のプロセスを楽しむ滞在体験への期待できる 2 つの休暇、これらを同時に楽しめることを示しているのです。好奇心と期待を満たさなければならぬ旅のスタイルなのです。

しかも、クルーズ客船はゲストが、船上で食事を楽しみ、寝ている間に、次の新しい訪問地まで運んでくれる、時間的にも体力的にも楽なのです。空港での待ち時間、 ホテルでのチェックインやレストランの予約など、陸上の旅行のロスタイムも無い、時間に追われることのないストレスフリーな旅です。

これらのことを考えると、ラグジュアリー・クルーズでは、

1.旅の目的地
2.旅のプロセスを楽しむ船上体験

以上2つで構成されています。

これらをどのように構成するかによって、評価や格付けが決まるのです。

アメリカでのクルーズの概念とは、船上での体験価値において、アメリカ人ゲストが、船上においてあたかもアメリカのリゾート都市に滞在している生活環境、レストランのメニューも英語、会話も英語。

彼らの自分の生活スタイルをそのまま持ち込んだ日常生活であり、海外の港を巡り、異国での経験や船上で仲間や友人を作り、人との出会い・交流を旅のアルバムや人生の足跡として刻むということです。

アメリカのクルーズ客船は、アメリカ人乗船客をメインとして、 母国アメリカを離れて、異国での発見や体験を経験する事が重要なのです。都会の喧騒から離れた船で寄港地を巡りながら、陸上での異国の文化や言葉を体験し、船に戻ればアメリカの自宅のように落ち着いた雰囲気に包まれるのです。

そのようなアメリカ的要素のある環境に、自らが置かれた舞台環境こそが、至福の歓びなのです。 その実現のためには、 船内施設やエンターテイメントなどが、重要な長期滞在の価値を演出するのです。

ラグジュアリー・クルーズの仕掛けを全体のタイム・ラインで見ると、
1. 陸上での予約までのシステム
2.予約後のゲストへの各種情報提供
3.クルーズ旅行実施

※営業・セールス・宣伝・予約・クルーズ寄港地企画は、ラグジュアリークラスのクルーズは約2年ほど前からプランニングされます。

ラグジュアリー・クルーズは、 他のクルーズ旅行と異なり、上記の1.から2の期間が比較的長いのです。それは、長期滞在型休暇でもあり、乗船客が、自分のライフスタイルに合ったクルーズ客船社を選びたいと思い、それゆえ、 選択に時間を掛けるのです。

世界一周クルーズのような 100 日間もクルーズ客船で旅行するような長期間で、高額商品であればあるほど慎重になり、最終的な決断に時間を要する傾向が高いのです。

このような比較的長いリードタイムの中で、予約したゲストは、クルーズ客船会社の情報を収集し、会社としては、彼らの気分を高揚させてそれを持続させる仕掛けが必要です。その上で、上記3のクルーズ旅行を実行するのです。

乗船客にとっては、船上での滞在体験が、クルーズ行程の晴れ舞台なのです。船自体の居住性や船上でのサービスを中心とした滞在体験環境の充足度や感動が、この事業の根底に流れるリピータービジネスを支えると言う事になるのです。

様々な視点から見た「ラグジュアリー・クルーズ客船」の定義


1987年末、日本郵船はアメリカでのマーケットを主とするクルーズ客船事業は、新造船、かつラグジュアリー・マーケットを対象と決定。

同社は客船事業準備室を開設。ラグジュアリー・クルーズ客船の本質について多方面からの分析をすることになったのです。クルーズ客船のパンフレットや宣伝文句を目にすると、そのどれもが「豪華客船」 あるいは「ラグジュアリー」「非日常の世界」等の表現を乱発して、旅行を計画している人達の興味を引こうとしているのです。

では、この「豪華客船」とはどのような基準で、定義付けられているのでしょうか?

勿論、クル ーズ客船の基準は、

(1) 乗船客から見た基準 
(2) 旅行会社から見た基準 
(3) クルーズ客船評論家が見た基準
(4) クルーズ運航会社から見た基準

でそれぞれ、力点の置き方が異なるケー スも多いのです。

基準軸の取り方によって、評価基準は左右されるが、クルーズの世界で、旅行代理店や専門家が 客船のランクを決める際に、一般的に参考するのは、下記のような視点かと思われます。

1.船の利便性の良し悪し。
例えば、インサイドの客室か否か、あるいは 最近では、ベランダ付きか無しかなどの相対的比較をするのです。

2.サービスの面での「ソフト」
サービスのスタ イルや食器などのサービス備品と、それを実行する乗組員のサービス・システムです。これに加え、 クルーズ船客同士やクルーズ船客と乗組員が織り成す交流などが中心となる滞在環境の満足度が重要になります。

例えば船の大きさと乗客の比率と、乗組員と船客の比率が非常に大きな基準要素となるのです。

旅行ガイドなどの「ラグジュアリー・クルーズ客船」の評価基準は、その評論家自体の乗船経験、 その中でもかなり主観的な好き嫌いが入り込んで評価されている傾向が強いものです。

日本でも評価の高いベルリッツの出版しているダグラス・ワード氏の評価本は1965 年以来、今日まで、船上で生活してきたダグラス・ワード氏個人の客船・クルーズ客船評価実績の各年ベースの積み上げであり、 評価基準に出来るだけ、自分の主観的な判断を排除するように、検証細目を決め、それを、合算する方法を取っているため、より専門的な「ラグジュアリー度合い」の 評価システムといえるのです。

自分の乗船経験を旅行商品として、利用者の側面から格付けをすることを考え、ニューヨークのビルの一角にICPA (International Cruise Passengers Assn) を設立したのです。

ダグラス・ワード氏は、当時は、自らの出版で「クルーズ・ダイジェストリー ポート」を発行。世界のクルーズ客船の評価査定をしていた。下記のようなシステムを作り出し、 その後Berlitz社と提携し、クルー ズハンドブックを発行していた。 彼は評価の基準点として下記の通り挙げています。

1.船自体の機能面や仕上がりサービス評価 (500 ポイント)
 2.部屋周り(200 ポイント)
3.食事 (400ポイント)
4.エンターテイメント (100ポイント)
5.航行スケジュールや乗船体験(400 ポイント)
合計 1,600 ポイント


上記の点を考慮して対象船全てで点数化して最終的な数値を決定しているのです。

このレベルに応じて 「ファイブスター」 とか「ファイブスター・プラス」など言った表現が使われ、ラグジュ アリー度のグループ化がなされています。

彼は、これらの計数化された評価に加え、主に、下記の側面からの分析も加え、 総合評価を下すのです。 その際にはコストパフォーマンスの高さも念頭に入っているのです。

(1) ハード:
船自体の評価・構造や船体全般の評価・清潔度・利便性・宿泊施設としての快適度・家具機器・デコレーション・装飾・フイットネス施設・緊急時の避難経路。

(2) ソフト:
スタッフ・サービスの仕方、雰囲気・メニュー、フードサービスの中身やメニューの多彩さ・エンターティンメントの中身やプ ログアム・乗組員訓練・コミュニケーション力と英語・旅程および寄港地観光の企画や快適度などにも厳しい目を向けます。

旅行ガイドなどのラグジュアリー・クルーズ客船の評価基準は、その評論家自体の乗船経験、その中でも、かなり主観が入り込んで評価されている傾向が強いのです。

クルーズ船客から見た基準

クルーズ船客が、他のクルーズ客船や船社の「ラグジュアリー」度を、客観的に比較したものは少ないが、アメリカにおいては、数百万部も発行する各種旅行雑誌が、旅行者の立場で、ホスピタリティ・ビジネスの「世界ランキング(サー ビス度など)」発表している。例えば『コンデ・ナスト・トラベラー(Conde Nast Traveler)』や『トラベル・アンド・レジャー(Travel And Leisure)」 などは、 その代表的なものです。

彼らは、そのランク付けを、購読者に詳細な質問をぶつけて、 それを集計するシステムをとっている。「コンデナスト・トラベラー」では、ラグジュアリーの評 価基準が示されている。 その比較基準を見ると、下記の通りです。

1. 寄港地・航路企画
2. 船上での滞在体験を演出するサービス
3. 居住空間とそのデザイン
4. 船上での食事
5. 船上での催し・活動・フィットネスなど

ゲストから見た場合は、寄港地と共に、プロセスである滞在体験を大事にする旅のスタイルでもあり、ゲスト自身のクルーズ経験や、個人的な生活背景・ライフスタイルとの比較や、他の社会的・文化的主観が含まれるケースが多く、より独断と偏見なりがちであるとの指摘もあります。

旅行代理店など販売網から見た基準

旅行会社が抱えているゲストとクルーズ会社のプロダクトと共に予約や、 その後のメンテナンスなどの陸上のシステム自体が、判断の中に入り込むケースが多いのです。

特に、クルーズ会社との関係においては、ゲストからの不満などは、 離反顧客の予防に繋がり、その対応が、旅行代理店がフレンドリーな対応をしているか、否かが問われるのです。

しかし、旅行代理店から見れば、システムとしての 「包括料金」は、その管理を簡易化しており、旅行商品として扱いやすく、送客した船客の帰国後の満足度が最も高い旅行のスタイルだと高く評価しています。

ラグジュアリークルーズは、他の旅行形態と比較して、より高額である傾向があるので、予約してから、旅立ち日までの時間が長いものです。

実はこれが、旅行代理店の活用の為所なのだ。クルーズ旅行を予定する人は、旅行の数ヶ月も前から、パンフレッ トを手に入れてから、旅行会社との接触が始まるのです。この期間の面談を有効に利用して、クルーズ会社との相性を探ったり、他の旅行を勧めたりも出来るのです。

ラグジュアリー・イメージ確立のために

評価を得る前に、先ず新会社が望むラグジュアリー・クルーズの客層が、何を求めているのかを知る必要があります。クルーズ事業は、1つの旅の形で、2つの旅行を楽しむ旅のプロセスでもあり、この客層のライフスタイルに於ける嗜好や価値観を冷静に分析し、最大限に配慮する必要があります。

旅行者や彼らとの仲介役として存在する販売網などの「マーケットに聞く」買い手価値を優先する仕掛けを知らざるを得ないのです。

そこで、新会社の船上サービスなどの滞在環境を創る際に、各種の市場調査を行った。その結果、船客層の多くは、以下のようなプロダクトを求めている事が判明したのです。

アメリカ人のラグジュアリークルーズ客船とは

アメリカ人がイメージするラグジュアリークルーズを以下の通りです。

・ 目的地・寄港地企画など配船形態
・ ヨーロッパ人幹部船員
・ 待ち時間の無いサービスと細部まで行き届いたサービス 
・ 乗船時のシャンパンや出航時のエンターテイメント
・ヨーロッパ人の部屋係
・ 24 時間バトラーサービス
・ 部屋には、個人名が記入されている便箋などスティショナリー 
・ 高級なリネン石鹸などのアメニティ
・ 食事の量と飾り付け、メニューの種類の充実さ
・ ワインの種類と豊富な在庫量
・ ソムリエサービス
・ 船内での不要なアナウンスはしない
・ 公室などでのバックグランド・ミュージックの排除
・ 乗下船口は乗組員と別になっているか否か
・ 乗組員の刺青やピアスには否定的

などなどこれからクルーズ事業に進出する新会社としては、これらの嗜好調査を見極めて、 既存のラグジ ュアリー船社との差異化と独自性を徹底する必要がありました。

クルーズ客船と言う旅行者・船客にとっての"世界を漫遊する・浮かぶ長期滞在型 の別荘"は、実は、 水面下には、

1.巨大な工場及び各種施設プラントを備え、その上部に生活・居住区が在る構造になっている。その工場及び各種施設の「ハード の部分」

2.これを、船上に滞在中の生活体験 を満足させるための「サービス(ソ フト)の部分」とに分けることができるでしょう。

船のハード部分について見ると、工場プラント部分は、各種の近代的施設が整備されている。造水能力、冷凍設備の拡充や生活・居住区の改善等が、最近のクルーズ客船の大型化・クルーズ期間の長期化に貢献しているのですが、目立たぬ所では船体を安定させるため海中で翼を出す装置(フィンスタビライザー)などの改善で、 静などに対する不安はかなり解消することとなったのです。

又、居住性に ついても、クルーズ会社は、太平洋横断定期船の輸送手段としての時代とは、明らかに異なった視点から、設備の投資に配慮してきたのです。

クルーズ客船は周遊型で、なおかつ居住性が極めて重要であり、競合関係にある陸上のリゾート地にある滞在型ホテルとか他の滞在型リゾート関連施設を想定して各種改善が進められてきたこともあり、リゾート・ホテルに劣らない部屋の設備や施設が整備されています。

しかし、このようなハード面は、ライバル会社の新造船の投入などが無ければ、 時代の流れに遅れたりして、クルーズ船客から飽きられやすいのです。

クルーズ客船会社として、人的な要素が核になるソフトの面での特徴こそが、旅行商品としての価値を持続し、クルーズ船客の評価と支持が得られれば、クルーズ船客の主観が全てを決めるという、この競争の激しいマーケットにお いても生き残れるのです。

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