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旅行需要の回復に向けて

富裕層のリベンジ・トラベル

世界では旅行需要の力強い回復が見られるようになりました。 2021年12月、世界各国の富裕層 旅行関係者が集まり商談を行うイベント「International Luxury Travel Market」かまフランス・カンヌで開催され、1000を超える出店ブースが並び盛況を収めました。

富裕層は非常に力強い「リベンジ・トラベル」のパワーをマグマのように溜めていて、Luxury Travel(上質な観光サービスを求める富裕層旅行)へのトレンドが見てとれます。 

それでは世界の富裕層は、旅行に何を求めているのでしょうか。

富裕層の間では数年前から「ウェルネス」への関心が高まっています。

その流れはコロナ禍でいっそう加速しました。

ウェルネスという言葉は、今やスパやエステにとどまりません。

肉体的な健康だけでなく、感情、精神、知性、職業、環境、ライフスタイル、社会的なウェルネスにまで及びます。

インバウンド向けのブランド戦略を考えるときに、日本のクオリティ高い『ウェルネス』環境は 大きな武器になりそうです。

日本の上質なサービス、真心こもったホスピタリティで、富裕層のリベンジ・トラベルの熱い期待を一身に受けとめる体力を持っています。


リッツ・カールトンホテルのスイートルーム

スイートルーム、需要に追いつかず

旅行業界には『リベンジ消費』の兆しはあるのでしょうか?

コロナ禍で変わった点について、パレスホテル代表取締役社長の吉原大介さんの談を紹介します。

「基本的には都心にお住まいの方が、週末利用あるいはステイケーション(近場で休日を過ごす旅行スタイル)で、ホテルでゆっくりされます。

それにしても、インバウンドの穴埋めをするほどの需要はない。企業の出張もまだ制限されていますし。宿泊にリベンジ消費が起きている感はないですね。

唯一あるのは、通常の部屋と比べると、スイートルームの稼働率が高いことです。

コロナ禍になって、あちこち観光するというよりもホテル滞在を旅の目的にする人が増えました。お客さまのホテル滞在時間がものすごく長くなったのが、何よりも大きな変化です。

そういった背景もあり、既存の客室を一部改装してスイートルームを増設しました。広さ90平方メートルの「プレミアスイート」を新しく6部屋造ったことで、スイートルームが18室に増えました。

実はもともと、全客室数290のうちスイートルームが12室だけでは足りず、海外の富裕層を取り逃がしていたという課題があったんです。コロナ禍が収束したら、そこはしっかり取っていきたい。」と述べていました。

2030年に訪日客数6000万人、15兆円

訪日観光はコロナ禍で壊滅的打撃を受けています。

日本政府観光局(JNTO)が発表した2021年 12月の訪日外国人数(推計値)は、1万2100人でした。新型コロナウイルス感染症の影響が出る前の2019年同月比では99.5%減に相当します。

1月から12月までの累計は2019年比、99.2%減 (2020年比では94%減)の24万5900人となりました。

オミクロン株の登場で日本の水際対策は強化され、2021年11月30日以降は外国人の新規入国が 停止となっており、12月はその影響で前月を大きく下回っています。

12月の訪日数を市場別に見ると、中国からの1800人、インドの1200人、韓国の1100人、アメリカの1000人、それ以外は 200~300人で、二桁の国・地域も多くありました。

オミクロン株による感染再拡大で各国・地域から日本への直行便は引き続き大幅な運休・減便となっています。

2021年を1年間通して見ると、1月は4万人台、2月~6月は1万人前後と低迷、東京五輪の始まった7月は年間最多となる5万人を超えたものの、その後は減少し、年間訪日客数の過去最低を 記録しました。 

JNTOの統計にある最も古い記録は、前回の東京五輪開催の1964年、奇しくもその年の35万2832人をも下回る結果でした。

国・地域別では中国、ベトナム、アメリカ、韓国が2万人以上、そのほかは1万人以下でしたが、 トップ5常連の台湾や香港というヘビーリピーターのいる市場からの訪日が少なかったのが目立ちました。総数的にはどこも2019年の1%に満たないところばかりでした。

しかしながら、欧米諸国と比べてコロナの被害抑制に成功したこともあり、各種メディアの調査 などでも、コロナ後に訪問したい国として日本は常に上位にランクインしています。

コロナが収束に向かえば、世界中から日本に観光客が押し寄せることが予想されます。2025年に予定されて いる大阪・関西万博で好機をつかみたいところです。

さて、政府は2030年までに訪日客数『6000万人』『15兆円』という目標を掲げていました。パンデミックという予想外の出来事で目標ははるか彼方に、オミクロン株による感染再拡大で、インバウンド観光業界の明るい展望が描けない状況にあります。そんななか富裕層の『Luxury Travel』需要に期待が集まる理由があります。

Luxury Travel(富裕層旅行)市場からの再興

コロナ禍がある程度収束したとしても、水際対策を考えると一気に数千万人規模の訪日客を受け 入れることは現実的ではありません。

富裕旅行者から段階的に受け入れを再開することで、国際観光を復活させていくのが合理的だと見込まれています。プライベートジェットや隔離された宿泊施設など、安全な旅行手段を確保できる経済力があるからです。

彼らの多くは企業経営者や投資家でもあるため、日本に対する関心・好感度の向上は、日本への 投資拡大につながると期待されます。またインフルエンサーである富裕旅行者による発信は、効果 絶大なプロモーションとなり、日本のブランド価値を高めることにも貢献します。

1人100万円以上を使う富裕層とは一体どんな人たちなのか?

現在は新型コロナウイルスの感染拡大により大打撃を受けているインバウンド業界ですが、それ 以前の政府の取り組みに目を向けてみると、インバウド促進による経済活性化に注力し、中でも1 人あたり単価の高い富裕層の誘致を盛んに行っていたことがわかります。

富裕層とはどんな人々でどういった思考のもと旅行をしているのでしょうか。そして、その富裕層は日本で満足をし、 日本のインバウンド業界に恩恵をもたらすことになるのでしょうか。

JNTO(日本政府観光局)が膨大なリサーチをして捉えた世界の富裕層の姿、行動の実態につい て、またなぜ政府が『Luxury Travel』誘致に注力しているのか、JNTO市場横断プロモーション 部の小林大祐氏は次のように話しています。

政府は2020年に訪日外国人数4000万人、訪日消費額8兆円を目標に掲げています。しかし、 2019年の訪日外国人数は約3188万人、消費額は約4.8兆円という結果でしたので、特に消費額が 目標に届いていないという状況です。

1人あたりの単価は中国人観光客の「爆買い」ブームをピー クに緩やかに下がっていますので、人数が増えても消費額全体は伸びないというのが現状です。

そこで、いかにして消費額を上げていくのかを考えた時に、1人あたり単価の高い「富裕層」という キーワードが浮かび上がってきました。支出する余力のある人たちは、旅行先でも価値あるものに対してお金を惜しみません。

こうした理由から、JNTOでは富裕層への取り組みに力を入れてい ます。

消費額が上がるという直接的な効果はもちろんですが、それ以外にも副次的な効果があります。 富裕層の中には社会で活躍している方々や芸能人など、トレンドを作っている人が多いため、トレンドセッター的な役割を果たしてくれます。彼らの間で特定の旅行先が流行りだすと、一般の旅行者や消費者もそれに追随するのです。

富裕層マーケットの訴求キーワードには「特別な体験」や 「本物の価値」というものがありますが、日本はアジアの競合国をはじめとした他国にはない独自の観光魅力を有しているため、富裕層旅行者の取り込みが増加するポテンシャルは十分にあると考えています。

世界の地域別に見ると、富裕層が最も多いマーケットはアメリカで、次に多いのがヨーロッパです。

そして最近勢いがあるのはアジアで、中国を中心にどんどんマーケットが大きくなっていますし、将来的にはさらに市場が膨らんでいくという予測が立てられています。

マーケットサイズは小さいけれど「超富裕層」が多く存在するのは、カタールやクウェート、UAEなどに代表される中東です。中東には超富裕層が多いため、富裕層の中でも1人あたり単価が特に高いということです。

例えばUAEのエリートたちは大学を卒業した直後の初任給が約1000万円で、医療費や教育費、固定資産税、相続税などが一切かからないため、お金がどんどん貯まっていくそうです。彼らの中には、昼間からショッピングモールのカフェでのんびりしている人がすごく多い。

なぜなら、お茶をしながら電話で仕事の指示を出して、細かい仕事は部下や外国からの移民労働者に任せているからです。

お金も時間もある彼らですが、イスラム教徒なので「お酒を飲んではいけない」「ギャンブルをしてはいけない」など、自国では厳しい戒律のもとで暮らしています。

普段の生活では欲求を制限している分、海外に出た時ぐらいは少し羽を伸ばしたいという方も実は多い。

お金と時間があって旅行好きとなると、マーケットとしては非常に有効ですので、JNTOとしては昨年から 中東マーケットの開拓に取り組んでいます。

明確なプロモーションを打ち出すため、JNTOではまず調査に基づいたターゲットの定義づけをし ています。

「お金を持っている」「海外旅行をよくする」「旅行先でお金をたくさん使ってくれる」 人に絞り込みます。

さらに「海外旅行先で1人1回あたり100万円消費する人」をプロモーション ターゲトットとなる富裕旅行者と位置付けました。

昨年の訪日外国人の1人あたり単価が約15万円でしたので、100万円という金額が現実からかけ離れているように感じられるかもしれません が、調査によると実際にこれだけのお金を1回の旅行で使っている人がそれなりの規模で存在するということもわかっています。

富裕層の多い「欧米豪」マーケットの中でもアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの5市場に限定した調査では、1年間で1回以上海外旅行をしている人が、約3億4100万人いたという結果が出ています。

そのうち、1回あたり100万円を使った人は全体の1%、

つまり約 340万人存在するという数字が割り出されました。

3億4100万人の人が海外旅行で消費した額は 年間35.8兆円ですので、1%の富裕旅行者は全体の13%に相当する約4.7兆円を消費していること がわかります。

JNTOではこの4.7兆円が狙いに行くマーケットだということを整理してプロモーション活動をしています。

さらに国別の数字を見てみると、やはり最も大きな富裕旅行市場はアメリカで、人数・消費額と もに5カ国計(340万人、消費額4.7兆円)の半数以上を占めています。

JNTOが行った調査では1人あたり単価が1回136万円となっているため、現在の平均15万円と比べると約9倍であることがわかります。オーストラリアは数のボリュームは少ないのですが、1人あたり単価は296万円と なっています。

富裕層の旅行ニーズに対応するもっとも大きな狙いは観光収入の向上を通じた経済成長です。世界の富裕旅行市場は、国際観光の中でも高い成長率を示すセグメントになっています。

JNTOの調査でも、一般の訪日客の10倍以上を消費する旅行者が多数存在することが明らかになりました。 

1000万円以上の消費行動が見られる層も一定数確認されています。

実際、現代アートや古美術品、伝統工芸、高級衣服、宝飾品などを購買する主力は富裕層です。インバウンド富裕旅行の増加は地域の消費拡大、国民所得の向上に大きく貢献します。

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