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ポスト・コロナの経済政策の提言(要旨) - #まっとうにお金が回る社会に日本を大改造 -

2020年総選挙に向けての政権公約をどうするか。

とくに、どんな経済政策が今後に必要なのか。

立憲野党に参加される議員、職員、その支持者の方々、さらには広範の主権者の方々の検討の一助になればと、当会(立憲パートナーズ社会構想研究会、社構研、非公式)でも議論を緊急で行い、以下を取りまとめました。

過去の政策提言と同じ姿勢ですが、今回でも学術的根拠を重視しました。経済学者の故宇沢弘文、財政社会学者の井手英策さんの論考に加え、日本語ではデービッド・アトキンソンさんの著作で知られますが、イギリス政治学会(Political Studies Association) も「過去30年間で最も成功した政策。社会的インパクト、導入成功、経済的インパクト、インパクトの持続性に優れる」と高く評価した最低賃金政策が、まっとうにお金が回る社会の実現に不可欠と考えます。

「価値創造をして社会で支え合うための財源を生み出す、第三の道があるとは。こんな未来になれたらいい」ともしお感じの方は、本稿を知人友人の方々にシェアをくださいましたら、幸いです。

※会議等のため印刷されたい方にPDF(A4、7ページ)をご用意しました。


ポスト・コロナの経済政策の提言(要旨)
- #まっとうにお金が回る社会に日本を大改造 -

 私たちの国・日本は少子高齢化社会に入って久しく、生産年齢人口 1) そして総人口 2) も減少傾向が止まりません。人も資金も余裕がなく、都会も地方も疲弊しています。「小さな政府」3) の追求路線で公的部門が過剰に削られ、医療や福祉等の公的サービスが弱化 4) しました。さらに、地球温暖化に伴って日本各地で深刻な自然災害が常態化したところに、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)という人類史上で最大級の危機が到来しています。確かに、戦争や原発事故という危機も甚大な被害をもたらしましたが、まだ疎開ができる地域が存在しました。しかし、新型コロナでは日本各地にどこにも疎開できる場所はなく、海外渡航も困難です。病、貧困、そして人心の荒廃と治安悪化が日本各地を容赦なく襲っています。

 一世紀前に私たち人類はスペイン風邪(1918-1920)に苦しみましたが、新型コロナはそれに匹敵するか、上回る犠牲をもたらす可能性に留意する必要があります。グローバリゼーションの進行で、一世紀前よりも人々の国境をまたぐ移動が飛躍的に増えたからです。ドイツ政府コッホ研究所は「収束に2年」と2020年3月に指摘 5) し、米ハーバード大も「外出自粛、22年まで必要」と予測 6) しています。さらには、新型ウイルスとの共存が「この先何十年も続く」と英専門家は警告 7) しています。いえ、100年に一度という認識すらも楽観的で、世界的な感染症の発生サイクルは大幅に短縮された現実があります。世界各地の自然破壊と人間の入植により、多くの野生生物が絶滅しましたが、人間の人口爆発は止まらないため、ウイルスは人間を宿主に選ぶ流れが強まっています 8)。幸運にも日本では感染が広がらなかっただけでしたが、SARSの世界的な大流行は2003年でした。人類に未知の感染症が新型コロナに続く想定も不可欠です。

 ポスト・コロナの議論が連合、国民民主党、立憲民主党で2020年7月に開始されています 9) が、もはや遠い先となる「コロナ後」ではなく、現在進行中となる「コロナ以降」との高い緊急性を伴う意識で、今、日本各地で進む危機的な状況にどう向き合い、突破するかの戦略が求められると考えられます。「国家百年の計」を決して死語にしてはならず、2020年の日本にこそ必要なのです。

 かつて高度成長期そしてバブル期にわたり、経済の拡大を追い風として、日本は人口を増加できました。確かに昭和でも公害や人権問題等、様々の深刻な社会課題がありましたが、時代の空気としては寛容で、「今年より来年は良くなる」という見通しを感じられ、政府は信頼され、年金制度が機能し、多くの人々は楽観的でした。自己責任という言葉は昭和では唱えられなかった 10) のです。

 しかし、バブル崩壊後、「今年より来年は良くなる」との見通しは社会から潰えてしまいました。社会は不寛容な空気であふれ、新自由主義や自己責任が過去30年間叫ばれ続け、多くの人々は悲観的になり、今そして先行きへの不安や、生きづらさを抱えています。「経済成長を引っ張る機関車」の待望論は高度成長期から続き、しかしそんな機関車は幸せの青い鳥であって、どこにも存在しません。格差は拡大し、今や貧困と治安悪化が各地で広がり続けています。

 どうしたらよいのでしょうか?

 日本国内だけを見ていても煮詰まり、解決策は見つかりません。イギリスをはじめOECD諸国は最低賃金政策を社会の底上げそして格差是正の一助にし続けています 11)12)。全国一律にすることで地域差別や地域格差を抑止し、不況が到来しようと計画的に長年かけて最低賃金の引上を続け、労使の学びそして生産性向上を促し、ワークライフバランスを追求し、国際競争力を高め続けています。最低賃金引上は実は全産業への筋力トレーニングであって、筋トレを不況でもやめない姿勢を国家として堅持することで、各事業者は計画的に賃上げに対応できるよう戦略を策定し、高付加価値路線を志向できます。

 例えばフィンランドは世界そしてOECD諸国の中でも豊かな国の代表選手ですが、フィンランドの教育の目的は「良き納税者を育てる」13) です。良き納税者の育成は、すなわち、精神的にも経済的にも豊かで、稼げて、まっとうにお金が回る社会を実現する善政とも言えます。良き納税者で国があふれれば、当然ながら財政の余裕も高まり、さらに社会的包摂 14) が進み、困った人を一人も取り残さない社会の実現をできるのは確かです。

 労働法で就業中にコーヒー休憩する権利が確立 15) し、夕方4時に帰宅 16) し、家族との時間を大切にするフィンランド。確かに税率は高いですが、返ってくる信頼があります。社会として賢く稼ぎ、一人当たりGDPで日本を長年上回り続けています 17) 。社会の稼ぐ力を高めねば、個人の稼ぐ力は上がりようもありません。日本で深夜まで心身を壊して働いても、個人や企業の努力だけではもはや限界です。政治が社会の方向性を打ち出さねばならないのです。

 日本は税にマイナスのイメージが強い社会になっています。税をめぐり「取られる」「吸い上げる」「痛税感」「負担」等の表現がされています。一方、財政社会学者の井手英策は「税への同意の根底には、財政制度の公正さ、民主主義への信頼、そして、ともに生きる意思がなければならない。」18) と説きます。税の拠出はお互い様の支え合いへの賛同表明なのです。

 さらには、経済学者の宇沢弘文は「社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然環境だけでなく、道路、上下水道、公共的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などのいわゆる制度資本をも含む。」19) と説きます。圧巻は、「社会的共通資本の管理、運営は、フィデュシアリー(fiduciary: 受託・信託)の原則に基づいて、信託されているからである。」19) という指摘で、ここに共同体(コモンズ)そして間接民主制の重要さが説かれていると考えられます。

 成長を牽引する機関車を求めても、幻想です。新自由主義は経済の効率性を高めたかもしれませんが、格差を拡大しました。アメリカでは、医療や教育のような人間にとり不可欠な領域のサービスの料金が高騰しています。OECDは「所得格差は経済成長を損なう」20) と指摘します。日本では、ビジネスの題材にありつけるサロンに入れる1%の富裕層と、入れない99%の中間層・貧困層が分断されました。その1%の人々のサロンの総本山が桜を見る会 21) だったのです。ですが、利権や補助金にありつこうとする日本経済は、最低賃金引上という全産業の筋トレを嫌がり、いわばメタボ体質で老いる一方と言えます。そして、新型コロナ感染拡大が明らかになっても、新自由主義で経済最優先となった日本では、感染対策を軽視して犠牲者を増やす経済再開に向かわざるを得ません。

 「成長の機関車も、サロンもいらない」皆が富む社会を実現することが、究極の善政です。昭和の一億総中流社会とは、実は優れた行政手腕によって実現した善政の成果だったのです。新型コロナ前でしたが、当会メンバーがスウェーデンを訪ねると、「住みやすい。総中流に満足している」との声が現地で相次ぎました。今そして今後こそ、社会のいわば1%の人々のための利権にお金を投じるのではなく、広範な99%の人々にお金を投じるべきです。長年にわたり右往左往せずに最低賃金が計画的に引上げられ、全国一律が実現すれば、全国で人々の所得そして購買力が向上し、分厚い中間層が復活します。稼げる人が増えているということは、良き納税者が増えているということであり、財政再建への賛同も広がります。それは、日本を今刹那的に食いつぶして破綻させる道を回避でき、若者や子どもや未来の世代に対して、ジリ貧の日本社会を引き渡す展開をなくせます。もちろん、各地企業はより学びを重んじ、人的資本 22) の価値が上がり、収益性を高められ、国際競争力も諸外国に追いつけます。重要なのは、計画的な最低賃金引上と全国一律化により、各地のフリーランスや中小零細企業こそ、学びそして所得向上の恩恵を受けられ、事業の持続性を高める契機にできます。イギリスや北欧諸国のような最低賃金政策が良好な国々では、成長の機関車が存在しなくとも、所得倍増軌道を長年続けている 12) のです。

 まとめます。単純に増税と行政の業務範囲を増やす「大きな政府」でもなく、減税そして公共サービスカットを望む「小さな政府」でもない、「第三の道」を私たちは科学的見地に基づいて提言しています。共同体(コモンズ)意識を国家単位で回復し、お互いの支え合いを税の拠出によって行い、少子高齢化社会の社会保障を支え、同時進行で最低賃金引上を計画的に全国一律にすることで、人々の稼ぐ力を高め、良き納税者を増やすのです。いわば「#まっとうにお金が回る社会に日本を大改造 することで、100年に一度の空前の危機を乗り越え、日本を未来につなげましょう」との提言です。逆に言えば、もし日本が今回で財政規律の意識をかなぐり捨て、金融市場から不信を招けば、国債発行でしのぐことすら不可能となり、あと数年後には、高い失業率のもと食料も福祉も医療も乏しく、年金や生活保護が思い切り削られ、警察等の行政サービスも各地で閉鎖され、さらに治安が悪化しても各自で自衛するしかない日本が現実化する懸念が強くあります。

 新型コロナが容赦無くもたらす100年に一度の危機。目先のその場しのぎでは歯が立たず、国家百年の計で臨まねば、決して乗り越えられません。喫緊で山積する諸課題の解決の一助になればと、私たち市民の集まりである立憲パートナーズ社会構想研究会は今回の提言を取りまとめました。ぜひ未来に向けた歩みに貢献できればと願ってやみません。

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立憲パートナーズ社会構想研究会へ、ぜひ薄く広くご支援をお願いいたします。