深海に満ちる碧:エド・シーラン
あたりめです。
エド・シーラン『+ - = ÷ × Tour』(ザ・マスマティクス・ツアー)、大阪公演(初日)に行ってきました。
どうやらライブに行きすぎていますね。
すでに今年4回目のライブです。たまたまです。たまたま時期が寄ってしまったんです。これは仕方なかったんだ。うん。
行きすぎているためか、シンプルに脳みそがエラーを引き起こしている。完全にキャパオーバー。脳信号は一生「エドマジヤベェ」のループ押し売り状態。
も〜〜〜〜〜ねェ〜〜〜〜〜〜〜、ループペダル(ルーパー)が生み出す無限空間を体感してしまいましたね。間違いなく2時間 目で観て耳で聴いたはずなのに、まだ全然疑ってるもんな。疑ってるというか分かってない。人間1、ギター1、ループペダル1で鳴る音なんかあれは??? 正気じゃなさすぎる。さすがにループペダル側も想定外だろあんなもん。絶対困惑してる。ヒーン言うてる。
ループペダル(ルーパー)とは、音声の録音やループ再生ができる音楽用の機材のことである。
私が知っているアーティストだと、竹内アンナちゃんやReNくんがめちゃくちゃ巧みに用いて音楽をやっている印象があるのだけど、その竹内アンナちゃんがループペダルについて取材を受けていたとき、こんなことを言っていた。
彼女は笑いながら冗談ぽく話してくれているが、この『ギターを置いてステージの端から端まで走る』を2時間ずっとやっていたのがエドのライブだった。正確にはギターを抱えた状態がほとんどだったけれど(なおのこと凄すぎる)、彼はマジのマジでずっっっと動き回っていた。
円形ステージの外側がムービング仕様になっていて、動かず立ったままでも360度回るようになっているのに自らも動く。ほぼほぼ競歩の速度感でステージを周回しまくる。
ループペダルはステージ中央に1つ、そして外側ムービング部分に4つ(時計12・3・6・9の位置)配置し、計5つを連動させた状態だった。タイミングや操作をミスるとドエライことになってしまうというのに、ずっとムービング部分を歩いたり走ったり、時々逆走なんかもしていた。なのに操作するタイミングではいつもちょうど どこかしらのペダル前に居たのだ。
エド、ライブしててパッパラパー(語彙)になる瞬間とかあるんだろうか。
なんていうの、パッパラパーになるのがライブの醍醐味じゃないですか。(ほんと語彙)
彼のステージを観ていたら常に頭をフル稼働+冷静でいなきゃいけないような感じがあって、こんなもん一瞬でもパッパラパーになったら終わるなと思ってしまった。ライブを構成する音すべての責任が自分1人にかかってるのどう考えてもヤバすぎる。なんて世界で音楽をやってんだ。
ループペダルは1人バンドを実現させるようなものだ。ステージの可能性は無限に広がるが、一方でひとつ操作やタイミングを誤ればとんでもないことになる。私はこの、世界屈指と評される彼のループペダル技術をどうしても生で見てみたかったのだ。エド・シーランのステージは文字通り、そのまんま、『エド・シーラン』のみで成立していた。
ループペダルを駆使したエドの演奏、①楽曲冒頭で魅せるパターン ②楽曲後半で魅せるパターン が初見の私にとっては印象深かったのだけど、もうぜんっっぜん違うブチ上がり方だった。どっちも至高という他ナシ。なんか魔法をみてる気分だった。
ライブに行く前は①の冒頭パターンをずっと妄想していた。曲がスタートする以上音を仕込まなければならないので、エドは録音を繰り返し少しずつ音を重ねていく。そしてその楽曲を強烈に印象付けているキラーフレーズが吹き込まれたとき(キーボードであることが多い)、一気に会場ボルテージがメーターを吹っ切る。次に披露される楽曲が確定したからである。
ただ大問題がこのあとに控えていた。
音の仕込みが終わらねぇ。
なんという拷問なのでしょう。
もう次分かってんだ!!!次が!!! 'Shape of You' なのは!!!分かってんだ!!!!!はよ!!!はよ〜〜〜〜〜ゥ!!!!!(うめき声)
おわかりいただけただろうか。これが①のブチ上がり、『香り立つ焼肉待ち焦がれパターン』である。
いや、ある、あるよ、バンドのライブでも、バンドじゃなくても。引っ張られたり遊ばれたり、うん。全然あるし、体感してきたはずなんだ。なのになんなんだこの圧倒的な高揚感と焦らされ感は。どっから湧いてきてる?where is 源泉?
当然のように もう全部の演奏が格好良すぎたんだけど、なかでもめちゃくちゃ脳みそに刺さったのが 'Give Me Love' と 'Bloodstream' だった。
この2曲、中盤〜ラストにかけて豪雨のように重ねられていく音に信じられないくらい鳥肌が立った。これが②の後半ブチ上がりパターンである。スゲェという言葉以外の感想があるなら教えてほしい。
あと、マジモンのメロディーメーカーだな〜〜〜と感じた。楽曲って平均的に30個以上のトラックの組み合わせで1つのものが成り立っているから、それをバラバラで聞いたとてピンと来ないのがある種 当然というか。だけどエドの楽曲はボーカルとあと1つのトラックさえあればもう成立しちゃう感じがある。この "あと1つのトラック"、キラーフレーズになるメロディーを生み出す能力が彼は神がかりすぎている。
そういう、極限までシンプルな状態で成り立ってしまう音楽でありながら、そこに全く物足りなさを感じないのが更にヤバイ。"シンプル" のなかでちゃんと面白さと奥行きが一緒に遊び回っている。ヤバイって言いたくないけどヤバイしか出てこない。
私は音楽を生み出すことにおいて『シンプルなのに格好良い』を狙うのがいちばん難しいことだと勝手に思っているところがあるので、それのド真ん中を一生貫いているエドは正直どうかしているとすら思っている(※最大の賛美です)。
だってさ例えばさっき貼った 'Shape of You' もだけど、'Shivers' 聴いてみ??? キーボードで鳴ってるあのフレーズ、延々とループされてるあのフレーズ、あんなシンプルなことがあるか????? なんで今まであのフレーズ誰も思い付かんかった????? 呪いかなんかでひらめきを封じ込まれてたんか???????
ドキュメンタリーで楽曲制作をしている様子もすこし観たのだけど、魔法(2回目)かと思ったもんな。
アコギを抱えたままソファにゴロリンしたエドが、適当に音を鳴らしながらメロディーを口ずさむ。あっこれいいかも、と感じたフレーズがあればそこにどんどんメロディー(同時進行で歌詞も)を足していき、ものの30分ほどで1曲の大枠が出来上がる。'Bad Habits' だった。衝撃すぎて泣きわめいた。大ヒット曲、ねるねるねるねくらいのチョケでつくられてた。(とても楽しそうで最高でした)
そう、ドキュメンタリー観たんです。それをうけて生で聴く 'Eyes Closed'、泣けて仕方なかったなぁ。ライブに行くとなったとき、楽曲をなるべく聴き込んでから行きたいのか、逆に真っ新な感覚のまま浴びに行きたいのか、そういうのはアーティストによってまちまちなのだけど、エドに対しては『ひとを知ってから行きたい』が私のなかにほんのりあった。
その時点で彼について知っていることが『ホームレス時代があった』くらいだった私は、ネットですこし調べてみたり、最終的にはドキュメンタリーを観て エドのこれまでを知った。もちろんそれは彼のごく一部にすぎないけれど、それでも知ってからライブに行けたこと、本当に本当に良かったと思っている。
基本的にnoteには残してェ〜〜と思ったこと(ライブや新曲の感想、インタビュー等の内容)を好きに書いているため、ここからは主にドキュメンタリーで知ったエドのことを書き残します。途中かなり重い話になっているので、おっとそれは…と感じた方はここまでのループペダルのくだりをもう一周してから静かに閉じてください。よろしくお願いします〜〜。
アンコールの1曲目は初期からずっと披露し続けているという 'You Need Me, I Don't Need You'、全編ラップの楽曲だった。生で聴くのをめちゃくちゃ楽しみにしていた。
これまでエドに対してラップという印象が無かったのだけど、彼の原点であり芯にあるのはラップなのですね。幼少期に父からプレゼントされたエミネムのLPで彼の人生は今の道に動いたとのこと。これまた魔法みたいな話なんだけど、当時あった吃音の症状は、エミネムのラップを真似ているうちに治ったらしい。エドにとってエミネムは生涯のヒーローとのこと。
どれだけたくさん楽曲をつくってもすべて鳴かず飛ばすで終わっていた頃、当時のマネージャーから「その赤髪を金髪にして、ループペダルとラップもやめろ」と言われたエドの答えがこの楽曲だった。そして同時に、彼の人気に火がついた楽曲でもあった。きっかけは、親友であるジャマールさんが自身の運営するYoutubeチャンネルにこの楽曲の動画をアップしたことだった。
+、×、÷、=、とアルバムをリリースしたのち、2022年にエドを襲ったすべての出来事から生まれた楽曲が詰められたアルバムが翌年2023年に完成した。それが『- (サブトラクト)』だった。
先述した 'Eyes Closed' は元々、2018年につくった失恋ソングだったとのこと。2023年、ふと確認した歌詞にジャマールさんの姿が重なった。エドは『- (サブトラクト)』の最後のレコーディングに、この楽曲を選んだ。
ジャマールさんはSBTVという音楽チャンネルを運営していた音楽起業家で、イギリスの音楽業界で彼を知らない人は居ないというほどに有名な方だったそうだ。
エドにとって、2022年の2月は人生で最もつらい時期だった。最愛の妻 チェリーさんに腫瘍が見つかり(しかも当時妊娠中だった)、ジャマールさんを失い、挙句の果てには楽曲制作の速さから盗作疑惑をかけられ訴えられた。(※裁判には勝訴している)
検査を経てチェリーさんの腫瘍が癌だと判明した(※現在は無事に手術を終えられ、経過観察中とのこと)翌日、ジャマールさんが亡くなった。数時間前まで連絡を取っていた。死因は薬物によるものだった。エドが使用していた時期に、やめとけよ、と口うるさく注意してくれていたのは彼だったそう。
※SBTV内の企画で披露された 'F64'。
嘘みたいな本当の話なのだけど、エドは今でも時々路上ライブを行っている。
久しぶりに地元で行った路上ライブで、彼の碧い瞳はひとりの少年を捉えていた。
「君は10歳くらい?」
と話しかけたのち、
「僕が今このギターを君にあげたら、毎日必ず練習すると約束してくれる?」
といたずらっぽく微笑んだ。
その少年は答えるより先に、すこし震えながら泣いていた。ライブ終了後、エドはギターにサインを書き、そのまま少年にプレゼントした。
エドのライブは、深海に届く光みたいな空間だった。深海にも星って満ちるんだなぁ、と。
今そこにいるエドの呼吸が、鼓動が、熱が 音と結びついてきらきらと降りそそいでいた。なんというか、碧い流星群だった。
彼にギターをプレゼントしてもらったあの少年は、今も毎日練習しているだろうか。今日この瞬間にもまた、碧い流星群にあてられ 夢をみる子どもが、そのかがやきに掬われ 見上げて夜を過ごす大人が、きっと世界中に居る。
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