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Make War - From First To Last 【歌詞和訳】

All I see is love gore.

Title/Make War(2017)
Artist/From First To Last
Included/Single[Make War(2017)]


注意……暴力、女性蔑視、その他卑俗な表現が続きます。
各自、自衛してください。


Nobody else can risk fucking with their name 
 誰もお前を相手にしないみたいだな  
So I'll come out and lay waste to good taste for you, babe 
 ならおれがお前のために手を汚してやるよ  
Hate comes easy, but with you, I come hard 
 すぐ殺してやりたくなるが、まあお前とならやっていける  
Happy anniversary from the bottom of my credit card 
 かっつかつのクレカ残高からおめでたい記念日の誕生だ 
 
Who was that inside you 
 お前の中に誰がいるんだ?  
That made me feel so cock strong? 
 俺のをこんなに硬くさせんのは誰だ?  
I wish the truth could do (To you)
 真実ってやつがお前を苦しめてくれたらいいのにな
What your Snapchat put me through 
 お前がスナップチャットで俺を弄んだように

Woman, I make war to you 
 なあ淑女さん、俺とやりあおうぜ  
If you give a fuck enough, you'll make war too 
 その気になるってんなら、お前も参戦だな  
God damn, is this routine to you? 
 終わってやがる、いつもこんなことしてんのか?  
Woman (Woman)Whoa 
 なあ淑女さんよ  

I'm so bored of digging your trenches 
 お前の穴をほじくんのはもう飽きたんだよ  
When all this time, it was for your affection; that's a lesson 
 それだってずっとお前の愛情のためにしてきたんだ、ちゃんと覚えとけよ  

Sometimes you gotta leave that god damn thing 
 たまには腐ったゴミはそのまま残しといたらどうだ
Right where you lost it 
 お前がなくした場所にちゃんとな  
I don't dig up the living corpses of scene whore kids ;I just court them 
 どこの誰のとも知れないクソガキどもを連れてくんじゃねえ、おれがそいつらに何するかわかんねえからな

Woman, I make war to you 
 なあ淑女さん、俺とやりあおうぜ  
If you give a fuck enough, you'll make war too 
 その気になるってんなら、お前も参戦だな  
God damn, is this routine to you? 
 終わってやがる、いつもこんなことしてんのか?  
Woman (Woman)Whoa 
 なあ淑女さんよ  

Who was that inside you that made me feel so gone?  
 お前の中の誰が俺を狂わせた?  
From your smile to your core, all I see is love gore 
 お前の笑顔から心の内奥をのぞいても、内臓がはみ出た愛が見えるだけだ  
From your smile to your core, get off the bed and out the door 
 笑顔から心の内奥が……ベッドをおりろ、俺の前から消え失せろ  
All I see, all I see is love gore 
 俺に見えんのは、俺に見えんのは内臓がはみ出た愛だけだ  
From your smile to your core, get off the bed and out the door(From your smile, to your core) 
 お前の笑顔から心の内奥が……ベッドをおりろ、俺の前から消え失せろ  
All I see, all I see is love gore(All I see is love gore) 
 俺に見えんのは、俺に見えんのは内臓がはみ出た愛だけだ  

Woman, I make war to you 
 なあ淑女さん、俺とやりあおうぜ  
If you give a fuck enough, you’ll make war too (Yeah, yeah, yeah) 
 その気になるってんなら、お前も参戦だな  
You’ll make war too (Yeah, yeah, yeah, yeah) 
 お前もやるんだよ
You’ll make war too (Yeah, yeah, yeah, yeah) 
 お前もやるんだ
You’ll make war too (Yeah, yeah, yeah, yeah) 
 この腐った関係を続けるんだよ


 

記事上部でも注意書きしましたけど、

 在りし日のメタルコアって感じで、歌詞がめちゃ暴力的、めちゃ卑俗、皮肉の表現もいまじゃ笑えない人が多いんじゃないかと思います。今の音楽シーンではこんなことできませんね。ここでも書いておきますが、おれはそれらの行為を現実の人間に行使することを肯定しません。強く非難します。

From First To Lastとシングル『Make War』

 ぶっちゃけおれはこの『Make War』とその次のシングル『Surrender』でこのバンドを知りました。あのSkrillexがボーカルやってるなんて前情報はまったく持ってませんでした。それを知るのは俺がこの曲にハマってからずっと後です。SkrillexことSonny Mooreは、2007年にソロプロジェクト(のちのSkrillex)を開始するまでは、このFrom First To Lastというポスト・ハードコアバンドでボーカルをやっていました。それからソロプロジェクトが加速し、EDM界の神として君臨、今や彼の名を知らない音楽ファンはいないってほどになっています。彼の絶頂期、ダブステップ界はほんとに大変なことになってました。
 それから、2017年になってどういう風の吹き回しか、Mooreがバンドに復帰した。そして、この『Make War』を再結成後初の作品としてリリースしました。Artistにとっては、作品のインスピレーションはどこからやってくるかわからない。他のことをやってる間に、まったく別の音楽に目覚めることもある。もちろん、原点回帰するように、かつての古巣でかつての音楽スタイルに活路を見出すこともある。いろんな場所に行って、いろんな人に出会って、いろんな文化や作品を取り込むうちに、作品の方向性が変わったり、新しいことを始めたりする。これはあらゆるArtistに共通することです。特にMooreはポスコアやってるときに他のジャンルに目覚めてバンドから脱退して、EDMやって、そのEDMも彼の作風はアルバムを出すごとに鮮やかに変わっている。で、それが落ち着いたと思ったら、今度はまたポスコアバンドに復帰し、エグい曲を出す。まあ、彼は特にそういう人なんだと思います笑 2017年1月、この『Make War』がリリースされた当初、MooreはこのFrom First To Lastでどんどんいろんな曲を出していくよって積極的な活動意欲を示していました。それから同年12月、新曲『Surrender』を音楽祭で披露し、その後2018年7月に同曲を正式にリリースします。ですが、それからバンドの活動は息をひそめてしまいます。『Make War』でこのバンドを知ったおれはもう、かんっぜんに生殺し状態。『Make War』とそれに続く『Surrender』は、この記事後半で気持ち悪い自分語りをしてしまうくらい、おれを鷲づかみにした曲で、次の楽曲が発表されるのをイヌが餌を求めるように舌を出してずっと待ってました。しかし、時間は過ぎ……。今では、Mooreがバンドにいるのかどうかも定かじゃない。散発的にSNSは更新されますが、海外のファンの間でも、次のアルバム発表はもうないだろう、と悲観の声が広がっています。最近、2023年には、MooreはやはりSkrillexの方で新アルバムを立て続けに発表。コラボもたくさんしてます。まあでも、こんなことは音楽ファンにとっては日常茶飯事です。このまま何もないままバンドは解散してしまうのかもしれないし、またまたMooreの気が変わって、このバンドに復帰するかもしれない。もうほとんどの人は諦めているだろうけど、おれは辛抱強く待ちたいと思います。待ってる、ほんとに。
 
 以下、楽曲『Make War』に関して、おれの自分語りが始まります。寛容な方は付き合っていただければうれしいです。

そこにある鮮烈な激情がおれを掴んで放さなかった。

 この曲の「I-俺」と「You-お前」はとにかく憎み合って、相手のことを見失って、それでも執着から逃れられず、傷つけあいながら日々を共に生きようとする。こんな感じの生々しい恋愛関係はまず今許されませんね。ただ、傷つかない恋愛を求めるばかりに、何もできなくなってしまっている青少年が欲求不満を蓄積させています。今そういう青少年はマジョリティになってしまっています。ただ、こういうマジョリティの社会問題が叫ばれるとき、必ず見えなくなっている存在があります。今現在、この曲でうたわれるようなエグい恋愛してるやつらは決して少なくないんです。その子らはだいたい20歳前後、特に10代後半が多いですね。そして必ず、何かしらの問題を抱えてる。マジョリティの抱える問題とはまた別の問題をです。彼ら彼女らの多くは、20代後半、はたまた30代になっても、その若い頃の呪縛を引きずっているのがほとんどです。まあ、人生ってそんなもんなんでしょうけど。ただ、社会が求める秩序から零れ落ち、自分たちだけの閉じた世界で傷つけあってる、そんな存在。そんな存在はいつの時代においても、いなくなることはありません。今回訳した『Make War』は、そのような世界に閉ざされた男女の、愛の物語です。

この曲が出たときおれは10代後半でした。

 おれはこの曲を聴くたびに、盲目的に他人に執着して、ためらうことなく人を傷つけていたその頃の自分を思い出します。その頃おれの世界はどうしようもなく閉ざされたものでした。傷つけた人たちは、たいていおれが心から謝りたいと思ったときには既に遠くに行ってしまっていました。あの人たちはおれとは二度と会いたいと思わない。だから、謝る機会は一生失われたままになるでしょうね。それが、人に傷を背負わせた人間が背負うことになる業ってやつですね、きっと。いや、むしろおれが向こうに謝りたいってのは、自分のためでしかないってのはわかってます。すっきりしたいってだけですね。それでチャラにしてほしい。業を背中から降ろしたい。まじ独りよがりなところはまったく変わっていません。ほんとどうしようもない人間ですね。いやー、気持ち悪い自分語りをしてしまいましたー……。どうか許して。ほんとこの曲を聴くとあの頃の記憶が奔流のように全身を駆け巡るんです。自分の世界の外を無視していた頃のことが。まあ、以前The Devil Wears Prada『Chemical』を訳したときのように、自分のどうしようもない感情を整理するために、この曲の翻訳を始めたってところはあります。

歌詞について簡単に。"love gore"って何?

 love gore 。おれ、love goreなんてこんな残酷で素敵なことば見たことありません。おれは「内臓がはみ出た愛」なんてくどくど訳しましたがlove goreはlove goreです。カタカナでラヴゴアでもいいかなとも思ったけど、日本語でくどくど形容したのはおれのおせっかいですね。goreってことばはグロみたいなもんです。ゴア描写とか、ゴア映画とか言ったりしますが、人殺す描写とか、スプラッターとか、とにかくグロい描写を指します。で、loveとそのgoreをくっつける。お前の中にあんのはlove gorelove goreということばに関しては、想像がいろいろはかどりますね。殺意や血や憎悪や暴力を孕んだ愛の塊。この血に濡れた愛を見ると、向こうが誰だかわからなくなって怖くなりさえする。でも、喧嘩してるときの自分とか割かしいつもこんな感じですわ。だから、このlove goreということばは、おれの中に残り続けるんでしょうね。そのときの激情がすべて詰まったことばなんです。

 あまりにも思い入れが強い曲なので、何を語ろうにも自分の話をしてしまいます笑 これはダメだ!

最後に。この曲のストーリーについて簡単に。

 この曲にはストーリーがあります。
 一番では、男の中では悪名高い「女性-You」と「I-俺」が付き合うところから始まります。まあ嫌なところもあるし、金もないけど、なんとかやってけるような気がする。しかし激しい性欲を覚えたとき、「俺」は相手を見失います。
 サビの”Woman,I make war to you. ”これはは何をしようとしてるんでしょうね。いろいろ含蓄があります。おれも二つの意味にとれるように訳しました。一つは普通に喧嘩。二つ目はセックス。こういう一つの文章に多面的な意味を持たせられるかどうかも、Artistの文才の為せる技です。すごい。”God damn, is this routine to you?” これはなんか、相手の求めるセックスが過激すぎて引いてるって感じがします。喧嘩の解釈でいけば、単に相手の行き過ぎた行動とか言動にキレてる。
 
 二番は酷くなりますねー。二人の関係が悪い意味で深まって、ネガティブなマンネリの悪循環に囚われてる感じ。ことばもひどい。嫌なところが見えすぎて、不満をぶちまけまくってる。いろんな暴言を吐きます。で、ここヤバイ暴言。嫌な人は6行飛ばしてください。”I don't dig up the living corpses of scene whore kids ;I just court them.” これは、そのまま訳せば、「俺は売女の生きた屍みたいな子どもを掘り出すことはしない;俺はそいつらに言い寄るだけだ」。これは相手の連れてくる子どもを認知するかどうか。というニュアンスを受け取ったのでおれはそう訳しました。あまりにひどいことばなので繰り返し書くことはしません。もうどろっどろの関係ですよね。で、また同じサビを繰り返す。ですがここでは、喧嘩にしても、セックスにしても、これまでの文脈から、より暴力的な意味が深まって重くなっている。さらに嫌な感じがサビに付加されました。

 ブリッジに関しては、love goreに触れたところで書きました。Who was that inside you that made me feel so gone? 相手がもはやなんなのかわかんなくなって、相手の中には自分を狂わせる他人がいるんだ、と相手が見えなくなってる。From your smile to your core, all I see is love gore. 相手の笑顔が本物かどうかわからない。その笑顔の裏には、むごたらしい愛の塊があるだけだ。もう相手の奥には、偽物の愛が巣くっているだけなのを幻視してしまう。
 で、ラスサビ。狂った先に、全てなかったことにする。結局make warしようぜ。このグロテスクな関係をいつまでも続けてやろうって感じ。お前もノってこいよ。お前もこの戦争続けるんだよ。挑発する。この腐った関係を続けていくんだ。
 蛇足になりますが。飛躍した解釈ですけど、別の意味もあるのかもしれないなと思ったり。ラストのYou’ll make war too. (Yeah, yeah, yeah, yeah)のリフレインは、なんか執拗ですよね。わかりやすい訳だと、「お前もまた戦争することになる」。いや、ここでのtooはどうせって訳を付け加えたほうが自然かな。「お前もまたどうせ戦争することになる」。このことばを繰り返すってのはなんだかむなしい感じもします。「お前もどうせ俺と一緒にやりあうんだよ」。「お前もどうせ俺と一緒にやりあうんだよ」。「お前もどうせ俺と一緒にやりあうんだよ」。呪詛みたいですけど、なんだか、相手が遠ざかっていってるようにも感じられる。やりあってくれよ! って。もしかしたら、ここでの「You」は、「俺」の誘いや喧嘩にノリ気じゃなくなっているのかも? 
 いやいや、やっぱりこれはないかな笑 コーラスのYeah, yeah, yeah, yeahもそうだし、やっぱり開き直って煽ってるだけですね。開き直って、お前には俺しかいないんだよ。って遠回しに言っているって感じ。どうしようもない関係を続けていくしかない。その諦めと受け取ったほうが自然ですね。以上、蛇足でした

 だいたいこんな感じのストーリーラインですかね。やっぱめっちゃええわ。最高。ストーリーの移り変わりがきれいに辿れて、救いようがない終わりが続いていってしまう。いや、救いようがなく見えてしまうのは、外から見ているからなだけなんでしょうね、きっと。本人たちの間では、盲目が許す暴力的な関係は、愛の姿をとっている。たとえときにそれが不安定になって、何が何だかわからなくなったとしても。
 やはりmake warということばはほんとうにいろんなものを含蓄しているのがわかりますね。
 
 繰り返しになりますが、おれはパートナーや友人やその他、他人などへの暴力や暴言、女性蔑視を肯定しません。これらの行為は許されるものではありません。

 しかしながら、あくまで作品を楽しむときは、それを頭の中で味わうことは許されるべきです。それに救われるのは、マジョリティの見えないところで、傷つきながら苦痛にあえいでいる人々です。

 以上!
 読んでくださったすべての方々、ほんとうにありがとう。
 翻訳いいなって思っていただいた方、ぜひハートマークをぽちっとやっていただければと思います🙇 この記事を楽しんでいただけた方も、ぽちっとよろしくお願いします🙇
 コメントもぜひぜひよろしくです!!みなさんとお話できる機会を待ってます!
 そして、これからも翻訳記事をたくさん書いていくので、ぜひフォローしていただければと思います!
 もしかしたら、この次のシングル『Surrender』も訳すかもしれません。
 いやいや、I See Starsの翻訳記事も進めないと……!
 ま、とりまこれからもよろしくお願いします。
 ではでは!


追記postscript。コメントへの返信。

 24/06/14
 Seigaさん、コメントと評価ほんとにありがとうございます! 以下、コメントに対する返信になります。
 まず先に言っておくと、Seigaさんに100%同意します。まったくおっしゃる通りで、Seigaさんの着目した点は、まさにこの曲の本質です。改めてその慧眼に感服します。

ハードコア・パンクのような歯に衣着せない、かつ社会的なメッセージとして捉えられやすい音楽的表現方法、に乗せる歌詞の内容を、あくまでいち個人間の関係として、けっして外野のせいにせず書き切っている潔さ、ある種の格好良さ……

みかづき星雅 / Seigaさんのコメントより

 Seigaさんのいう通り、安易に社会性に回収されない生々しい現実をうたったこの歌詞が、この曲の切実性、迫真性をより深めています。
 その出自が反体制的な側面を強く押し出して発展してきた音楽表現において、パンク・ロック=反体制というイメージは常に強化されてきました。そして、その社会性を前面に出す動きは現在、メジャーなポップソングでもよく見られます。たしかに、それらの表現が多くの人々をエンパワーメントしてきたという大きい事実はあります。しかしながら、世間で耳目を集める社会問題は無限にあるわけじゃない。やがて社会性のある歌詞を書こうとするとテーマが被ってきちゃうことになる。歌詞はより抽象的になり、逆に人々が直面する切実な問題から遠ざかることになる。現在のメインストリームではこのような皮肉な現象が横行していると感じます。
 言われてみるとたしかに、この歌詞からは、そんな「におい」がまったくせず、しかも「におわせる」こともしない。ただ、二人の人間の生々しい現実が描かれている。ただ目の前にある現実を照射しただけ。そこには美学すら感じられます。この時代にあって、そしてこのジャンルにあって、ものすごく難しい表現をこの曲は達成していると言えますね。
 あ、いや、でも今ちょっと嫌なものが頭をよぎりました。サビのWoman, I make war to you.なんですけど、これだけ読むと、一般的な男女間の対立に置き換えられるかも……。フェミニズムへの煽りとか……。それに付随して起こっている男女間の対立……。訳しているときはそんなこと思いませんでしたけど、そう読み取れないことも……いや、うん、ないですね。ないです。やめましょう。この話はなかったことに。

似たようにブラックジョークや下ネタを衒いなく出しているアーティストがいくつか浮かんで歌詞を読み返したのですが、歌詞の中で社会や集団に共通した問題として矛先を向けているような描写のものがいくつかありました。けれどこの曲は、二者間の歪んだ関係を、あくまで二者間の間で閉じたものとして書き切っていて、それを他の誰かのせいにしていないところにある種の高潔さを幻視しました。

みかづき星雅 / Seigaさんのコメントより

 危ないことは言ってんだけど、どうしても社会性に回収されてしまうアーティスト。いっぱいいますね。HipHopを例に出すとわかりやすいですね。HipHopの世界は完全にそうなっていて、歌詞に政治的メッセージを込めざるを得なくなっています。まあHipHopの場合は、その出自からして政治とは切り離せないので、それはそれで素晴らしいジャンルなんですけども。いまやHipHopはアングラから飛び出して、音楽シーンの前衛として世界的に注目されています。そして、世界的にHipHopの社会性が大きく評価される中で、さっき言ったようにメインストリームの多くのアーティストがその要素を取り入れています。HipHopに接近したメインストリームの曲は今次々に発表されています。そこでリリースされていく作品は、否応なくその政治的メッセージを背負わせられます。社会性を乗せる方がクールだし、人口に膾炙するという認識も広まった。これは良いところでもあり、悪いところでもある。良いところのほうが多いことは確かでしょう。リーチ力もある。そこでの歌詞では、「自分の問題」をうたったとしても、それがどうしても「社会の問題」に敷衍されてしまう。リスナーはそれを「深い」といってありがたがるんですが、おれは何かを見落としているのではないかと思いますね。政治化したがために、現実をただ現実として描けなくなってしまったというのは、ものすごく皮肉な話だと思います。ていうか、今の人たちの振る舞いというのは、一事が万事そのようなもので、人々は政治(や社会)を語ることなしに現実を語れなくなっている。現実の輪郭が社会によって規定されてしまっているから、ダイレクトに現実を直視できない。
 対して、この『Make War』は、おっしゃっていただいた通りあくまでも2人の関係のいざこざの話でしかない。ここでの「You」は不特定多数の「あなたたち」ではなく、あくまで「お前」でしかないIとYouは閉じた関係で、二人の体験は二人の体験でしかなく、その閉じた関係は社会性に敷衍できない。ほんとうにおっしゃる通りです。ある種ものすごくピュアな音楽と言えます。だからこそ、ここでうたわれる激情本物だし、切実迫真なんだと思います。ブリッジパートの激情スクリームが、真に迫ってリスナーを圧倒してくるのもそう。「お前」への怒りの吐露が、リスナーの心臓を鷲掴みにして曲の中に引きずり込んでくる。社会のことが頭から締め出されて、生々しい二人の世界を至近距離で見せつけられる。現代の抽象性が高くなった音楽シーンに対していえば、圧倒的リアリズム。こういった曲を見つけるのは今やむずかしいですね。そして、なかったことにされるのも時間の問題になってきたんじゃないかとも思います。しかしながら、こんな時代だからこそ、非難welcome炎上welcomeでこのような曲を書いていくのがハードロックの醍醐味でもあると思ったりもします。そして、安易に社会性に回収されない、ピュアな激情をうたう曲が、社会にとって必要だということは、本編でも書いた通りずっと変わらないでしょう。(もしかしたら、SkrillexのMooreは、そのような状況に嫌気が差して、当時EDMからこのハードコアに回帰してバンドに復帰したのかもしれない。意識的か無意識的かはわからないけど。いや、これは邪推ですね。)
 ただ、これはどうしようもない時代の流れなのだから、これからそんな曲が生まれなくても、今ある曲を大事にしなくちゃいけないというのは思いました。新しいものだけを追いかけるのではなく、過去にしかなかったスタイルも振り返る。楽曲は使い捨てじゃないんだし、ちゃんと文化に蓄積されている。だから、大切な曲は心にとどめておけばまた聴くときがくる。そんな気がします。
 むしろ、今の時代にあってこういった曲はまた別の輝き方をするんだろうと思いました。それは個人の中で。
 
 ほんとに、Seigaさんのくださった視点のおかげで、見落としそうになっていた音楽の本質についてまた考えさせられました! ほんとうにありがたいです🙇
 
 さて、コメントにマジで共感したのでここまで駄文を重ねてしまいました。改めてありがとうございました。これからもよろしくお願いします🙇

 以上です!


 24/6/15
 いや、以上! じゃありませんでした。
 あえて目を瞑ったところで、やはり少し触れなければならないところがあります。コメントをいただいて気づいたところです。コーラス(サビ)の"Woman, I make war to you."。なぜ、コーラスで毎回Womanと呼びかけるのか。ただ、これはそんなむずかしい話ではありません。おれはそもそも目をつむらなくてもよかった。
この歌詞は二人の関係性に閉じていて、二人の問題は社会の問題として回収されていないのがすごいという視点をコメントでいただいて、おれは強く賛同しました。それがこの曲の迫力の正体だ、と確信しました。ただ、その後おれは、一抹の不安をあえて見て見ぬふりをしました。このコーラスの部分、Woman, I make war to you.。ここはもしかしたら、女性一般に向けた宣戦布告でもあるのかもしれない、という可能性がでてきて、結局社会性を帯びてるんじゃないのかというおそれがでてきた。結局ミソジニーのメッセージじゃないか、と……。

 いや、そうなんですよ。
 ミソジニーなんです。
 しかし、二人の関係に閉じているミソジニーなんです。


 ていうか、この曲は最初っから最後までミソジニーなんです、そもそも。で、だからこそ閉じてるんです。おれは自分でこの記事でこの曲は危険だと注釈や警告をつけたことを忘れていました。そもそもこの曲は、ヤバい曲だった。だから、おれはこの曲を訳すときには、その曲の中に入るために、暴力的で差別的な倫理観に自分をさらしました。I=俺に成り切りました。そうじゃないと、歌い手に同化できずに、意味を取り違えてしまうからです。ただ、歌詞を訳し終えたら、おれはもとの倫理観の中にカムバックしました。つまり、そのせいで認識がねじれてしまってたんです。
 
 以下、なぜI=俺はコーラスでWomanと呼びかけるのか、歌詞解釈の考察をします。I=俺の思考回路を辿っていくので、差別的な倫理観に基づいた表現を乱発します。各自、自衛をお願いします。不快になる前に記事を閉じてください。

 先に言った通り、むずかしい話じゃありません。おれはWoman淑女さんと訳しました。これは、歌い手=I=俺が皮肉にパートナーを挑発している情景が見えたからです。で、それで正しかった。何も女性一般へのメッセージとかではなかった。I=俺がミソジニーであることは確実です。むしろ、それはのっけから後ろまでそうで、もう周知の事実。で、その差別的な感情が誰に向いているのか。果たして二人の関係に閉じているのかどうか。ここで重要なのはそこです。
 ここの前の、プレコーラス(サビ前)で、

Who was that inside you 
 お前の中に誰がいるんだ?  
That made me feel so cock strong? 
 俺のをこんなに硬くさせんのは誰だ? 

このような下品な歌詞があります。
「おれのアソコが硬くなる。お前の中の誰がそうさせてるんだ?」。なんか変な歌詞ですよね。「お前が俺を硬くさせる」ではなく、「お前の中の誰かが俺を硬くさせてる」。これは、I=俺ミソジニーだからこそ言える謎発言です。つまり、お前の中の"Woman"が俺を硬くさせてるんです。そこでは、パートナーはもはやYouではなく、Womanという属性に発情している。この曲は相手を見失うことをうたう曲でもあります。そもそもここから、相手を見失っていた。
 
プレコーラス(サビ前)はこう続く、

I wish the truth could do (To you)
 真実ってやつがお前を苦しめてくれたらいいのにな
What your Snapchat put me through 
 お前のスナップチャットが俺を苦しめたように

 この前の歌詞は、「お前の中の誰が俺を硬くさせるんだ?」でした。なんで、硬くなったのか。それはパートナーが送ったスナップチャットのせいです。なぜ? これはスナップチャットというSNSのシステムと深い関わりが……。説明します。
 スナップチャットは英語圏、特にアメリカの若い世代の間で普及しているSNSサービスです。フレンド個人やフレンド全員に対してスナップ(写真や動画)を送ったり、チャットしたりできるサービスです。で、このサービスがおもしろいのは、送ったスナップが10秒以内に削除されて見れなくなってしまうところ。送信者は、スナップを投稿するときに、スナップが削除されるまでの時間を設定します。1〜10秒の間、あるいは無制限。秒数指定で投稿されたスナップは投稿から10秒以内で削除されます。無制限が指定された投稿は、受信者が開いたスナップのスレッドを閉じたら、そこで削除されます(つまり、一回は見れるけど、閲覧後に削除される)。二度とみれません。チャットも同じ仕組みです。チャットは閲覧後に削除されるパターンと、24時間後に自動で削除されるパターンの2つを選べます。おもしろいですよね。(日本では流行ってないけど、こういうマイナーSNSは往々にして10代とかがよくない使い方をするんです。)
 スナップ写真とかスナップショットとかって日本語でも言いますね。ささっと撮った写真のこと。で、スナップチャットはとにかく雑に撮ったとりとめのない写真や動画を気軽に投稿できる。どうせすぐ消えるから。で、すぐ消えるからどうせ反応しなくてもいい。だから、利用者はリアクションや映える投稿に身をやつさずにすむ。気楽なサービスとして普及しています。そして、火遊びができる。
 送信者は、10秒以内にスナップが消えるから、相手が見ているのか見ていないのかもわからない、そんなドキドキも味わえる。ここで、若い子たちは危ない遊びをしてしまう。つまり、すぐ削除されるから、わいせつな画像や動画を投稿してスリルを味わうことができる。恋人間でやってみるなら、いい遊びだと思う。すごく楽しそう。で、この歌詞の2人もこれやってんです。
 
で、歌詞に戻ります。

I wish the truth could do (To you)
 真実ってやつがお前を苦しめてくれたらいいのにな
What your Snapchat put me through 
 お前のスナップチャットが俺を苦しめたように

 火遊びで相手から送られてきたわいせつな投稿が、I=俺を欲情させ、生殺し状態になっていることが想像できます。投稿はすぐ消えてしまうから、見ている側は歯がゆい。思わせぶりなことしやがって。欲情に急かされるイライラ。「お前のスナップチャットが俺を苦しめたように、真実がお前を苦しめられたらいいのに」。で、俺はその「真実」をパートナーに味わわせようとするんです。でも、ここでいう真実ってなんでしょう? それが明らかになるのがコーラス(サビ)。
 Woman, I make war to you.
 「俺を欲情させたのは、お前(パートナー)ではなくて、その中にいる下品なWomanなんだよ。だから、Woman, 俺の相手しやがれ」。これが真実です。だから、このI make war to youのyouは厳密にはパートナーのことを指してはいません。あくまでパートナーの中のWomanに語りかけてます。で、
If you give a fuck enough, you'll make war too
 
 その気になるってんなら、お前も参戦だな
 お前Womanがその気になったら、お前と同じ土俵に上がる。真実に直面する。お前男性性とぶつかることになるんだよ。と、まあこんな感じ。
 で、女性を形容する英単語はWoman以外にもあります。ひどいことばもいっぱいね。2番にも代表格が出てきます。ただ、コーラスでは、皮肉をこめてWomanと呼んだのでしょう。の目の前のYouを皮肉るために。性的な欲情の対象に、あえて性的な要素を抜いて呼びかける。「淑女さん」という訳も、その皮肉を意識しました。「淫らな淑女さん」、みたいなニュアンスだと思います。最低ですね。ほんと。
 はいっと、Womanの謎が解けましたね。ここまで、最低な文章を書きまくりました、ほんとに。すいませんでした。まとめるので、もうちょっとだけ最低な文章は続きます。あと少し。

 繰り返しますが、この歌詞内でうたわれているような女性差別を、おれは肯定しません。女性を苦しめる偏見は総じて改められるべきだと断言します。
 
 まとめます。なぜ、コーラスで、「Woman」と呼びかけるのか。
 
まず、俺は「お前の中の誰か」に欲情した。 お前はスナップチャットで俺の欲望をもてあそんでいた。だから、お前の知らない「真実」がお前に報いてくれることを願う。「真実」、俺はお前じゃなく、「お前の中のWoman」にそそられてただけなんだよ。だから、「Woman」、俺の相手をしろ。お前にも俺の気持ちがわかるなら、お前も俺と同じ土俵に上がるんだ。……で、make warの結果、めちゃくちゃになる。「相手の中のWoman」の狂気が露わになって戸惑う。
 こんな感じですね。
 だから、この「Woman」は女性一般へ向けられた名詞ではなく、あくまで「Youの中の女性性」を指している。よって、このコーラスもまた、閉じた二人の関係のことを描写しているに過ぎない。ましてや、女性一般をけなそうとしているわけではない。そのようなメッセージはない。
 さっきも言った通り、この歌詞のはのっけから後ろまでミソジニー炸裂です。ただ、それは何も女性全体を攻撃しようとかそういう意図はない。というか、この歌詞の「俺」にはそういうことを意図するだけの学は持ち合わせていない。ただ、見えているのはYou=相手だけ。でも、この歌詞のはミソジニーを通してしかYouを見れていない。そういう人なんです。だから、この歌詞はどこまでいっても閉じたままです。社会性に開かれているわけではありませんでした。閉じたまま。むしろ、社会性への入口を見つけたと思って開けてみたら、さらに閉ざされた地下に落とされた。さて、考察はここらへんにしときましょう。じゃないと、今度はおれが、「俺」のつくりだした深淵から出られなくなってしまいそうです。あれ、カフカでも読んでんのかおれ?

 こうやって考察してみて思うのですが、この「俺」という存在、これがほんとうの盲目ですね。ほんとに相手のことが何も見えていない。そして、盲目が故に、暗い心の森をどんどん分け入っていって、さらに相手のことがわからなくなる。だから結局、表面的には同じことを繰り返すしかない。それが唯一の処世術なんです、きっと。
 
 おれはものすごく疲れました笑

 繰り返しますが、この歌詞内でうたわれているような女性差別や暴力を、おれは決して肯定しません。女性を苦しめる偏見は総じて改められるべきだと断言します。
 ただ、このような記事を書いていること自体が差別への加担だと言われそうですが、それは違うと断言できます。そういうのは勘弁してください。

 
 記事は以上です!
 ありがとうございました!


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