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日常を3日間タイムループした1ヶ月後、86歳の推しができた(後日談)


先日、私は神楽坂でタイムループした。


日常を3日間繰り返すと、レモンキャンディが2つになったり、74歳に娘が2人もできたりする。とてもとても、楽しかったので、その時のことを、noteに書いた。


たくさんの人に読んでいただいた。滞在していたホテルのスタッフさんやオーナーさんも、読んでくださった。そして、うれしいことに「うちで講演をしてくれませんか」とご依頼いただいた。ちょうど同時期に、そっち方面でのお仕事も重なったので、もう一度、神楽坂に訪れることになった。


あのとき出会ったみなさん、元気かな。
せっかくだから、また会いたいな。


今日は、1ヶ月ほど前に書いた「日常を3日間タイムループさせたら、74歳に娘ができた」の後日談を、ここに残します。


たまごドッグがループした


10月2日。
私は「UNPLAN神楽坂」というところにいた。前回、タイムループ中に身体を休めていたホテルだ。(なんかワードがSFだな) 

そのホテル主催で呼んでもらった講演には、ならではのユニークな参加チケットがあった。「宿泊付きチケット」。来た方の半分以上が、宿泊付きで参加してくださった。もともと、今業界として大変なホテルを応援したかったので、とってもうれしかった。(たぶん、UNPLANさんがレポート公開されるかも。されたらリンクします)

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翌朝9時。
私は、タイムループの朝を過ごした「喫茶フォンテーヌ」へ向かった。たまごドッグとホットコーヒー、そしてレモンキャンディとおじさんに会いに。

▼前回の写真

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「たまごドッグと、ホットコーヒーください。」

あのときと同じ注文。まもなく、テーブルに、たまごドッグとコーヒーが運ばれる。きたきた。これこれ。


そして、
テーブルに、たまごドッグとコーヒーが運ばれる。


そしてそして、
テーブルに、たまごドッグとコーヒーが運ばれる。


そしてそしてそして、
テーブルに、たまごドッグとコーヒーが運ばれる。



ループしている。前はひとつだったのに。
たまごドッグ、いっぱい。おもしろい。

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実は、宿泊付きチケットで参加された方に、「明日起きれた人は、一緒にモーニング行きましょう」と言っていた。(テーブル分けて、座ったよ)そしたら全員、「たまごドッグとホットコーヒー」注文してた。だから、いっぱい来た。


たった1ヶ月前なのに、すでに懐かしい味。でも、みんなで食べるたまごドッグは新しく、とってもおいしかった。朝イチの「喫茶フォンテーヌ」が満席って、なかなかなさそう。ちょっとびっくりさせちゃったかなあ。


残念ながら、おじさんはご用事でいなかった。だけど、前回最終日だけお会いしたおばさんがいた。あと、レジの横にレモンキャンディがなかった。いや、ほんとはあったけど、一緒に行ったみなさんに譲ったら、なくなっちゃった。笑 

でもいい。その方がずっとずっといい。
私はオレンジキャンディをひとつ、いただいた。(撮るの忘れた)



和田写真館の路地で、運命の再会


オレンジキャンディを口の中で転がしながら、神楽坂を下った。次は写真館の和田さんがいる路地へ。1ヶ月経つけど、どうだろう。やっぱり座ってるのかな。


▼1ヶ月前の写真

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歩いていくと、「和田写真館」の看板が見えてきた。どきどきしながら、路地を覗く。座っていてくれ、そして、元気でいてくれ……!!!


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座ってない!!!(笑)
でも、いたーーー!ヤッターーー!!

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へへ、和田さんだ。秋だね、コート、似合ってる。こっち見てるけど、これたぶん、目は合ってないの。和田さんを目視できた瞬間、たまごドッグ終わりで一緒にいらしたみなさんにも、何故か小さく拍手が起きていた。

早速、話しかけに行こうかと思ったけど、ホテルのチェックアウトが迫っていたので、一旦戻ることに。そして前回の最終日に撮った、和田さんの写真を現像してから、またすぐ来ることにした。


▼前回撮った写真

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「後で来るって、声かけなくて大丈夫ですかね?」
一緒に来てくれた人が言った。

「うん。大丈夫。絶対いるんです」
ほんとに絶対いる気がした。



そして、くるっと回れ右して、ホテルの方へ少し歩いたその瞬間、可愛いお召し物の小柄な女性とすれ違う。


「あっ、あれ??」

まさか!
順子さんだ!!!


「ビューティサロン・ジュン」の順子さん。74歳の美容師さん。タイムループ中、一日の終わりにシャンプーをしてもらい、最終日には食事を共にして、「娘ができちゃったわ」と言ってくれた、第ニのおかあさんだ。


▼こちらが順子さん。ほんと可愛いな……

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「順子さん!!」

追いかけて駆け寄り、声をかける。急に呼び止められて、びっくりした顔の順子さん。私はマスクを少しズラして、自分の顔を見せた。


「しまだあやです!シャンプーしてもらった!」


順子さんはすぐに、笑顔になった。
「まあ、来てたの!? わー、元気??」
「はい、元気です!今からお店ですか?」
「そうなの。あら、今日はお友だちいっぱいね?」
「はい!一緒に朝ごはん食べて、散歩してて」
「あなたも神楽坂、すっかり詳しいものね」
「まだまだですよー」


少し離れたところで待ってくれている、みなさんを見て、言った。

「あのね、みんなに順子さんのこと話したら、すごく素敵って。みんな、順子さんにシャンプーされてみたいって。私、今夜は行けないんだけど、もしかしたら、誰かが行くかも」
「あらーうれしい!いつでもいらして」



順子さんのお店、時間的に開いてなくて、会えないかもと思っていたから、すごくすごくうれしかった。そうか、飯田橋から毎日ここ歩いて来てるって言ってたな。

それにしても、びっくりした。みなさんも「すごい偶然!」「ほんとお綺麗な方ですね……!」と言っていた。でしょでしょ。自慢のおかあさんよ。




北村写真機店で、現像する


「和田さんの写真、現像できるお店、近くにないかな…」

ホテルのロビーで調べてると、「いい現像屋さん、知ってますよ!」と、講演に来てた男の子が教えてくれた。彼は日頃、劇団で役者をしながら、趣味でフィルムカメラをしてるらしい。

教えてくれたのは、新宿にある「北村写真機店」。紙の質感が選べたり、色味などの調整をとても丁寧にしてくれる、とのこと。「僕も現像したいフィルムがあるんで、良かったら一緒に行きませんか?」とお誘いいただき、ついていくことにした。


お店に到着。機械で、印刷する写真を選ぶ。画面にいっぱい和田さんが並んでる。おもしろいなあ。

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ちっちゃい正方形、おっきいポスター。光ってないざらざらの紙、ガラスみたいなちゅるちゅるの紙。木製のパネル張りとか、カレンダーも選べた。

「和田さんのカレンダーはおもろい。……いや、いらんか」
「和田さん、トートバックとかマグカップにもなるのか!!……いや、いらんか」

興奮して冷静になる、をループする。見て、これもめちゃくちゃおもしろい。……いや、いらんか。

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結局、2Lサイズで、高級感のあるマット紙にした。仕上がり、めちゃくちゃ良かった。なんていうか、その時のにおいが出てる感じ。

そんな和田さんの写真を目の前に置き、休憩がてらスタバを飲む。和田さんは健在だ。健在だけど、こうしてると、なんとも言えない不思議な気持ちになってくる。愛しさと切なさと、儚さがある。心強さはない。

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「2枚あるのがいいよ」


神楽坂に戻り、いよいよ和田さんとの再会。現像した写真を渡しにいく。「絶対いる」と言いながら、どっか行っちゃってたらどうしよ……という心配をよそに、ちゃんと和田さんは、あの路地に、いた。

「和田さん、こんにちは!」
「はい、こんにちは」

「しまだあやです。」
「しまださん?」

「あの、1ヶ月ほど前にここに来て…覚えていますか?」
「覚えてない」


いや、大丈夫だ、予想の範囲内だ。


「前来たときにね、和田さんの写真、中で撮らせてもらったんです」
「俺の写真を撮ったの?」
「はい。でね、今日はその写真をプレゼントしに来ました!見たら、思い出すかも」


そう言って、カバンの中から写真を取り出し、和田さんに渡した。

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「これです、……ど、どうですか!」

「へえー!よく撮れてるね。これは確かに、俺だな。」



いやーーーーー、まあね!80年以上も生きてらっしゃるから。私は、3万日中の3日間だから。私のことなんて、忘れてても仕方ない。写真もらってくれたら、それだけでしあわせ、大丈夫!

……と思っていたら、和田さんはその写真をじーっと眺めて、小さく何度もうなずきだした。


「うん、うん……うん。思い出してきた。分かった。しまださん。ね。」

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和田さんは笑顔になり、置いてあった帽子を触って、「これだね。これかぶって撮りましょうって、言ったかな」と言った。

「そうです…!それで2回シャッター切ったんです。こっちが1枚目で、こっちが2枚目で」
「うん、よく撮れてるよ。2枚目なんて、なかなかうまい」
「これ、和田さんにアドバイスしてもらいましたよ」
「ん、そうかそうか」


和田さんは2枚並べて、またじっくり見た。そしてもう一度、「思い出してきた」と言った。

「スリッパね。スリッパが写ってるな。それでここのところを切るとか、言ったかな?」
「そうですそうです!うれしい!」
「うん。ほんとによく撮れてる。うれしいね」


記憶なんてあやふやでいい。
今、和田さんと私が「うれしい」と言っている。

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「郵送も考えたんです。でも、会って渡したくて。和田さんに会いたいなって。お元気してました?」
「ううん、ダメ。」
「ダメ?!!!!笑」


和田さんは腰に手を当てながら言った。
「腰がダメ。痛い。あと目、ね。言ったかな? 実は左目がね、なんにも見えない。でも右は、1.2あるの」

前会ったとき、目線が合いにくいし、良くないんだろうなと思ってたけど、そうだったか。左目だけ、見えないのか。

ん?ってことは…「じゃあ和田さん、カメラの画面覗くとき、片目つむらなくてもいいんだ、ちょうどいいな」

言ってすぐ、失礼なこと言ってしまった、と思った。(私、こういうところある……)けれど、和田さんは即答した。

「うん!そうなんだよ、ちょうどいいんだよ!便利なことも、あるんだよ」


それから、30分ほど世間話をした。ちなみに、一緒に来てくださったみなさんに、私が前回聞いた話を何回も話していた。やっぱ、和田さんがタイムループしてるな。

そして最後に、ふたりで記念撮影することにした。


「どこで撮るかな、外がいいかな」
「いつも座ってはるベンチに、一緒に座りたいです」
「それがいい。ちょっと待ってね、スリッパ履き替える」

靴に……かと思ったら、和田さんは別のスリッパに履き替えた。
「これだ、頂いた写真の時とおんなじスリッパ。写真も持とう」
「どっち、持ちます?」
そう聞くと、「2枚」と言った。


「こういうのはさ。1枚目もいいんだよ。スリッパ入っちゃってるほうがあってさ、それで2枚目が良くなったねって分かるから。どっちかじゃなくて、2枚あるのが、いいよ」

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神楽坂。
タイムループで出会ったみなさんは、このまちに来れば、いつでも会えるということがわかった。あとはもう、タイムループじゃなくても、会いに行けば、楽しい時間がいっぱい生まれるな、ということもわかった。

「和田さん、会えてよかったです」
「よかった。来てくれてほんと、ありがとね」
「はい。元気でいてくださいね」

「いや、ダメ。もうね、やばい」

最後の最後に「やばい」って。笑
ここだけの話、正直ちょっとやばそうだったけどさ。本棚に「ど忘れ国語辞典」とかあったけどさ。ああ、最高に好きだなあ。


和田洋逸、86歳。
すっかり私の推しメンです。
やっぱりトートバックとマグカップに、印刷しようかな。

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今回、UNPLANでの講演に参加くださった方が、たくさん写真も撮ってくださり、そちらを使わせていただきました。

この場を借りて……
みなさんとタイムループ先を巡れて、とっても楽しかったです。お付き合いくださり、お写真まで、本当にありがとうございました!またいつか、会いましょうねー!

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