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電車が遅れた結果、見知らぬ田舎の町内会議に参加した話

(ちょうど1週間前のできごとです)

私は今、縁もゆかりもない田舎町にいる。
そしてなぜか、町内会議に参加している。

ほんとうなら今頃、友人のA子と久々に会い、夕食を食べ終わり、宿で読書でもしている予定だった。けれど乗った電車が止まり、2時間遅れた。

結果、なぜか見知らぬ町のみなさんと、会議に参加することになった。そして、こうしてnoteに書きたくなるくらい、私にとってスペシャルなことが起きた。「この議事録はエッセイで残したいぞ…!」ってなった。

ので、今日はそのことを、書きたいと思います。


・・・

友人のA子は、滋賀県の日野町というところにいる。暮らしはじめて3年らしい。けれど、今年の誕生日にはホールケーキを合計4つも獲得するほど、まちの人々に愛され、すくすくと育っている。ケーキ4切れとちゃうんよ、ホール4つよ。愛され度がすごい。

そんな私も、もれなくA子を愛しているので、彼女と会う約束をし、電車に飛び乗った。けれど、車内アナウンスが流れる。

「点検のため、しばらく運転を見合わせます。現在、大阪方面への折り返し運転を……」

高さ制限のある橋桁に、車がつっかえたらしい。2時間ほど遅れて、駅に到着した。


そこからバスに揺られること30分。最初は結構人がいたけれど、まもなく私と運転手さん2人きりに。見知らぬ町の、夜に乗るバス、少しそわそわする。あたりは真っ暗で、A子から「ここに来て!」ともらった住所の場所だけが、ポン、と光が灯ってた。


「ごめんA子! めちゃくちゃ遅なった、??」
知らない人達が、一斉に私の顔を見る。
「やー大変だったね! 入って入って」
奥から顔を覗かせるA子。よかった、知らん家に入っちゃったかと思った。

「紹介します! しまだあやさん。ともだちでーす」
「あっ。ともだちのしまだです」

この人達も、ともだちかな? や、そうでもなさそう。なぜならみんなバインダーを持っているからな。ともだちに会う時、バインダーは持たないからな。机には資料もたくさんある。ああ、これは会議だ。

A子、夜にちょっと用事あるって言ってたん、会議やったんか。どうやら私の到着が遅れたゆえに、真っ最中にお邪魔してしまったっぽい。

「はじめまして、〜です。近所に住んでます」
「〜です、そこの公民館で働いてます」
「あ、僕は日野町役場の〜です」

ちなみに、この場所は1階がオープンスペースになっていて、こんな風に町の会議に使われたり、催し事が開かれたり、らしい。そしてA子はここの2階を借りて住んでいる、らしい。

「ごめんね、そのうち終わるから適当にしてて〜」
「内容、聞こえてて大丈夫?」
「うん、全然大丈夫!部活だから」

部活…?
「あっ、これ。余ってるので良かったら」と、資料が手渡される。

若者会議(仮) 飲食部第2回打合せ。

「飲食部はね、この町のごはん屋さんを開拓していく集まりなの。会議っていっても仕事じゃなくて、有志の集まりで。今日は、3つも決まったんですよねー!」と、嬉しそうに言うA子。

「その1。インスタとnoteのアカウントを作って、お店を取材して発信する。その2。取材の質問は、ある程度テンプレを作る。その3。どれだけ酔っても、その場にいる一番すごいアイフォンの人が、ブレないように、写真を撮る!!」

あはは、最後めちゃくちゃいいなあ。
そう言うとA子は、iPhone13を水戸黄門さながら突き出した。

「それで、今はnoteの1本目の記事を……ってかnote! そうやん、ええところに! アナタ、そういう仕事してる人やん!」
「えっ。しまださん、note お詳しいですか?」

あ、えー、どうやろ、たぶん!笑

「しかもこないだ、飲食系の雑誌でエッセイ書いてなかったっけ」
「それはまさにじゃないですか!」
「まあ、とりあえず座って座って!」


・・・

「しまださんは今回、いつまで?」
「明後日までの予定です!」
「何か食べたいものあります? おすすめ教えますよ!」

おお、さすが飲食部。食べたいものかあ。私、なんでも好きなんだよな……でも大丈夫、私はこういうときにはこれを聞く、と決めている。

「じゃあ、“何かが足りない店”…が知りたいです!」

ぽかん、とするみなさん。「…と言いますと?」
「えっと、たとえば、うちの近所で言うと、席が足りない町中華があって……」と、ここからつい、ブーストがかかってしまう。


『席が足りない町中華』。
椅子は8つあるんだけど、1つ潰れちゃって7席に。さらにひとつは買い出した材料の袋が置いてたり。だから6人しか座れない。でも、その小規模感がちょうどいい。どんな人が何を頼み、どう食べているのか、全部見通せてしまう。「あ、常連さんはそれ頼むんだ」とか。「へえ、その組合せ美味しそう」とか。そういうのが知れて、面白い。


それから『メニューが足りない洋食屋』。
机の数に対して明らかに足りない。だから、近くの机のお客さんに「メニュー、いいですか?」と声をかける。運が良ければ「Bセットは売り切れたって言ってました」とか、「日替りはカキフライ、うまかったっすよ」などと、短いコミュニケーションが生まれる。

『七味が足りない焼鳥屋』もある。
長いカウンター席で、七味や山椒が2つずつ置いてるのだが、たまに右端と左端に七味が出かけている。真ん中の席になったときは、左右をキョロキョロしながら「あっあの、七味いいですか」という感じになる。両サイドから七味リレーがスタートしたときは、みんな笑った。


『音が足りない居酒屋』もいい。
ものすごく静かで、ユーセンも何もかかってなくて。大将の包丁がトントンと鳴る音、燗付器のガスコンロがシュー…と鳴る音、女将さんの控えめで綺麗な声。それが極上のBGM。この場合、『音が足りない』と表現するには野暮なのだけど。いつもは賑やかな仕事仲間と行ったとき、彼女の無声音をはじめて耳元で聴き、ちょっとドキドキしたのを覚えている。他のお客さんの徳利から、お酒が注がれるその音まで色っぽい。


……なんて、うっとり思い出しながら話すこと数分。喋りすぎたか、とハッとしたけど、向かいのBさん、めっちゃメモ取ってくれてはる……

「足りない店、切り口が面白い! いやあ勉強なります」
「席が足りない店だったら、駅前の◯◯とかは?」
「あー、あそこ狭いもんな、確かに仲良くなりやすい」
「□□はどう?人気過ぎてある意味、席足りなくない?」

いろんなお店の名前が次々と出てくる。Bさんが引き続きペンを走らせている。私も聞き漏らすまい、とメモを取る。


「変わった切り口でいくなら、『裏口から入る店』ってのがありますよ!」

えっ。何、どういうこと??

「町営ホール内の喫茶室で。建物の正面玄関から入って奥にあるんやけど、駐車場んとこに裏口があってね…」
「そうそう。ちっちゃく『喫茶利用の方のみここからお入りいただけます』って書いてあるんよね」
「でもあれ、未だに毎回、ほんまに入ってよかったんかな?ってなるよね」
「ドア開けたら厨房やもんな(笑)」

へえ~! 裏口から入る店、おもしろい!

「あ。行くなら絶対、水曜日ね!」
「火曜が定休日なんやけど、その日はおやじさんが釣りに行く。だから水曜の日替りは、とれたての刺身定食。何品かおかずもついて…これがめちゃくちゃうまいのよ!」


他にも、町内最高齢が作る店。
少食のお姉さんでもご飯おかわりしちゃう店。
行くたびに量が増えてる気がする店。
お店のインスタがご飯じゃなくて犬かバイクだけの店。
いろんな切り口で、お店情報が出てくる。

「ええやん〜もう特集いくつか組めるな」
「70歳以上特集!」
「白飯おかわり特集!」
「トイレ特集!」
「えっ」「えっ」
「飲食店のお手洗いって結構個性出るじゃないですか。…あれ、微妙?笑」

とても盛り上がっている。楽しいアイデアがどんどん飛び交っている。A子が「ハイッ、ハイッ」とお菓子を配り始める。「ねえ、こんな感じでおまけくれる店もありますよね」「あるある。おまけ特集もいいな」私も楽しくて、アイデア出しに便乗する。

右手にちーかま、左手に柿の種で熱弁する私。


「あーご飯の話ばっかしてるから、おなかすいてきた~。今何時……て、もう21時じゃないですか!!」

A子の声で冷静になるみなさん。

「これ、どうやって収束させます…?」
「誰がどこ行くかも決めなアカンな」
「平日のランチ撮りたいけど、動ける人いる?」
「あと写真って、料理と店主と…撮り方は?」
「顔出しNGやったらどうしましょ」
「え~、その場合は、うーん…」
「まあとりあえず1つ行ってみよ、記事全体の方向性だけ決めて!」
「それが決まってないんやってば!笑」

だんだんと不安げになるみなさん。お菓子をそっと補充するA子。
すると、Bさんがポツリと言う。

「あの、やっぱりもうちょっと練習しませんか」

練習?

「えー、こないだしてたやん!B君、ほんま練習好きやなあ」

え、練習って?

「あのね、B君はすごいんです。練習ゆうて、居酒屋にバインダー持参してんの。みんな呑んでワイワイしてる中で、ずっとメモ取っててね。取材はじめてで、緊張してるんですって。ね?」
「はい。もっと練習したいです」

どんな練習がしたいですか、と聞いてみる。

「まず外から見て、入れそうなら入って、お店の人に話しかける練習して、聞く練習して…」
「B君、それがもう取材や! 本番でええやん!笑」
「そうか…じゃあ、まず外から見学して…」
「食べへんのかーい!笑」

コントのようなやり取りをみていると、A子が急に手を挙げた。

「ねえ、それを一発目の記事にするのはどうですか?」

A子が言うには、こうだった。

まずはお店を外から見るだけ、中には入らない。そして外観写真をバーっと撮って、記事内に並べる。日野町は、町の大きさにしては飲食店が多いらしく、「実はこんだけあるんですよ~!」ということが伝わるし、ひとりでも動きやすいし、どのみちする予定の、取材OK店のリストアップにもなる。何より、ワンクッション挟むことでBさんの「練習したい」も叶うのでは、という。


「で、本当にただ並べるだけはあれなんで、ちょっとコメント入れましょ」
「コメントてなんや、暖簾が渋いですね~とか結構並んでますね~とか?」
「そうそう。まずは外観と、その第一印象、それだけ。結構面白そうじゃないですか?」
「で、ちょうど出てきた人に “ここ、おいしいですか?” って聞いてみたり? ハハ」
「あ、いいじゃないですか! 常連さんに聞けたらいいですね、きっと一番のファンですし!」
「あーほんまやなあ!」

グルメレポートなのに、食べないし入らない。
ってキャッチーすぎる。めちゃくちゃええやないかA子……!



こうして、日野町 飲食部のnote1本目の記事は、
みなさんの「決めなアカンことまだまだあるのにどうしよう」という課題と、Bさんの「もっと練習したい」の一言から、めでたく、

『入らないグルメレポート』

と相成ったのである。

入らなくてよくなって、一番嬉しそうなBさん。

・・・


私は今日、縁もゆかりもない田舎町にいる。
そしてなぜか、町内会議に参加している。

ここは滋賀県、日野町。ほんとうなら今頃、このまちに暮らす友人のA子と夕食を食べ終わり、宿で読書でもしている予定だった。けれど電車が止まり、2時間遅れた。

結果、なぜか町のみなさんが集まる会議に参加。議題は、「町の飲食店を紹介するnoteの内容を決めること」。

地元民ならではの意見が飛び交い、はじめてならではの不安も飛び出し、ついにはその不安を逆手にとって、「まずは『入らないグルメレポート』を書く」という、スペシャルな企画が誕生した。ネガティブな要素もアイデアに変えるチームプレー。すごいぞ日野町 飲食部。


「〜地区はA子ちゃん、〜地区はMさん、B君は〜地区…よし、担当も決まったね」
「じゃあ各自で外観を撮って、次の会議でその写真をバーっと並べて、順番やコメント選びしましょか!」
「いやあ楽しみ」「ええ記事になりそう!」
「ね! ほなそんな感じで」「お疲れさん〜!」

お礼を言い合い、帰る準備をしていくみんな。ああ、よかった。すごく面白かった。電車が止まってよかった…とは言えないけれど、この時間を過ごせたことは、本当によかった。

教えてもらったお店たち、明日さっそく行こっと。しかも明後日は水曜日。裏口から入る喫茶で、激ウマ刺身定食が出る日ではないか。

「□□□も行こな! あそこのたまごカレーうどん、エビ天も餅天も入るねん」とA子。
「役場の近くにも、いい焼鳥屋がありますよ。よかったら一緒に行きましょう」とYさん。えー焼鳥! 大好物です…
「私とも是非、こっから1分なんで! 翌日は潰れるだけの日にしておきますね」とMさんも。あーもう、喜んでお供します。


最後に、Bさんが声をかけてくれる。

「あの、しまださんの資料、写真撮ってもいいですか」
「これ? どうぞどうぞ」

最初に彼からもらった資料を、今度は彼に手渡す。Bさん、近づけたり離れたりして、撮っている。外ではみなさんが手を振っている。その様子と、気づけばすっかり文字だらけになっていたこの一枚を見て、私はこれからこの町のこと、とても好きになるんだろうな、と思った。



……………と、いうことで。


本日は、

「電車最後着がめちゃくちゃにのび、
 なぜか町内会議に参加することになり、
 その会議時間ものびにのびた結果、
 私の胃袋もめちゃくちゃのびる (予想)」

……というnoteでした。おあとがよろしいようで。


【おまけの後日談】
翌夜、Yさんがほんとに、役場近くの焼鳥屋「和ちゃん」に連れてってくれました。全部うまかった、手羽が特に……うますぎて料理の写真を撮ってないという失態。唯一残っているのがこちら、「腕をねじって鼻に親指をちょんとしてパッと開く手品 (?) 」をレクチャーしている写真です。

【㊗ 速報】
日野町のnoteアカウント、開設されたってよ!!!!! 
ほんまについさっき作ったらしいので、アイコンも何も設定されてないという、まじで生まれたての姿。サムネが這ってる赤ちゃんに見えてきた。はじめてしゃべる言葉は何だろね、楽しみだね。

「入らないグルメレポートは年明けアップかな」とのことだけど、よければフォローして、共に公開を待とうではないか。(PR案件ではない。ただただ私がA子と日野町を応援したいっていう)本noteに出てくる◯◯とか□□に入るお店の名前も、日野町 飲食部が書くnoteで、明らかになるはず。

あっでも、裏口から入る激ウマ定食のある喫茶だけ、先に書く。「わたむきホール」というところの中にある「ティールーム レインボー」です。

で、これが例の裏口。いやあ、こりゃわかんねえわ……笑

私が食べたのは、鰤のお刺身定食。とろっとろの和風オムレツと、同じくとろっとろの茄子田楽、お味噌汁、ご飯、こうこ付。750円。みんな是非いって……

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