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コミュニティホスピタルが取り組むACPの普及~「もしバナゲーム」を通してACPを学ぶ地域と病院

こんにちは、CCH協会です。コミュニティホスピタルでは患者さんが住み慣れた地域でそのひとらしく生活できるようにするために様々な取り組みを推進しています。
今回は水海道さくら病院で取り組んでいるACP(アドバンスドケアプランニング)についてのお話です。

ACP(Advance Care Planning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援する取り組みのことです。

日本医師会



1.なぜ当院が主体的にACPに取り組むのか

茨城県常総市にある水海道さくら病院。常総市の医療機関で唯一訪問診療を展開しているコミュニティホスピタルです。訪問診療を開始して6年。その間、住み慣れた地域で最期を迎える人たちを多く診てきました。

水海道さくら病院は以前から「地域包括ケアシステムの拠点病院」というキャッチコピーのもとで運営していました。

2003年に産声をあげた地域包括ケアシステムとは、2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムのこと。2014年には「医療介護総合確保推進法」が施行され、地域包括ケアシステムの構築を厚生労働省が全国的に推進するようになりました。そして今、団塊の世代が75歳以上となる2025年まで残り1年と目の前まできています。

その過程で、地域包括ケアシステムの象徴とされる「植木鉢」は形を変えています。変化したことは3つ。

1つ目は、介護予防と生活支援が一体となったこと。
2つ目は、保健・福祉を重要な要素として位置づけたこと。
そして3つ目は、本人の選択が優先されること。

本人の意思をもっとも優先しましょうと言いながら、家族の意思で施設に入ったり、病院に入院された方も多いことでしょう、今までは。いや、今もなお本人の意思より家族の意思が尊重されている医療やケアの提供体制は多く存在していると思われます。

そんな中で、水海道さくら病院としては、この3つ目の部分「本人の選択と本人・家族の心構え」に対して、ACP実践に向けての取り組みをしていこうと動き始めました。

地域包括ケアの拠点病院を目指すさくら病院


2.地域社会に提案するACPへの取り組み

ここからは水海道さくら病院が具体的にどのような活動を行ってきたのか紹介をしていきます。まずは、地域に対してのACPの取り組みです。

ACPの推進活動を進めていく中で、はじめに行政の動きや認識の程度を確認していきました。そこで挙がってきた課題は大きく2つ。1つは市が作成したエンディングノートが活用されていないこと、2つ目はACPという言葉自体が地域住民に浸透していないことでした。

特に2つめの課題へのアプローチのきっかけづくりとして常総市直営の地域包括支援センター主催の地域ケア会議内で、地域で活躍する医療・介護専門職、行政区の区長、民生委員に対し研修を開催してみることにしました。

研修資料の一部

「ACP」という伝えにくい概念をどのようにして地域に知ってもらうか、そもそも目的とゴールは何なのか、そんな議論を行政職員と重ねていき、その結果、体験を通してACPを知り、自分ごとに捉えてもらう、ということを掲げました。

一方的な講義形式だけではなく、「体験」を通したワーク、その上で参加者同士が語り合う、そんな場にしていこう、そのコンテンツのひとつとして「もしバナゲーム」と「エンディングノート」を取り入れた研修計画を立案し実施しました。

もしばなゲームの体験中


常総市内では地域ケア会議は6会場で開催されており、2ヶ月にわたってACP研修を実施。もしバナゲームも盛り上がり、それぞれの思いを共有、エンディングノートの書きやすい部分を埋めていくという流れで行いました。
その結果、アンケートでは「ACPへの理解が深まった」「必要性を感じた」「エンディングノートを書きすすめてみる」といったポジティブな意見がほとんどでした。一方で、「必要性はわかったがやり方がわからない」「ACPの進め方がわからない」などの実践を想定した、より具体的な意見も挙がってきました。ここで挙がった意見を見たときに、「知る」「わかる」という状態から抜け出し、「やる」という状態を作れた、と感じ次のフェーズに移れそうだ、という認識を行政職員と共有しました。それが次年度のアクションにつながっていきます。

3.病院職員に向けたACP普及の取り組み

さて次は病院内です。まずは、地域に対してのACPへの取り組みを院内でも共有しようと、水海道さくら病院で毎年行われている「院内発表研究会」で報告をしました。ACPに関する地域の現状を伝え、改めてACPの総論の話、医療機関の役割や当院が目指す方向性を全職員に対し伝え、次は自分たちの番だと言わんばかりに、院内での推進活動を行う宣言をしました。
それが冒頭示した全職員対象とした「もしバナゲーム」の実践です。

院内研修チラシ

毎週木曜日13:30~14:00の30分間、毎回4名の職員が集まり「もしバナゲーム」を通してACPを学んでもらいました。参加された職員が次の参加者に対して声をかけチラシを渡していくという招待制の研修会とし、自分にとって大切な価値観、そしてそれを職員同士で共有するというところまでを研修内容として実施してもらいました。(もしバナゲームのHP→https://www.i-acp.org/game.html

(もしバナゲームで自身の思いを共有中。この日は医師、看護師、管理栄養士、事務の多職種で実施)(36枚あるカードの中から、余命半年でやりたいこと、大切にしたいことを選んでもらう)


ゲームの開始前には、病院職員としてではなく、ひとりの人間としてもしバナゲームに参加いただくようイントロダクションをしました。当事者としての考えや思いを馳せていただきたかったからです。いざ始まると、カードをじっと見つめ考えこむ人、何度もカードを入れ替える人、感情を揺さぶられて涙する人、この時間だけはそれぞれが自分と向き合う時間を過ごしていたように見えました。そして、自分が選んだカードを皆に見せながらなぜそのカードを選んだのかを話してもらいます。各々が内に秘めている思いを外に出すことで、職員同士新しい発見があったり、そんな風に考えているんだという気づきがあったり、ふたを開けてみれば、ACPを実践する上で大切である「人と向き合うこと」「話し合うこと」「人の思いや考えは多様だと感じること」など、相互理解が深まるような場面が毎回見られていました。「こういう場はあまりないからすごく良かった」「家でもやってみたい」と言ってくださる職員も多く、院内でのACPの取り組みとしてのファーストステップとしては良い研修機会になったと感じました。

36枚あるカードの中から、余命半年でやりたいこと、大切にしたいことを選んでもらう


4.ACPを通じて実現したいこと

体験を通してACPを根付かせていくことは効果があったようです。

次のステップとしては、地域に対してACPをまだ伝えられていない人たちに伝えること、院内に対してはACPを実践する体制をつくることを考えています。次なるアクションのひとつとして、早速、地域住民向けのACPセミナーを先日(2023年10月)開催しました。

参加者の属性は半数が高齢者、夫婦で来られている方、友人と来られている方など様々。セミナーに参加いただいた方の9割の方が、ACPのことを周りにも知ってほしいと仰っていました。また、「重い話だったが、皆さんとの話し合いが活発でとても良かった」「親と家族と話し合うきっかけになり、これを機に積極的に話し合おうと思った」「はっきりした口調でパンチのある良い話だった。本日の話はみんなに聞かせてあげたい」「同様の研修を何回もやってほしい」などのご意見もいただき、より地域にACPを浸透できる実感を得られました。今後もこうした活動を継続すること、そしてもっと地域全体に広めるために、行政と協働して地域のステークホルダーを介しての啓発活動を実施していこうと考えています。

聴講の様子
研修資料の一部
もしばなゲームの様子

そして、コミュニティホスピタルである病院内の次なるアクションは、実践のためのオリジナルACPシートの作成です。こちらはまだ道半ばですが、ACPシートを活用して他の医療機関や介護施設、在宅サービス事業者との連携を深め、何より本人の選択・意思を尊重した支援を地域で実現していきたいと考えています。

コミュニティホスピタルとして、自分が望む形で最期まで生ききることのできる地域、そして残された人たちが気持ちよくその後を生き続けられる地域をつくれるよう、これからもACPの推進活動を行っていきたいと思います。


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