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【笑ってくれないあさひくん】 #5


 わたしたちは、毎朝一緒に登校している。

 高校に入ってみんな初めての電車通学だったから、最初はわたしの家の前で集まってから一緒に駅に行くようにしてたけど、誰かさんがいっつもギリギリに来て、小走りで発車寸前の電車に乗るという忙しない朝の日々に耐えられなくて(その他三人が)、乗る電車の時間を決めて、それに間に合うように、各々好きな時間に家を出るスタイルにした。
 そう決めてすぐ、何時に出ようかな~、集合時間の5分前には着いていたいな~と悩んでたら、あさひくんから【明日何時に出んの?】ってライン。【5分前に着くようにしたいから、40分くらいに出るつもり】【りょ】そんな軽い会話をした次の朝、家を出たら、玄関前で座って待っているあさひくんがいた。


「!!!っびっくりした、」
「やっぱ。柚のことだから時間より早く出んだろうなぁって早めに待ってた」


 こわ。
 たしかに、いつもより早く準備が終わったからコンビニにでも寄ろうと思ってたけど。


「いつからいるの?」
「ついさっき」
「別に一緒に行かなくてもいいんだけど」
「ハル撫でてから行こうと思っただけ。別に柚を待ってたわけじゃない」


 朝の散歩の後、庭で日向ぼっこをしてるハルを撫でてから出発するのは、わたしたち家族以外にも、幼馴染みんなの習慣になってた。これからはバラバラで行くことになるから、ハルも寂しくなるかな。
 わたしもあさひくんも満足するまで撫でてから「ハル~、行ってくるね~」と挨拶してようやく出発。

 駅のコンビニに着いたときには、待ち合わせ10分前。
 お菓子を買って、待ち合わせの駅のホームの端っこで待っていると、すぐにちーちゃんが来た。5分前。


「二人早いね」
「コンビニ寄りたかったから」
「やっぱり別々で待ち合わせすると余裕があるから、コンビニ寄っちゃうよね~。お金使いすぎないように、明日から飲み物は家から持ってくるようにしよっかな~」
「わたしもそうしよ」


 電車が来るアナウンスが聞こえる。
 勇太くん現れず。
 電車がホームに到着。
 勇太くん現れず。


「遅刻?」
「あいつのためにこっちがギリギリの電車に乗ってやってんのに、それでも来ねーの」
「まぁ、次の電車にさえ乗れば間に合うから。うちらは乗っちゃお」


 無慈悲な三人。
 でも、昨日言ったから。「遅刻するやつに慈悲はかけない」って。みんな勇太くんを見ながら。
 これはギリギリに駆け込んでくるやつか、本当に間に合わないやつか、どっちかな?と思いながら電車に乗り込んでいると、階段を二段飛ばしで颯爽と駆け上ってくる勇太くんが「ふ~、間に合った」と息を切らしながら真顔で言う。


「何分に起きたの?」
「15分前」
「顔洗った?また朝ごはん抜いてきたんでしょ?」


 ちーちゃんは「信じられない、わたし15分前なんて準備終わって洗濯干してたけど」って呆れながら自分のバッグからおにぎり二つを出して勇太くんに渡す。
「どうせギリッギリに起きてギリッギリに着くだろうなと思って、朝食べる時間もコンビニに寄る時間もないだろうからつくっておきました」って。

 勇太くんの家は少し複雑な家庭だから、小学生のときからお弁当の日はいつもコンビニでお弁当を買ってくるのをちーちゃんが気づいて、自分のをつくるついでだから、と自分と同じお弁当を勇太くんに渡していた。そこから、わたしはデザートを、あさひくんは飲み物を渡すようになった。いらない、お金あるから、と遠慮してたのは最初だけ。
 いまとなってはわたしの家やあさひくんの家に突然来ては「腹減った」と一瞬にしてご飯を平らげていくし、ちーちゃんがつくるおこぼれを素直に受け取ってる。
 まぁ、「このあいだの味の方が良かった」と余計な一言を添えて、だけど。キッと睨みつけるちーちゃんとわたし。黙って受け取っとけ。


「お昼は?弁当いらないって言うからつくってきてないよ」
「購買かコンビニで買う」
「だったら一緒につくるのに。一人も二人も変わんないよ」


 勇太くんはぶっきらぼうに言うと、イヤホンをしてちーちゃんの小言をシャットアウト。
 勇太くんのことだから、きっと気を遣ってるんだと思うよ、ちーちゃん。月に数回もないお弁当の日につくって渡してくれるのとは訳が違うから。毎日じゃないにせよ、ちーちゃんの負担になることを考えると申し訳ないんだろうな。まぁ、そんなちーちゃんは勇太くんよりも二枚も三枚も上手だから、策を練ってくると思うけど。


 お昼休みが終わって、勇太くんのクラスでご飯を食べていたあさひくんに「勇太くん、なに食べてた?」って聞いたら「メロンパン」……え、それだけ?隣にいたちーちゃんと顔を見合わす。


「メロンパン?1個?」
「メロンパン1個」
「勇太がメロンパン1個?足りるわけなくない?」
「まぁ、だろうね。でもあいつ食ってすぐ寝たから睡眠が勝ったんじゃね?」
「今日、部活?絶対お腹減って動けないやつ」


 ちーちゃんがお母さんを亡くしたばかりの頃、ちーちゃんのおばあちゃんやわたしのママから「ご飯食べた?」「ご飯食べていきな」「ちづの美味しいお顔が美味しい栄養」って気にかけてもらったのが嬉しかったから、家族に美味しい栄養食べてもらおうって料理頑張ってるんだよ、って話してくれた。
 いまはちーちゃんが、ぷんぷんしながら勇太くんを気にかけている。


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この小説は、小説家になろうで掲載している作品です。
創作大賞2024に応募するためnoteにも掲載していますが、企画が終わり次第、非公開にさせていただきます。

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