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第7号(2018年10月5日) ロシア航空宇宙軍の組織構成


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【質問箱】航空宇宙軍の中に空軍が?

●今週の質問
 ロシア航空宇宙軍になったのにロシア空軍(VKS)と国防省のサイトにあるんですがどういうこと?

●小泉より
 ご質問ありがとうございます。
 本題に入る前に簡単に交通整理しておくと、ロシア航空宇宙軍の略称はVKS、旧ロシア空軍の略称はVVSなので、質問者の方がロシア国防省のサイトで「VKS」という表記を目にされたのであれば、これは現航空宇宙軍のことを指していると考えられます。
 ただ、空軍から航空宇宙軍に組織改編された後も、VVSという組織名称は残っています、というのが今回の本題です。
 ロシア航空宇宙軍は2015年8月1日に設立されました。その基礎となったのは、従来の空軍(VVS)と航空宇宙防衛部隊(VVKO)です。前者は一般的に想像される空軍そのものですから特に説明は必要ないと思いますが、後者はなかなかイメージがつかないと思います。
 VVKOは2011年12月1日に設立された組織で、従来の宇宙部隊(KV)と空軍内の航空宇宙防衛作戦戦略コマンド(OSK-VKO)を統合したものです。KVは軍事衛星、ミサイル警戒システム、モスクワ防衛用のA-135ミサイル防衛システムなどの運用を担当する独立兵科であり、OSK-VKOは旧ソ連防空軍の地対空ミサイル部隊などを運用する政治・経済・軍事的重要地帯の防空部隊とされていました。
 また、両者は軍種ではなく独立兵科という扱いでした。兵科ではあるのだけれども戦略的な重要性が高いので独立の地位を与えられているというロシア独自の制度で、このほかには戦略ロケット部隊(RVSN)や空挺部隊(VDV)がこのステータスです。

 ところが話はここで終わりません。空軍にせよ航空宇宙防衛部隊にせよそれなりに巨大な組織であったため、書類上は一つになっても、依然として旧来の組織は残っているためです。
 ロシア国防省公式サイトの説明を見てみましょう。これによると、航空宇宙軍は次のような組織から構成されています。

兵科
  空軍(VVS)
  防空・ロケット防衛部隊
  宇宙部隊
特別部隊
  電子戦部隊
  通信部隊
  電波保障及び自動指揮システム部隊
  技術部隊
  気象部隊
教育隊及び科学研究機関

 以上のように、かつての空軍、航空宇宙防衛作戦戦略コマンド、宇宙部隊は兵科としては依然として存在しているわけです。ただ、これら旧組織同士の指揮統制通信システムなどがどれだけ統合されているのか、人事上の行き来がどれだけあるのかははっきりせず、今後の研究テーマとしなければならないと思います。


【今週のニュース】ロシア軍秋季大演習と秋季徴兵

・ロシアのショイグ国防省は、今後、「マニョーブル」形式の大規模演習を5年に1回実施するとの方針を示した。マニョーブルとは英語のmaneuverに相当し、ロシア軍では対抗形式で実施する演習とされている。従来、ロシア軍の大規模演習は作戦指揮機関(司令部及び参謀部)の演練に主眼を置いた戦略指揮参謀演習(SKShU)として実施されてきたが、今年の「ヴォストーク2018」は2009年の「オーセニ2009」以来のマニョーブルであった。
このような形式の演習を定期化する理由について、ショイグ国防相は、10年単位で実施される装備更新プログラムの成果を中間段階で評価するためであるとしている(タス通信、2018年9月16日)。

・2018年度秋季徴兵が開始された。今回の徴兵人数は13万2000人であり、このうち11万8400人がロシア軍向け、残りはその他の準軍事部隊向けに配属される。なお、春季徴兵は12万8000人であったので、2018年度の徴兵人数は合計26万人ということになる。ロシアの徴兵数は約57万人であった2009年をピークに減少し続けており、2017年は27万6000人であった。今年の徴兵数はこれをさらに下回るものであり、歴史的な低水準と言える。


【NEW BOOKS】 Where Are The Balkans Heading?

・Ekaterina Entina, Alexander Pivovarenko, Dejan Novakovic, Where Are The Balkans Heading? A New Cooperation Paradigm for Russia, Valdai Discussion Club, September 2018. 

 ロシア政府後援の有識者会議「ヴァルダイ・ディスカッション・クラブ」から、バルカン半島に関する報告書が出ました。
 ロシアはマケドニアのNATO加盟に神経をとがらせ、クーデター未遂に関与したのではないかと疑われているほかセルビアに軍事援助を行うなど、バルカン半島への関与を強めています。私はまだ未読ですが、ロシアから見たバルカン半島の位置付けなどを学ぶ上で一読したい報告書です。


【編集後記】同じ本を二度買ってしまう現象

 最近悩んでいるのが、同じ本を2度買ってしまうことです。
 Twitterでよさそうな本を見つけて注文したり本屋で本を買ったりして、本棚にしまおうとするともう同じ背表紙が並んでいた…というパターンが月に1度くらい発生しています。まぁ読んでおくべき本を逃すよりはいいのかもしれませんが、それなりのお値段の洋書だったりすると(またダブる本に限ってそうなのです)結構凹むものがあります。
 まだ36歳なのでボケるには早いと思うのですが、昨年くらいまではそういうことはあまりなかったので、やはりボケてきているのでしょうか。

 加齢ネタでいうと、年をとると時間が経つのが早くなるというのも30代に入ってから実感しています。今年もついこの間2018年になったような気がしていたのですが、なんだかんだでもう4分の3が終わってしまったことに気付き、少し狼狽しました。
 とはいえ10年以上ロシアをウォッチしているとなんとなく年間のサイクルのようなものができてきます。
春の徴兵があって、夏には武器展示会「アルミヤ」や海軍記念日(この種のイベントや記念日には軍上層部などから重要な情報が発表されることが多いので要注意です)、秋に大演習があって、秋季徴兵が始まって…とやっているうちに来年度予算が採択されて年末の国防省拡大幹部評議会で一年間の総括が発表されます。
 原稿書きのサイクルもこうしたイベントに左右されることが多いので、なんとなく「体内カレンダー」ができてくるような気分になってきますね。
 今年もそろそろ来年の国防予算がどうなるのか気になってくる頃ですが、これはいずれメルマガでお伝えしたいと思います。

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小泉悠(軍事アナリスト)
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