第63号(2019年12月2日) ロシア軍2019訓練年度総括


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【インサイト】ロシア軍2019訓練年度総括

 今回は久しぶりにインサイトのコーナーをやりたいと思います。
 昨日から12月に入りましたが、ロシア軍では毎年11月30日を以って「訓練年度(учебный год)」が終わり、12月1日から新しい年度が始まるというサイクルになっています。今年の場合でいうと、2019訓練年度が一昨日までで、昨日から2020訓練年度が始まったわけですね。カレンダー上よりも一年早く「新年」が来るわけです。
 このズレが何故生じるのか、ちゃんと調べていませんが、おそらく雪と関連があるのではないでしょうか。訓練年度は前半(冬季訓練期間)と後半(夏季訓練期間)に分かれるのですが、12月から年度を始めれば冬季訓練期間は12月から翌5月までということになり、だいたい積雪のある期間と重なることになります。装備品や物資の備蓄基準などもちょうど12月1日から冬季仕様に変更されるようです。
 というわけで12月1日前後、ロシア軍の機関紙『赤い星』では2019訓練年度(2018年12月1日-2019年11月30日)の総括に関する記事が色々と出てきたので以下、ご紹介しましょう。

ロシア陸軍総司令官オレグ・サリュコフ上級大将(『赤い星』2019年11月25日
・2019年は諸兵科連合部隊の兵団(師団、旅団)、部隊、下級部隊の指揮参謀部演習100回以上、戦術演習800回以上を実施。約半分は対抗形式であった
・ロケット部隊と砲兵部隊は実弾射撃を伴う各級戦術演習を1600回以上実施し、参加部隊の半数以上が「良好」ないし「優秀」の評価を得た。イスカンデル-M作戦戦術ロケットコンプレクス、トルナード-S 多連装ロケットシステム、2S19M2ムスタ-S自走榴弾砲、フリザンテマ自走対戦車ミサイル発射機を装備する各部隊はその能力を実証した。訓練の過程で弾薬20万トンが消費された
・高射部隊は60回以上の戦術演習を実施した。S-300V4、ブーク-M3、ブーク-M2、トール-M2U、トール-M2、ツングースカ-M1を装備する各部隊は「優秀」の評価を得た。演習の過程でミサイル500発以上、高射砲弾1万トン、飛行標的500発が消費された
・2019年中に新型兵器、軍用装備、特殊装備2500点が配備された
-戦車及び自動車化歩兵部隊:T-72B3M、T-80BVM、BMP-3、BTR-82A
-西部軍管区:イスカンデル-Mロケット旅団
-砲兵部隊:自動目標観測能力を有するトルナード-G及びムスタ-SM
-高射部隊:S-300V4、ブーク-M3、トール-M2、ヴェルパ
-偵察部隊:UAVを用いる偵察・指揮・通信コンプレクス「ストレーリェツ」、タイフーン-K防護車両
-通信部隊:戦術レベル通信システムの更新
・試作設計作業「クングス」の枠内で開発されている試作ロボット技術コンプレクス(RTK)の国家試験が完了し、2020年に試験戦闘配備に入る。また、2020年には大型・中型RTKである「シュトゥルム」と「サラートニク」の試作設計作業が開始される
・これらRTKの部隊導入とその運用理論の発展により、戦闘に際して諸兵科連合部隊を運用する手順と方法を変えることができる
・T-90M戦車とベレジョーク砲塔を搭載した改良型歩兵戦闘車の国家試験が近く完了する
・アルマータ戦車、クルガーニェツ-25歩兵戦闘車、ブメラーング装甲兵員輸送車の試験が続いており、すでに部隊試験のための国家契約が締結されている
・単一の火砲から発射された砲弾を同時に着弾させる革新的な「火のスコール」能力を有するコアリツィア-SV火砲コンプレクスの開発は最終段階に差し掛かっている
・北極部隊を含めた大隊レベル火力の強化のため、新型機動迫撃砲システムの開発が試作設計作業「ナブロソク」の下で行われている

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