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書く仕事にはどんな種類がある? 適性はある?:『書く仕事がしたい』佐藤友美著【試し読み②】
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書く仕事にはどんな種類がある? 適性はある?:『書く仕事がしたい』佐藤友美著【試し読み②】

CCCメディアハウス書籍編集部

佐藤友美『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)は、ありそうでなかった「物書きとして、稼ぎ、生きていく」ための教科書。書く仕事を20年以上続けてきた著者が、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」について1冊にまとめました。

書く仕事とはどんな仕事で、どんな生活を送ることになるのか?  書く仕事がしたければ、どのような準備をして、どんなふうにデビューするのか?  書く仕事は選ばれし者しかできないのか?  “必要最低限"の文章力とスキルとは? どれくらい働けば、どれくらい稼げるのか? 心身を病まずに長く仕事を続け、仕事の幅を広げていくためには?

10月末の刊行を前に、2回にわたってその内容の一部を抜粋紹介する後編。

※ 前編はこちら

《CHAPTER 1 書く仕事を知りたい》

■Think 1:書く仕事にはどんな種類があるのか?
●ライターとはどんな仕事か?

「書く仕事がしたい。でも、自分にそんな才能があるかどうかわからない」
これは、ライターを目指す人から、よく聞く言葉です。

 このように思っている人たちは、ライターという職業を小説家などの作家業と同じと捉えているのではないかと感じます。だから、特殊な「才能」が必要だと思ってしまっているのではないでしょうか。
 とくに若いころから書くことが好きで、書く仕事に憧れてきた人ほど、ライターという仕事を神格化してしまいがちだと感じます。

 私は、ライターは選ばれしものにしかできない、特別な職業だとは思っていません。多くの他の職業同様、実践を経験しながら少しずつライター”らしく”なっていけばいいし、ライターに必要なのは、才能ではなく技術です。
 言い換えれば、私たちはアーティストである必要はなく、私たちが目指すべきは専門技術を持ったビジネスパーソンです。

 では、ライターであるために必要な専門技術とは何か。
 それを話す前に、ライターとはどんな仕事なのか、この本におけるライターの定義をしたいと思います。

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※「Think 1」の続きは本書

■Think 2 ライターに向いている人とはどんな人か?
●ライターとは、日本語を日本語に翻訳する仕事

 同じ「書く仕事」ですが、ライターの仕事とコラムニストやエッセイストの仕事はだいぶ違います。たとえて言うなら、お洋服のスタイリストとデザイナーくらい違う。スタイリストは、すでにある服やアクセサリーを組み合わせてコーディネートを作る人。デザイナーは服やアクセサリーそのものを作る人。まったく違う仕事です。
 同じように、ライターとコラムニストやエッセイストは、職能がかなり違います。ライターは人から受け取った素材を元に、その人の意見で原稿を作る人。コラムニストやエッセイストは、素材そのものを自分で調達し、自分の意見を中心に原稿を作る人という感じでしょうか。この2つは、かなり大きな違いです。

 同じ「書く仕事」のなかで、ライターの職業に一番近いのは、翻訳家だと私は思っています。とくにインタビュー原稿や書籍の原稿においては、求められている職能がとても似ていると感じる面が多々あります。

 翻訳家は、たとえば英語を日本語に翻訳したり、日本語をフランス語に翻訳する仕事ですよね。それと同じように、ライターは日本語を日本語に翻訳する仕事です。
 もちろん、ライターの仕事に翻訳すべき「原文」はありません。ライターの場合、その「原文」にあたる「素材」自体を聞いたり調べたりして調達しなくてはならないところが一番違います。そして、翻訳家が基本的には原文の順番を守って翻訳するのに対して、ライターは原文をあちこち入れ替えて構成し翻訳します。
 その2点は大きく違いますが、相手の意図をくみ取って、最も適した日本語表現に置き換えるという点は、翻訳作業にとても似ていると感じます。

 以前、あるエクソフォニー(母語ではない言葉)で原稿を書く作家さんと対談をさせていただいたことがあります。
 そのとき私は彼に、「西田幾多郎さんの『善の研究』を読んでいたが、難解すぎて挫折しそうになった。でもある時、さわりの部分の英訳を読んだら、なるほどこういうことを書きたかったのかと理解できるようになった。日本語は、哲学に向かない言語なのだろうか?」と質問しました。
 すると、その方は「それもあるかもしれないけれど、翻訳という行為自体が、そもそももとの言葉を解釈し、わかりやすく噛み砕いて読者の文脈に合わせて再提示するものだから、原文よりわかりやすく感じるのではないか」とおっしゃったのです。
 これは、私にとって衝撃的な指摘でした。そしてまさに、ライターがしなくてはならないのは、この「翻訳」の作業だと思ったのです。

 ライターの仕事は、ただインタビュー相手が話したことを短くまとめればいいわけではありません。その方が、どんな文脈でその言葉を発したのか。「コン・テキスト(文脈を合わせる)する」のが、ライターの仕事であり醍醐味なのです。

 原文があってさえ、10人の翻訳家が翻訳すると、10通りの違う日本語の文章が生まれます。ましてや、原文を取材で集め、それを並べ替えて翻訳する私たちライターの原稿には、もっと大きな差が出るでしょう。
 そして、その差は、取材相手の文脈をどこまで理解できたかに左右されます。あらゆる経験が、ライターの文章の糧になっていきます。

●ライターとは、問い、選び、伝える人である

 では、ライターはどのように日本語を日本語に翻訳するのでしょうか。

 私のライター講座で最初にしてもらうワークが、他己紹介です。5分間で隣の人から話を聞き、30秒でその人を全員に紹介してもらいます。

 20人の発表が終わったら、「誰の他己紹介が、一番記憶に残りましたか?」と質問します。たいてい、数人の名前に票が集中します。「では、なぜその人たちの他己紹介が記憶に残ったのか」と聞くと、
「意外な趣味を持っていることがわかったから」
「どうしてこの講座に来たかが、自分と同じだったから」
「名前を由来と一緒に聞けたから、記憶に残った」
 などなど、いろんな理由を答えてくれます。

 この「記憶に残る」ための技術は、たいてい以下の4つの要素に集約できます。

① 初対面の人に話を聞く「取材力」
② この場で喜ばれる情報を取捨選択する「相場感」
③ 聞いたことを要約し、どの順番で伝えるかを考える「編集力」と「構成力」
④ 印象に残すための「表現力」と「演出」

 たった5分の取材と30秒の紹介ですが、この「他人の話を聞き、紹介する」という行為のなかに、ライターにとって重要なほぼすべての技術要素が含まれています(含まれていないのは、「書く」ことだけですが、30秒の発表は限りなく「書く」に近い行為です)。

 このワークをすると、ライターの仕事のスタートとゴールがよく見えます。
 ライターの仕事のスタートは、「自分が気づいたことを(取材で知り得たことを)誰かに届けたい」だと思います。この場合で言うと、「5分で聞き出した仲間の情報を、他の人たちに伝えたい」がスタートライン。
 そして、ゴールは何かというと、このケースでは「へええ、○○さんって面白い。友達になりたいな」とか「○○さんと、この話題で会話をしてみたい」と思わせることになるでしょうか。
 抽象的な言葉で言い換えるなら、「伝えた相手の態度や思考を変容させること」。さらに抽象度の高い言葉で言うと「この話を知った前とあとで、世界が変わって見せること」がゴールです。
 さて、スタートとゴール、そして、そのために必要な4つの技術を意識してもらったところで、もう一度、ペアを変えて取材→他己紹介をしてもらいます。すると、二度目の他己紹介は、驚くほど魅力的なものになります。面白いのは、

・ 先に紹介された情報はもう伝えなくていいだろう
・ いやいやむしろ、先に紹介された情報をもっと深堀りしてみよう
・  この場にいるメンバーはみんなライターを目指す人たちだから、そこにからんだエピソードが心に残るのではないか
・  いやいや、みんなが取材するポイントが似てくるのであれば、まったく違った角度から質問をしてみよう

 といった、独自の工夫が生まれてくるところ。

 私がこのワークを最初に行うのは(そして今、この本の早い段階で紹介しているのは)、この一連がライターの本質だと思っているからです。

 まず、「何を問い、何を選び、どう伝えるのか」自体がライターの本質です。
 そして、実際にそれを経験したあとに、「もっと良い方法はないのか」と考え次の仕事に生かすという態度も、ライターの本質です。

●ライターは「書きたいこと」がなくてもいい

「書く仕事がしたい」と思っている人のなかには、「でも、何を書いていいのかわからない」とか、「書きたいことがない」という人もいると思います。
「物書きになりたいなら、当然書きたいものがあるはずだろう」と言う人もいるかもしれませんが、私自身は「書きたいことがない」人の気持ちがよくわかります。
 私も、書きたいものが出てきたのは、ライターになって20年近くたってからです(逆に言うと、書きたいものが出てきたので、コラムやエッセイの仕事をするようになったのです)。

 仮に、人生のゴールが幸せになることだとします。
「何を書いていいのかわからないけれど、書く仕事がしたい」という人は、「手段」が決まっている人。書くことで幸せになれればいいから、別にテーマは何でもいいという人です。
 一方「これを伝えたいから、書く仕事をしたい」という人は、「テーマ」が決まっている人。こういう人たちは、その「テーマ」が重要なので、ひょっとしたら手段は「書く」だけじゃなくて、映画でも音楽でも絵でもいい場合もあります。

 これは私見ですが(と言っても、この本は一冊まるごと私見ですが)、実はライターになる人は、私も含めて前者のタイプが多いように思います。
 自分には「これがやりたい!」といった、強いテーマがない。だから、テーマを強く持って生きている人に取材するのが楽しい。ライターになる人からは、そういう声をよく聞きます。

 私の場合は、ライター初日にヘアスタイルの記事をやってみなよって言われ、「へえ、意外と楽しい」と思って髪に関する専門ライターになりました。でも、ひょっとしたら勧められたのが料理の取材なら、フードライターになったかもしれませんし、スポーツの取材だったら、スポーツライターになっていたかもしれません。良くも悪くも、「書け」て「楽し」ければ、どんなテーマでも良かったのだと思います。

 以前、桜林直子さんの「世界は『夢組』と『叶え組』でできている」というnoteが話題になりました。ここに書かれていたのが、世の中には「自分でやりたいことがある人(夢組)」と「自分にはやりたいことがない人(叶え組)」がいて、このふたつのタイプはいいチームになれるのではないかという話でした。
 私もこの話に、なるほどと思ったクチで、「それでいうと、ライターは叶え組が多いな」と感じたものです。自分の主張を書くのではなく、誰かの言葉を、よりわかりやすく翻訳して伝える仕事なのですから、ライターは成り立ちからして叶え組だと感じます。(ちなみに編集者は「夢組」タイプが多いです。彼らは、自分が実現したい企画のために、私たち「叶え組」を集めるのです)

●ライターとは面白がれる人である

 といった、たとえ話をしたあとに、私がライターにとって一番大事な素養だと感じるのは、「対象に興味を持ち、面白がれる能力」だと思っています。
 もっとわかりやすくいうなら、「?」と「!」を、飽きもせずに行き来できる能力でしょうか。

 ライターの仕事は(それが、常に依頼から始まる仕事なのにもかかわらず)「これって、どうなっているんだろう?」の興味からスタートし、「なるほど、こうなっていたのか!」の興奮をエネルギーにして回転する仕事です。
 興味を持てなければしんどいし、取材対象(それが人であれ、事象であれ)を面白いと思えなければしんどい。しんどいだけじゃなくて、書く原稿だってつまらなくなります。ライターは、自家発電する必要はない。でも、取材対象が持つエネルギーをキャッチして面白がれないと、厳しいです。

 あー、それで、思い出した話がある。ある若いライターさんの話です。今から人の悪口書くので、嫌な人は読み飛ばしてね。

 私、先輩には生意気言いますが、後輩には大変優しいタイプです(自分調べ)。そんな私が、過去に一人だけ「お前なんか、ライター辞めてしまえ」と思った女がいました。私が静かにブチ切れたその日、彼女が私に何を言ったかというと、「私、ライターになってから、何十人も有名人にインタビューしたのですが、面白いと思える人、一人もいませんでした」と言ったんですよね。

 どんなに「てにをは」がおかしい文章を読んでも、「ライターとしての才能がない」とは思ったことがない私ですが、この人だけは、「ライターとしての才能が皆無」だと感じました。
 有名無名に関係なく、取材した相手を全然面白いと思えなかったとしたら(しかも過去に取材した人全員だとしたら)、それは①取材相手があなたには本音を話さないと強く心に誓った or ②あなたに、取材相手の魅力を引き出す能力がない or ③あなたに、取材相手の魅力を受け取るセンサーがないの3択です。
 そして、そのどれであったとしても、その人は完全にライターに向いていない。本人にもその旨、10倍やわらかい言葉で伝えました(にっこり)。

 もちろん、いつなんどきも興味深い話が聞けるとは限らない。そもそも、1ミリも興味を持てない分野の仕事を依頼されることもある。それでも、その人の話と世界との接点を探り、どの接地面で原稿を書けば一番面白くなるかなと考えるのが、ライターの仕事だと私は思っています。そして

・ その作業が(大変でも)楽しめる人は、すんごくライターに向いてる。
・ 楽しめなくても、諦めずに頑張れる人も向いている。
・  全然興味なかったのに、終わるころには「愛してる!」くらいなっちゃう尻軽な人には、天職です。

※「Think 2」了

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