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書き、稼ぎ、生きるための教科書:『書く仕事がしたい』佐藤友美著【試し読み①】

佐藤友美『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)は、ありそうでなかった「物書きとして、稼ぎ、生きていく」ための教科書。書く仕事を20年以上続けてきた著者が、「書くこと以上に大切な、書く仕事のリアル」について1冊にまとめました。

書く仕事とはどんな仕事で、どんな生活を送ることになるのか?  書く仕事がしたければ、どのような準備をして、どんなふうにデビューするのか?  書く仕事は選ばれし者しかできないのか?  “必要最低限"の文章力とスキルとは? どれくらい働けば、どれくらい稼げるのか? 心身を病まずに長く仕事を続け、仕事の幅を広げていくためには?

10月末の刊行を前に、2回にわたってその内容の一部を抜粋紹介する前編。

《PROLOGUE》
●この本は、どんな本「ではない」か

 この本は、文章術の本ではありません。
 この本を読めば、みるみる文章力がついたりもしません。
 もしもあなたがすでに物書きとして活躍し、この先はひたすら文章力を磨くだけと思っているのであれば、この本はおすすめしません。

 けれども、これから書く仕事がしたいと考えたり、長く物書きとして生計を立てていきたいと思うならば、お役に立てる部分があると思います。

 最初に結論を言ってしまいます。

 書く仕事で生きていくのに最も重要なのは、文章力ではありません。
 文章が上手いことと、書いて生きていけることは、イコールではないのです。

 もちろん、文章力がまったく必要ないわけではありません。でもくり返しますが、書く仕事で生きていくのに重要なのは、文章力(だけ)ではありません。
 この仕事は、おそらくみなさんが想像しているよりもずっと、「文章力以外」のスキルやものの考え方が大切な職業なのです。

「書きたい。でも自分には書く才能がないから無理だ」と思っている人がいたら、いったん、その思い込みを捨ててください。もちろん書く才能がある人はラッキーです。ですが、書く才能がなくても、この仕事は十分成立します。
 とくにライターは、プロスポーツ選手や、アーティストのように、選ばれしものにしかできない仕事ではありません。
 そして、独自の視点や切り口が必要だと言われているコラムニストやエッセイストのような作家業ですら、「文章力以外」のスキルやものの考え方が、文章力と同等以上に重要なのです。

●書く仕事を始めたら、どんな人生が待っているのか

 私が、それまで勤めていた会社を辞め、経験ゼロから「書く仕事につきたい」と思った21年前。世の中には「この仕事をするには何から始めればいいのか?」「物書きになると、どんな人生が待っているのか?」を教えてくれる書籍はほとんどありませんでした。
 その事情は、21年たった今もあまり変わっていません。今も昔も、文章術について教えてくれる本は(人も、講座も)たくさんありますが、「書く仕事そのもの」について教えてくれる本(人や講座)は、ほとんどないのです。

 たとえば、21年前の私が知りたかったことは、こんなことでした。

・ 書いて生きていく人生とは、どんな人生か。
・ 書く仕事には、どんな種類があるのか。どれが自分に向いているのか。
・ いつ、どんな場所で働き、いつ休むのか。
・ どのように仕事をもらい、どれくらい書けば生計を立てられるのか。
・ この職業のキャリアパスはどうなっているのか。何歳まで働けるのか。
・ 生活(たとえば結婚や出産やパートナーの転勤)と仕事はどう関係しそうか。

 そして、これらは私が教えるライター講座で、文章の書き方よりも多く聞かれる質問でもあります。

 先日、あるメディアの方からこんな話を聞きました。
 彼女はウェブで大人のための職業紹介ページを作っているのだけれど、そこで一番検索されている職業は「ライター」だというのです。
 そして、そこまでたくさん検索されているにもかかわらず、「ライターとはどんな仕事であるか?」を回答してくれる人がほとんどいないので、まだ「ライター」の職業紹介ページを作ることができていない、と。

 需要があるのに、供給がない。
 であれば、それについて書けば喜んでくれる人がいるのではないかと考えました(あとで詳しくお話ししますが、需要と供給について考える力は、書く仕事を続けるにあたってとても重要です)。それが、この本です。

●プロの書き手になる人、ならない人、なれない人

 遅くなりましたが、自己紹介をさせてください。佐藤友美(ゆみ)と申します。仕事仲間からは、さとゆみと呼ばれています。フリーランスのライターとして活動を始めてから、21年たちました。
 この21年の間に、たくさんの書き手の方とお会いしました。なかには一緒に仕事をした方や、私が編集者として仕事を依頼した方も大勢います。ぱっと顔が思い浮かぶライターやコラムニスト、エッセイスト、作家の先輩友人知人だけでも、おそらく200人くらいはいると思います。

 元気で書き続けている人もいれば、続けているけれど元気じゃない人もいれば、書く仕事を辞めた人もいます。
 もちろん、もっと自分に合う職業を見つけて辞めた人もいるけれど、本当は書き続けたいのに、やむなくリタイアした人もいます。
 長く書き続けることができる人と、できない人。その差は、いったい、どこ にあるのでしょうか。

 幸運なことに、私は初めて出会った編集者に、その差のうちのひとつを教えてもらいました。

 その編集者さんは学生時代の友人で、ある出版社の雑誌編集をしていました。私が「書く仕事がしたいのだけど、どうすればいいだろう」と聞くと、彼女は2人のライターさんを紹介してくれました。まずは、彼女たちに話を聞いてみるといいよと教えてくれたのです。
 私は2人の取材現場にお邪魔し、それぞれの仕事ぶりを見せてもらいました。

 後日、友人の編集者が「どうだった?」と聞いてきました。「うん、この仕事のイメージがわいたよ。ありがとう」と答えると、彼女はこう言いました。
「あの2人は原稿もお上手だし、うちの会社がお付き合いしているライターさんのなかでも、トップを争う売れっ子なの。でも、Aさんはこれからも仕事が増えていくと思うけれど、Bさんに仕事を頼む人は多分減っていくと思う」
「え? どうして?」と聞くと、「Bさんは締め切りにルーズだから」と、彼女。

「正直なところ、原稿は編集者でも修正することができる。でも、締め切りに遅れられると、こちらにできることはないんだよね。だから私は、原稿が上手くて締め切りに1日遅れるライターさんより、原稿はそこそこでも必ず締め切りを守るライターさんに頼む」

 この話は、当時の私にとっては衝撃でした。そして、この言葉を書き手になる前に聞けたことで、私の人生は大きく変わりました。

・ どうやら書く仕事に必要なのは、文章力だけではないらしい。
・  そして、彼女はたまたま締め切りについて話してくれたけれど、おそらく書き手として重宝される条件が他にもあるに違いない。
・ であれば、戦略さえ間違えなければ、私でも食べていくことができるかもしれない。

 彼女の言葉は、まったくの未経験から書く仕事を目指した私にとって希望でした。

●「書くこと」以上に考えてきた、「書く以外のこと」を伝えたい

 あれから21年たちました。
「そこそこでいいらしい」と割り切った文章は、そこそこレベルでとどまっているけれど、この21年間、途切れることなく仕事をいただくことができています。

 ファッション誌のライターからキャリアをスタートし、美容専門誌での執筆やオウンドメディアの編集長などの経験を経て、いまは書籍のライティングが仕事の半分を占めます。人の書籍も執筆しますし、自著もこれまでに8冊書きました。
 残り半分は、ビジネス系のウェブサイトでのインタビュー原稿の執筆。ここ数年でコラムやエッセイの仕事も増えました。書評コラムやドラマ評、子育てエッセイなど、いまは7本の連載を持っています。大学で記事制作の講義を持ったり、宣伝会議をはじめとする場で、ライター講座の講師もしています。

 よく「運とご縁で、ここまでやってきました」と言う方がいます。
 私も「よくここまで仕事が途切れませんね」と言われたときは「運とご縁でやってきました(にっこり)」と答えることもあります。

 でも、本当は違います。
 運とご縁だけで、物書きを20年以上続けることは多分できません。

 私自身には、書くための特別な才能はない。だけど、書きたかった。
 だから私は、「どうすれば、書く仕事で生きていける?」と考えました。書くこと以上に時間をかけて、書く以外のことを熱心に考えてきました。

 仕事が途切れないライターさんを観察し、ときにはその秘訣を直接聞き、彼/彼女がなぜ売れているのかを研究して真似してきました。
 いまでも毎月のように企画を持ち込みしていますし、これまで私がライティングした書籍61冊のうち、29冊は持ち込み企画です。いま連載しているコラムも、7本中3本は自分から提案しにいったものです。

 もし、運とご縁の神様がいるとしたら。その神様が現れるのを待っているのではなく、その神様に毎日アピールしまくって、目の前を何度も通ってもらう。何度も通ってもらえば、前髪をつかむチャンスだって増える。それが、私の物書き人生です。

 書く仕事を続ける工夫に関しては、私、ストーカー並みに粘着質で、ちょっとキモイかもしれない。24歳のときから、しつこくしつこく考え続け、試し、失敗して、考え直して、やり直して……をくり返しているので、私の腹の中をみなさんに見せると、ちょっとエグくて引くかもしれないです。
 でもそれくらい真剣に「書く仕事」に向き合ってきました。

 いまからお伝えすることに関して、おそらく「さとゆみさんは特殊だからできるんだよ」なんてことは、ひとつもないと思います。
 誰でもできるけど、あまり大事だと思われていないから、みんなやらないこと。なるべく少ない労力で大きめの効果があがることを、共有したいと思います。

 冒頭、ライターに必要なのは文章力(だけ)ではないと話しましたが、それでも「そこそこ」レベルの文章力は必要です。「そこそこ」レベルの文章とはどんな文章か。どこまで書ければ合格ラインなのか。その力を最速で身に付ける方法についても話したいと思っています。

●ライターからコラムニスト、エッセイストまで

 この本では、まずライターとして食べていくために身につけるべき力と、仕事を獲得するための戦略について、私や私の周りの書き手のみなさんがやっている方法を共有します。さらに後半では、コラムニスト、エッセイストなど、作家として活動していく方法についても触れたいと思います。

 CHAPTER 1 では、ライターを例にとり、この仕事がどんな仕事か、どんな生活が待っているかについて
 CHAPTER 2 では、ライターになる準備と、どうデビューするのかについて
 CHAPTER 3 では、書く仕事に必要な具体的なスキルと考え方について
 CHAPTER 4 では、心身を病まずに書き続けるために必要な考え方について
 そしてCHAPTER 5 では、キャリアをどう広げていくか、コラムやエッセイなどを書ける書き手になるためには、どんな工夫が必要かについて書きます。

 私はこれまで、たくさんの先輩方に、赤裸々なアドバイスをもらってライターを続けてくることができました。なので、私もみなさんに、できるだけ誠実に赤裸々に、「書いて生きていくこと」についてお伝えできればと思います。
 そしてなにより。私は、この仕事を、一生を懸けるに不足ない途方もなく魅力的な仕事だと思っています。そんな話も、みなさんとしたくてたまらない!
 お役に立てますように。 

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