30代、ひとつの恋を経て

恋愛に向いていない人生で、何をどうしたら関係を進めて行けるのかがわからない。

駆け算引き算、押しては引いて
そんな計算高くて高度な技術を持ち合わせておらず
傷つけてしまったかもしれないことを想像してはその罪悪感に傷つく。
恋愛に限らず人間関係の中で深読みしすぎるのが仇となり、苦しさを感じ生き辛い性格だなぁと嫌気がさす。

恋愛を楽しめやしないし、傷つきたくないのに想いばかりが大きくなって空回りするのも疲れるし恋愛したくないとさえ思っているけど、それでもやっぱり知らず知らずのうちに人は恋をする。

思わせぶりな口調の人になびき
期待して、破られて傷つくなんてバカバカしいけど仕方ない。相手が上手なだけなんだ。
たられば引っ張り出してもう変えられない過去を悔やんだりあのときこう動いていたらとかこう発言していたらとかそんなことを
ぐるりぐるりと巡らせてキリキリ痛む胃やズキズキ疼く心臓を抱えて日々を繰り返す。

そうしているうちに幾分かタフになったわたしの内側は、防御の姿勢を取れるようになったようで相手の言葉を鵜呑みにしないで態度で示させるということを学んだ。
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モテる男ってどんなひと?
ノリがよくて優しくてお酒もそこそこ飲めて
「あなたに興味があります」って顔で近づいて
「あなたのことが好きかも」って口調で褒めてくる。

大人数、みんながみんな酔いの回った状態で、
二人きりになったときに
じゃれついたのは私
手を取ったのはあなた。

容姿を軽率に褒め倒されて
しっかり両手を握られて、真剣な目で、ちゃんと聞いてってまっすぐな顔で、好きと言われたのは学生ぶりかしら。
10代のような触れるだけの、
いや、もしかしたら触れていないかもしれないキスをして、強く抱きしめられて、
そんなそれ以上特別なことは何もない非日常的な夜だった。

浮かれて舞い上がってしまうのは仕方がない、それはただの経験不足なんだけど
そうじゃなくて予防線を張る。
あなたがわたしを本当に好きならばわたしの所まで会いにきてよねって
良い女が口にするようなセリフを酔いの回る血液が、冷静に頭を回転させて溢れ出た。

よくやったと褒めてやりたい。
30代、恋愛経験ロクになし、
そんな女がモテる男のモテムーブを回避して
軽く吹くだけじゃ靡かない良い女ムーブができた。
圧巻である。

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会いにくると前のめりだったその人は
とうとう会いにくることもなく
連絡すらもつかなくなり、
私の気持ちだけが宙ぶらりん。

空をかする手のひらは今回も誰の手も掴むことはできなくて
それでも、私のことを案じてくれたたくさんの人の燃えるように熱く情熱的な愛に触れて(私はそう感じた)負ったのはかすり傷程度の深さで済んだ。
いや、正確には、気づけばそこまで治っていた。
出会ってたった数回のどこの馬の骨か分からないような私を気にかけてくれる世界があるだなんてそんな優しく幸せな人生って他にあるのだろうか。

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彼のことを悪く言うつもりは毛頭なくて
ただ、私が未熟者で期待してしまっただけのこと。
タイミングが違っただけのこと。
距離がある恋愛なんて人の心は薄れていくもの、きっとそう。
今回ここに書き記したのは、誰にも言えない想いを独り言のように刻みたかったから。

逆に今はとても満たされているような
心配して気にかけくれ、耳を傾け心を寄せてくれたたくさんの人たちの愛に浸ってゆっくり治っているところ。
愛に触れて生きている。
そんな経験ができたって私は感謝している。

ここ数年で恋愛観が相当レベルアップしている自覚があって、
それに伴って私のレベルアップも計れているのかしら。
気持ちなんて言わなきゃ伝わらないし言葉にしたところで気持ちなんて移り変わる、そう思えば何にも執着せずに誰も責めずにいられるんだと思う。もちろん自分のことも。
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これからも人生は続いていく。
長い長い終わりのないある種の絶望のような時間と経験が待っている。
それでもわたしはこのひとつひとつの経験を抱き締めて大切に抱えて歩いていきたい。
当てたい焦点は「恋が終わった」ことではなくて「いかに自分が愛されているか」ということ。

帰る場所がたくさんある
受け止めてくれる人がたくさんいる
案じてくれる人笑い飛ばしてくれる人
そんな愛の中で生きている。

私も愛を広げてそして、愛に触れながら生きていく。

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