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海に行くつもりだった

唐突に。
「海に行こう」って、二人で車に乗り込んで、無目的に海ほたるまでドライブをしてきた。
アクアラインはその名の通り、まっすぐに海の真ん中を走る道で、ひらけた空と遠くに見える都会の街の風景が広がる。
その景色にワクワクしたのは、海の上を走り始めて数分だけだった。
昨晩の雨が嘘みたいに、春の空はスッキリと晴れて青く、遠くに富士山が見えている。
だけれど、私達は気付いてしまった。

求めていた海は、こういうものじゃない。

海なんて行楽でしか行かないような埼玉育ちの旦那さんと、家から徒歩数分で延々と続く浜に出られる伊豆育ちの私。
私達が海に求めていたのは、ゴツゴツと岩の続く海岸とか、砂浜とか、桟橋から覗き込んだ水面に魚の影が見えるのとか、遠く水平線が空に混ざるのとか、潮のにおいとか、そういうものだ。多分。

海ほたるの展望台で、あさり焼きを食べながら、街の灯に沈む夕陽を眺める。

「海に行くつもりだった。」

どちらともなく呟いて、私達は笑った。

ああ、海に行くつもりだった。


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