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海に行くつもりだった リベンジ

「もう一度、海に行こう。」
って、車に乗り込んで、私たちはまた海を見に行くことにした。

先日とは逆の方向に針路を取って、大きな川を渡り、広い畑の中の一本道を、延々と走る。

私たちのドライブは、いつもカーナビを使わない。
(そもそも車にナビを付けていない。)
時々、スマートフォンの地図アプリを使うこともあるけど、だいたいは方向を決めて走るだけだ。

道路沿いの町並みが、ふるい農家の集落から、石造りの港町の商店街へと姿を変えていく。

そうして私たちは、ついに海へとたどり着いた。

ゴツゴツとした岩場の海岸に降りて、岬の先の灯台の下、まっすぐに水平線を指差す。

「あの向こうがアメリカだよ。」
「うん。知ってる。」
「遠いね。」
「遠いね。」

波の音がする。
潮を含んだ風は、重く髪に絡んでいく。

足元の岩は波に洗われて、スプーンでくり抜いたように丸く削れていた。ポツポツと穴のあいた石の表面に触れてみる。

「ここの石は、砂が固まって出来ているんだよ。」
「なるほど。だからすぐに削れてしまうんだね。」

それから私たちは、柔らかい岩の上を好き勝手に散策し、すっかり暗くなるまで、波の音を聴いて過ごした。

遠くから名前を呼ばれて顔をあげると、旦那さんが私の後ろの何かを指差して微笑んでいた。

振り返ると、灯台が煌々と灯りを放ち、静かに夜の海を照らしている。

「海だね。」
「うん。海だね。」
「また来ようね。」
「暑くない時期がいいね。」


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