家のつくりやうは夏をむねとすべし

いつの間にか秋本番で、喉元過ぎれば猛暑を忘れている。
徒然草をバイブルとしている田舎者の私は、兼好の生き方に刮目する。

家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころわろき住居(すまひ)は堪へがたきことなり。深き水は涼しげなし、淺くて流れたる、はるかに涼し。こまかなるものを見るに、遣戸は蔀の間よりもあかし。天井の高きは、冬寒く、灯(ともしび)くらし。造作は、用なき所をつくりたる、見るもおもしろく、よろづの用にも立ちてよしとぞ、人のさだめあひ侍りし。


さて、訳してみよう。

ダンナさん、家は夏を基準に考えなさいましな。
冬だったらどんなところでも暮らせますからね。
ご承知でしょうが、暑い時期に最悪の家ってえのは、そりゃ耐え難いですぜ。
庭の池だって深いのは暑苦しく感じるもんだし、ちょろちょろと小川が流れるような方が、ほんと涼しく感じるってもんでさあ。
もう少し詳しく説明させていただきやすが、部屋の扉は半開きにしかならない蔀戸より、ガラガラッと横開きの戸が、細かいものを見るのに明るくてお薦めですよ。
あ、こりゃ当たり前のことでござんしたね。
それとねダンナ、天井が高いと温ったかい空気が上へ行っちゃうし、部屋も暗く感じるから、冬は寒くていけませんや。
あとね、敢えて無駄な空間ってのも、なかなかよろしいもんですぜ。
広々として見た目にもゆとりがありやすし、余裕があるから使い勝手に重宝するってもんでさあ。
などと、よそ様がああだこうだと講釈を垂れているのを聞いた。


最後に「人のさだめあひ侍りし」のオチがあって、お前はいったい誰なんだ、と突っ込むところである。
エッセイスト吉田兼好の、面目躍如といったところか。
このように最後で話を落とすパターンは何か所か散見できる。

早くもお歳暮商戦が始まる頃だし、三か月弱でクリスマスとお正月が来る。
たった三か月、されど三か月である。
一日を消化するごとに、カンナで身を削られている気分になる。

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