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フランス語はすごい

 もしあなたが日本人で、とりあえずスーパーへ行って食パンを買ってこられる程度の日本語能力があるとすれば、次はフランス語を学んでみるとよい。言語に優劣はないというが、日本社会において、フランス語ほど努力対効果のある言語はない。こう書くと、英語が世界共通語だとか、中国語が実務的だとか、自分の利益にならないことを盾にとって反論してくる輩がいる。けれども、英語は誰も学んでいるし、中国語は実用的でない。どちらも国内では宝の持ち腐れになり、海外に出ても通訳がいれば不自由しない。学んでいるだけで利益を享受できるのが、フランス語である。


 フランス語を学ぶと、尊敬される。少なくとも、周囲の注目を集め、ちやほやされる。日本人にとっては、「おフランス」がいまだに抜けていないらしい。英語の時とちがい、わたしがフランス語をはじめて以来、人々は進捗状況を熱心に聞いてくる。通った試験が、難関の中国語か初級のフランス語なら、人々は後者の方に軍配を上げる。そして、頼んでもいないのに、みな口々にわたしを「すごい」と褒め称えてくれる。このことから、フランス語には人を勘違いさせる力があると推察できる。


 フランス語の学習において、習得度合いは重要でない。あなた自身がフランス語を学んでいるという事実が、他人の勘違いの誘因となる。もしできるならば、日常的な挨拶や単語を覚えておくことをお勧めする。そうすれば、雑貨屋に行った時などに、小物に書かれた文字がフランス語で、日本語で何それという意味だと説明できる。尊敬がほしいままになり、場合によっては崇拝される。もしかすると、信者ができるかもしれない。


 「オリンピックでは第一公用語」というのが、フランス語のテキストにみられる常套句である。ただ、四年に一度どころではない効果を上げることは明らかである。


 フランス語はすごい。

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