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仮)金融商品基礎講座 #3

5.将来価値(Future Value)

 「将来価値」とは、文字通り「特定の将来時点における価値」のこと。現在保有する金銭の価値が一定期間後にいくらになるのか?を聞いているわけです。

問1)以下の①と②のどちらを選ぶことが合理的でしょうか?
 ① 今100万円を受け取る
 ② 1年後に100万円受け取る

 現在の100万円は、1年後であっても名目上は100万円であることには変わりないと考える方も多いかもしれません。実際に、高校生向けの特別授業で同じ質問してみると意外にも②を選択する人が多くいました。今もらっても使い道がないので、将来のためにとっておきたい、という考えなのでしょう。

 しかしながら、この考え方は合理的ではありません。問題では金利についての記載がありませんでしたが、手元にある資金を運用に回せば利子を稼ぐことが可能です。金利がr%であった場合、今受け取った100万円は、1年後の将来において

 100 *(1+r)万円

に相当する価値となります。r=1%であれば、101万円です。したがって、金利(r)がゼロ以上であれば、①で今受け取れた資金をこれから1年間運用して利子を稼ぐ方が、②と同等以上の価値があるといえます。

 結局、将来価値というのは、単に金利で運用した場合の投資成果のことであり、手元資金のn年後の将来価値は以下の式で表すことができます。

 将来価値(FV)= 手元資金 * ((1+r)^ n )

 


6.現在価値(Present Value)

 「現在価値」とは文字通り、現在の価値のこと。前章では敢えて「手元資金」という単語を使いましたが、現時点で保有している資金の合計額のことでもあります。

 しかしながら、「手持ちの現在価値はいくら?」のような使い方を聞いたことはないと思います。「現在価値」という用語は、単独で使用するケースは想定されていないためです。「将来時点の価値」に対する「現時点の価値」といったように、あくまでも「将来価値」との対比で使用される概念と言えます。下の例題で考えてみましょう。

問2) 金利r=3%のとき、3年後の100万円の現在価値は?

 「3年後の100万円」というのは「将来価値(FV)」です。この将来価値は、現在価値(PV)を金利rで3年間運用した成果であると考えれば

 100万円 = PV *((1+3%)^ 3)

と表わすことができ、これをPVを逆算する式に変形すると、

 PV = 100万円 /((1+3%)^ 3)
    = 100万円/(1.03^3)
    = 約91.5万円

となり、91.5万円が現在価値となります。

 このように、現在価値と将来価値は、将来時点までの期間n年と金利r%を使って以下の関係式が成り立ちます。

 FV = PV *((1+r)^n)
 PV = FV/((1+r)^n)

 では、これを踏まえて、次の問いを考えてみましょう。

問3) 金利が2%のとき、以下のどちらを選ぶことが合理的でしょうか?
 ① 今、94.2万円を受け取る
 ② 3年後に100万円受け取る

 問1では2つの選択肢が同金額であったため、金利を稼げる方が有利と直感的に判断することができました。ところが、時点も金額も異なる比較は容易ではありません。このようなケースで正しい比較を行うためには比較時点の統一が必要で、その際に現在価値と将来価値の関係式を使用することになります。

 一般的に、比較時点を統一するときは現在時点に合わせる、つまり「現在価値」で比較します。選択肢が2つであれば、将来時点に合わせる計算も難しくはありませんが、選択肢が3つ以上になると、現在価値で比較する方が複雑化を避けられるためです。

 では、②の現在価値を計算してみましょう。n=3、r=2%ですから

 PV = 100万円 / ((1+2%)^3)
    = 100万円 / (1.02^3)
    = 94.2322万円

となり、問3の答えは②を選択することが合理的となります。 

  このように、将来価値と金利から現在価値を算出することを金融用語で「割り引く」といい、「割り引く」ために使用する金利を「割引率」ともいいます。また、将来価値から割り引いて得られた現在価値のことを「割引現在価値」ともいいます。

 先に結論を話してしまうと、金融商品の理論上の価格は例外なく「割引現在価値の合計」で表すことができます。以降では、その考え方を債券や株式、デリバティブに至るまで順を追って説明していきますが、この「割引現在価値」の概念を理解することが極めて重要です。

 

#4につづく

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